第16話 理由
村に戻ったサト子達は村の人に頼んで傷の手当てをしてもらった。
洞窟の魔物を退治したことは村中に広がり、感謝された。
やはり村の近くと言う理由もあって村人は魔物に怯えていたようだ。
グレイシアの埋葬も村の中の墓地にしてもらえることとなった。
この埋葬はサト子がリチマンを救ったことを理由にしてリチマンにも埋葬を手伝わさせた。(リチマンを救ったことも村中に伝わっていたためリチマンは断れなかった。)
しかし、リチマンは最後までサト子達に礼を言うことはなかった。
リチマンと別れる時にノペルが言った。
「あなたはとても心がすさんでますね。」
それを聞いたリチマンは顔を真っ赤にしてブツブツ言っていた。
サト子はまたノペルがはっきりと言ったので驚いたが、少し笑ってしまった。
その間もニーナはずっと暗い表情だった。
村の人達からはお礼にカッペをたくさんもらった。それに宿代もタダになった。
ノペルがほら、言ったとおりでしょ?と言いたげな顔をしたのでサト子は敢えて触れないようにした。なんだかむかついたからだ。
「はぁ……とにかくもうクタクタ。早く休みましょう」
宿に戻る途中サト子が言った。
「そうですね。手当てをしてもらいましたがまだ身体中が痛いです……サト子さんは体の傷はどうですか?」
「私の傷は全然平気。背中を打ったから痛むかと思ったけど大丈夫みたい……あれ?なんだか擦り傷も治りかけてるような…」
「治癒能力が早いですね………若さですか?」
「バカッ。若いけどこんなに早く治るのはおかしいでしょ?てか……ノペルも同じくらいじゃないの?私17だよ?」
「僕は20ですよ。もう大人です。」
「意外と大人だったのね。」
でも本当に回復が早いような気がした。これもこの世界にきて身体能力が上がったせいなのかな?
「そういえば…。」サト子は村の人達からお礼に食べ物と服ももらったのを思い出した。
「村の人から服ももらっちゃったー♪いいでしょー」そう言ってサト子は新しい服を見せびらかした。
「……僕見えないんですけど。」ノペルが笑いながら言った。
「それは残念。いい感じなのに!何か素材もいいやつみたい!」服をくれた防具屋の主人によるとこの服は中々丈夫な素材でできているらしくある程度の衝撃も和らげてくれるみたいだ。
「これで私の防御力はぐーんと上がったわね!」
「サト子さんは攻撃力もあげないといけませんね」ノペルの嫌味でサト子は武器がなくなったのを思い出した。
「そうだ…。武器がなくなったんだった。どうしよう…」
「まず木の棒でよく戦ってきましたね。」
「あれが使いやすかったの!………まあ森の中で探してみる。」
「ちゃんとした武器買いませんか」
「だってお金ないんだもん。」防具屋さんは服くれたけど武器屋さんは何もくれなかったな…。
まあ、いいか。あまり物騒な物持ち歩きたくないし。
「これからも戦いは避けて通れないでしょうし、そろそろ自分に合った武器を見つけないといけないですね。」
「わかってる!」私も強くならなきゃ。
「…ニーナは私どんな武器があってると思う??」
サト子が聞いたがニーナはずっと暗い顔をして黙ったままだった。
「……きっとグレイシアさんのことをまだ引きずっているのですよ。そっとしてあげましょう…」
ノペルが耳打ちしてきたのでサト子はうなずくしかできなかった。
宿屋でサト子は一人部屋にいた。
「はぁー、今日は疲れたなぁ…我ながらあんなのと戦ってよく生きてた…」まあ倒したのはノペルだしほぼ戦ってたのもノペルだけど。
部屋に鏡があったのでサト子は鏡に自分の背中を写してみた。
(やっぱり……アザもできてない。)魔物に放り投げられて地面にたたきつけられた時はあんなに痛かったのに、今は痛みすらない。
「そういえば……」
サト子は地面に叩きつけられた時一瞬記憶がよみがえったのを思い出した。
「あれは……お母さん?」
サト子が思い出したのは熱が出て母親に看病してもらっていた場面だった。
「でもいつの記憶だろ……まさか、ヒカル君に振られた日、私はびしょ濡れだったし風邪をひいた?………まさか風邪で私死んだの…?」
サト子は首をふった。
いやいや、風邪くらいで死なないか…
「それに…熱が出た後がまだ思い出せない…いったい私どうしちゃったんだろ?」
サト子がうーんと考えごとをしているとガチャっとドアが開いて頭をタオルで拭きながらニーナが入ってきた。
風呂に行っていたためか顔が少し赤らんでいる。
「あ、ニーナ明日のことなんだけど…」
