第21話 ニーナの過去5
シーンとした外の空気に私は驚いていた。
あれ?………魔物は?
「早くでてドアを閉めろ!!」後ろからはまだ誰かが怒鳴っている。
中とは対照的に外には静けさがあった。
え?どういうこと?
ふと、足元を見ると近くに兵士の格好をした人が血だらけで倒れていた。
外の静けさに中の人達も気づいたようで怒鳴り声も止んできた。
「え…魔物は…?」
しかしその静けさは悲鳴とともに一瞬でかきけされた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲鳴は中からだった。
大量の魔物達が一斉に二階から押し寄せてきたのだ。
「こいつら……二階から入ってきやがったぁぁ!!」
魔物は背後から子供達やシスターを襲っている。
私に悪口を言っていた男の子は腕を噛みちぎられそうになり泣き叫んでいる。
シスターテレサは背後から頭を斧で叩き割られた。
他の子供達も次々に襲われ、本当の地獄と化した。
私はその光景を黙って見ている。
おじさんの兵士がドアに向かって逃げてきた。
魔物も後ろから追ってくる。
私はその時、自分でも訳がわからない行動をとった。
なぜ自分がそんなことをしたのか、体が勝手に動いたのだった。
私はドアを閉めたのだ。
そしてものすごい早さで倒れている兵士の近くに落ちていた剣をとり、ドアに閂のようにさしてドアを開けなくした。
私はなぜこんなことをしたのだろうと思った。
自分でもわからない。
わからないが、妙な気分だった。
この気持ちは何?
私はドアを閉める直前のおじさんの兵士の顔や、新人の兵士の顔、若いシスターの顔を思い出した。
三人とも私を見ていた。
その三人はとてもおかしな表情だった。
私を見て何か初めて見る物に驚いた表情……?
そうだ。
みんなが驚いていたのも仕方ない。
きっと私は笑っていたのだ。
満面の笑みで。
教会は二階部分から炎によってどんどん燃え広がっていった。
私はその光景をただじっと見つめている。
しかしそれも数秒の出来事だった。
突然物音がして誰かが教会の裏手からでてきた。
私はそれを目の端にとらえると直ぐ様森の中へ走った。
さっきまで恐怖心なんてなかったのに急に込み上げてきたのだ。
しかし、走り出した私の背中に聞き覚えのある声がした。
「ニーナ!!待ってくれ!俺だ!」
私は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「………ウォーカー…さん?」
ウォーカーさんはボロボロの格好で走ってきた。所々血もでている。
「…ニーナ、よかった無事だったんだな。」
「…ウォーカーさん、どうしてここに…」
「教会の方から煙が見えたから急いできたんだ。何かあったんだと思って……。」
「その傷は…」
「あぁ。ゴブリンだ。たくさんいたから中々教会に近付けなかったんだ…だけど君が見えたから…」
私はまずいと思った。
一番見られたくない人にあの瞬間を見られてしまったの?
「……ウォーカーさん…、どこから見てたの?」
「あぁ君が……教会からでてきたところからだ。」
見られていた。私がみんなが襲われているのにドアを閉めて開かないようにしたところを…
最悪。
「私のこと………軽蔑したでしょ?」
私は恐る恐る聞いた。
「軽蔑?どうしてだい?……君が教会のドアを閉めたことか?」
やっぱり見られていた。
終わりだ。
「私は……みんなを見殺しにした…。体が勝手に動いたの。…みんなを殺したのは私だ。」
ウォーカーさんはまっすぐ私の方を見つめて私の話を聞いている。
「ウォーカーさん?私のことを嫌いになったでしょ?軽蔑したでしょ?私は教会のドアを閉める時、笑っていたの。みんなが魔物に殺されるのを見てきっと楽しんでいた……。ねぇ?なんとか言ってよ。私も死んだほうがよかったよね!?」
ずっと黙っていたウォーカーさんが口を開いた。
「………君は間違えていることが1つあるよ。」
「間違えていること?」
「そうだ。確かに君はドアを閉めてみんなを見殺しにしたのだろう。それは良いことではないがね。
ただ………君は笑っていなかった。」
「………え?」
「君は笑ってなんかいなかったんだ!ニーナ……。
俺は……」
ウォーカーさんは袖で目を擦った。
「俺は……、あんなに悲しい顔をして泣いている子を初めて見たんだ。」
……え?え?悲しい顔?どういうこと?
「何度でも言うよ。君は笑ってなんかない。楽しんでなんかなかったんだ。君は悲しんでいたんだよニーナ。あまりにも苦しくて心がもう限界だったんだよ…」
目から涙がスーッとでてくるのがわかった。
「辛かったんだろ?ずーっと辛い思いをしてきたんだろ?すまなかった……。本当に…」
どうしてウォーカーさんが謝るの?
私は本当に笑ってなかったの?
「すまない。君を1人にさせてしまった。でももう大丈夫だ。」
ウォーカーさんが抱き締めてくれた。
なんだか懐かしい匂いがした。
「もう辛い日々は終わったんだ。」
涙が溢れだして止まらなかった。
私は……あの時泣いてたんだ。
辛くて、辛くて、どうしたらいいかわからなかった。
ただ、あの地獄のような教会の世界と私との間に壁がほしかった。だから私は扉を閉めたんだ。
「ウォーカーさん……私、私は、みんなを殺してしまった……これから、どうじだらいいの……」
涙で声がうまくでなかった。
「それは君の心が限界を向かえてたんだよ。どうしようもなかったんだ。それに…俺は君が生きててくれればいい。生きて償って……そして幸せになってほしい。」
「幸せ??………そんなの、どうしたらいいかわからない!私は…幸せになれるわけがない!!」
「頼む。俺からの最後の願いだと思って聞いてくれ…。」
最後……?なんでそんなこと言うの?もう会えないみたいに…
私はウォーカーさんの背中に回していた手にベトっとした感触を感じた。
手を見てみると血がベットリついていた。
「……そんな!ウォーカーさん!血が!」
「あぁ……君を追いかける時、背中からやられたみたいだ…。大丈夫。さっきから痛みは……感じない。」
そう言ってウォーカーさんは倒れた。
「ダメ!ウォーカーさんしっかりして!」
「……これを持っていくんだ……俺にはもう必要ない…」
ウォーカーさんは布袋を私にくれた。
中を見るとたくさんのお金が入っている。
「ウォーカーさん!こんなのいらないよ!嫌だ嫌だ!1人にしないで…」
「ニーナ。さっきも言ったとおり……辛い日々は終わったんだよ。これからは自由に生きて、色々な人と…出会って、色々な物を見て、色々な経験をして、泣いて、笑って、怒って、そして幸せになるんだ。」
「わからないよ!どうしたらいいの……?」
「幸せは自分で見つけるものだ…。いいね?君はきっと幸せになれる………。」
「ウォーカーさん…!!目を開けて…お願い……」
ウォーカーさんは目覚めることはなかった。
私は動かなくなったウォーカーさんの側で泣いていた。
これから1人でどうしたらいいかわからなかった。
しばらく泣いた後、ウォーカーさんから離れ、森の中を歩きだした。
幸せを見つけるために――――。
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