第6話 戦闘の経験値
-side オーウェン-
「そこまで--!!」
エリーゼさんの、言葉でブランは剣を引っ込める。エリーゼさんがこちらへ寄ってきて、言葉をかける。
「オーウェン。お前、弱いな。素質はあるはずなのに」
「ぐ……。う……、はあ。俺、戦闘経験ないので」
「それにしてもだ。もう少し反撃したらどうだ?剣ではなくても、拳で反撃できるだろる?」
「いや、あの……」
俺、一応、貴族だから、バトルジャンキーな戦い方習った事無かったんですけど--そんな言葉が出かかるくらいには、俺も悔しかったらしい。今まで負けたことは、あまり無かった上にここまでの完敗だからな。それこそ、師匠だった騎士団長くらいだ。
「はあ、俺に、それができるのは、姐さんだけっすよ……全く。いきなり俺と戦わせるなんて、可哀想だな」
--っと思ったが、出来なくて当然らしい。確かに、拳で反撃したところで、ブランの通用したかと言われれば、無理だろう。
というか、エリーゼさん。ブランさん相手に拳でボコボコにしてたの、やっぱり化け物だ、怒らせないようにしよう。
「それもそうだねえ。よしっ!次に行こう、次」
「え?まだあるんですか?」
「もちろん!ここ、リオンシュタットの冒険者ギルドで、そう簡単に飯が食えるとは思わないでほしいねえ。あと、10人とは戦って貰うよ」
待て待て待て。これだけ頑張らないと、飯が食えない?エリーゼさんの話を聞く感じ、やっぱり、結構過酷な町じゃねえか、ここ!騙したなユリウス!ここには、いない親友に対して、文句を言いたくなる。
「フォッフォッフォ!リオンシュタットは過酷な町だという事がわかるじゃろう?ワシも最初来た時は驚いたわい。久しぶりに新鮮な反応で懐かしいのう」
次に、出てきたのはお爺さんだった。
あの--さっきのブランより、強くないか?この人。歴戦の猛者の空気感漂ってるんだけど--?
「それでは、時間もないし、サクサク行くぞ!」
ちょっと待て?サクサク行くって、俺が負ける前提でこの試合、組まれてないか?
もしかしなくても、魔境すぎるだろ、リオンシュタットの冒険者ギルド。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「結局、10戦全敗かよ。はあ--」
「はっはっは--!!落ち込んでるのかい?エリート貴族くん」
「オーウェンだ。全く、まさか、ブランまでこんなに強いとは思わなかった」
「おいっ--!失礼なやつだな。俺は、この町でも、一番強い冒険者だぞ」
「認めるけど、今でも、信じられん」
本当に、今もいい感じで、酔っ払ってるブランが、ここまで強いとは?人は見かけによらないという事なんだろう。
「おい--!思ってることが筒抜けだぞその顔。まあ、良いけどよ。お前さんも最後の5戦くらいは良い試合してたじゃねえか。成長スピードに驚いたぜ」
「ああ……、優しいな。でも、慰めだったら、大丈夫だ」
「慰めじゃねえよ。実際、観戦していた奴らも驚いてたぜ。本来のリオンシュタットの歓迎会は、来た新人をボコボコにするっていうのが、趣旨なんだけどな。……ほら、ここら辺は、危ないから、冒険者ランクがCランク以上じゃねえと入れないようにはなってる事は知ってるだろ?」
「ほーー。は?待て?そんな事、聞いてないんだけど?」
「え?お前、まさか、本当に冒険者ギルドカード持ってないの?さっき、うちのギルドカードいらないとか言ってたけど」
「あ、ああ--」
「はあーー、一応、後で姐さんに、うちのギルドカード渡しておくように、頼んでおくわ。それがねえと、この町では色々不便だからな」
「あ、ありがとう。俺、1勝も出来なかったのに」
「気にするなよ。勝てるように作られてないからな。元々、ここの町に来るような奴は大体腕自慢で、戦いが大好きな冒険者ばかりだからな、一回自分の実力がどのくらいか客観的に、知る必要があるという事だ。周りが見えてない奴らは、一人で突っ走って、危険だからなあ」
「ああ--。確かに、一旦この洗礼を受けた者なら、間違って、魔境にいきなり入る事もないか」
「そういうこった!--って、事で、お前も、もうリオンシュタットの一員だな」
「ああ--」
というか、今の理屈から言うと、自分から俺は魔境へ入ることなんて、絶対ないから洗礼受ける必要なかったんだが?
腕自慢の冒険者でも無いし、家の事をやりながら、のんびりヴァイオリンでも弾こうと思っていたのに、いきなりこれとは……本当に、魔境に隣接している町は思ったよりも過酷らしい。
「やあ、オーウェン楽しんでるかい?」
「あっ……!姐さん!こいつにギルドカード渡してやってくれよ」
「言われなくても……、これだよ。はい」
「あ、ありがとうございます」
そんなことを考えてると、エリーゼさんがやってきて、冒険者ギルドカードを貰った。ランクはCと書いてある。ブラン曰く、この町では最弱のランクだ。あんな、戦いでも、一応、合格点は貰えたようである。
「というか、飲み過ぎだよ、あんた。仮にも、オーウェン様は領主だ。こいつ呼ばわりは、場所が場所なら、不敬罪で捕まるよ」
「良いじゃねえか、ここはリオンシュタット!!貴族も平民もかんけえねえ!無礼講だ!」
「それ、平民のあんたが言うことじゃないからね。全く、すまないな、オーウェン様。ここはこう言う場所だ」
「いえ。--良い場所ですね。ここは」
貴族、平民、関係ない--。そんな、言葉を堂々と言えるくらいに、自由な場所。
懐かしい前世の記憶を思い出しながら、気づくと俺はそう呟いていた。
どうやら、俺が今までいた貴族社会は、俺にとって、少し窮屈だったようだ。
「そう言ってもらえると助かるよ!全く、お前さん、頭が柔らかくて助かるねえ!よっし!今夜は、あたいも久しぶりに飲むか!!」
エリーゼさんが、そう言うと、周りの冒険者たちも、賑やかになる。歓迎会--貴族社会にいた時の社交的な会とは違い、本当に、歓迎されているようである。
意外と、楽しい生活が送れるのかもしれない。今日は俺も飲むか。
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