ニーナは頭のタオルをとってサト子を見た。
「明日またグラインドンの王様のとこに行こうと思って…。ほら、魔物を倒した報告して誉めてもらいたいじゃない?」
そう言うとニーナは頷いた。
「……。」
(ニーナも疲れてるよね。明日には元気になってくれてるといいけど。)
「じゃあ、今日は疲れたし寝よっか…」
そういってサト子がベッドに腰掛けるとニーナはサト子が座っている横にチョコンと座った。
「ん?どうしたの?」
サト子が聞くとニーナはサト子をチラチラ見ながら言った。
「……今日は…あの、ありがとう。」
サト子は何に対してのお礼なのかわからなかったので「なんのこと?」と聞いた。
「…私を止めてくれた。」
「あぁ……」サト子はニーナがニーナ自身を刺そうとしている場面を思い出して悲しくなった。
「…あなたがいなかったら私はあの時自分を刺していた…」
「もう…本当に無事でよかった!あんなことはもう二度とごめんだからね!」サト子が敢えて笑顔で言った。
「うん。二度としない…。でもどうして助けてくれたの?また、目の前で困ってる人がいたからって理由?」
「それもあるけど……私たちもう友達なんだから。友達が死にそうにしているのに助けない訳ないじゃない。」
「…友達?会ったばかりなのに?」
「そう。会ったばかりとか一緒に長くいた時間とか、そんなの関係ない。私はニーナと仲良くなりたいと思ったしニーナのことを知りたいと思った。それにニーナも私を助けてくれたことあるでしょ?……だから、ニーナが自分を刺そうとしてるのはすごく悲しかった。自殺するってこと、一番やったらいけないことだよ。」
「……どうして?」
「それはね…ニーナが死んじゃうことで辛くなる人がいるから。」
ニーナはサト子の顔を見た。
「え?」
「ニーナのお母さんやお父さん。」
ニーナは俯いた。
「私は施設にいたって聞いたでしょ?私は……両親に捨てられたの。そんな私が死んだって親が悲しむ訳がない。」
「違うよ。絶対違う。子供が死んで悲しまない親なんていない!!ましてや、自分の子が自殺なんかしたら一生苦しみ続けるよ!悲しまない親なんて本当の親じゃない。ニーナを施設に預けたのだって何かそうしなければならなかった理由があるはずだよ。」
ニーナは聞いたことがある言葉だと思った。
「それにね、私。私もニーナが死んだら辛い。あと多分ノペルも。」
「お母さんとお父さん……あと…」
「そう。私、サト子。」サト子は自分を指さした。
「……あなたも?」
「当たり前でしょ?ニーナは友達なんだから!」
「……友達?」ニーナはなぜだか涙がでてきた。
「……私……私は誰にも必要とされない…親にも。…それに私……あなたに迷惑かけたり……私といたらあなたが不幸になるんじゃないかって……グレイシアの時みたいにあなたの幸せを奪ってしまうんじゃないかと思って…」
ニーナがずっと黙っていたのはそんなことを悩んでいたの?
サト子はニーナの声が震えているのがわかった。そしてノペルが言っていたことを思い出した。『…過去に何かありましたね?』
ニーナは今までどんな辛い思いをしたのだろう…どれだけ辛い思いをすればこんなに自分を追い詰めてしまうことなるの?
サト子はニーナを力強く抱き締めた。
「…え?」ニーナは驚いたようだった。
「ニーナの過去に何があったかわからない。けど……私はニーナと一緒にいたい。ニーナと友達でいたい。辛いことがあれば助けたい。なぜなら私はニーナが大好きになっちゃったんだから。……そうだ!」
サト子はポケットからピンクのウサギの人形を取り出し、ハイッと言ってニーナに渡した。
「………なにこれ?」
「それあげる!ランラビって言うの。友達の印!お腹を押すと変な声をだすのよ。」
ニーナは人形のお腹を押してみると人形はギャァァとこの世の物とは思えない悲鳴をあげた。
「………………なにこれ。」
今まで誰にも、何かをもらったことなんてなかった。
ニーナは涙を流しているのを知られたくなかったので服の裾で目をこすった。
「これが友達の印。だから…誰にも必要とされてないなんて言わないで?お願い。私はニーナが必要だし、幸せになってほしいんだよ。」
ニーナの中で、何かが弾けた。
我慢できなかった。
「あ"ぁぁぁぁぁ……」ニーナはサト子に抱き締められながら感情をさらけ出して泣いた。
……そうだ。
あの時もこんな感じだった。
ニーナは過去を思い出していた―――。
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