第45話 未来
「リージュ様、そう落ち込まないでください。私達メイドは慣れておりますから。最中であっても、空気のように仕事をするだけです。お気になさらず」
私の静止を待たずに部屋へ入ってきたネフィとメイドは、淡々と食事の用意をしている。恥ずかしくて隠れたのも、なんだか馬鹿らしくなってしまった。
そうは言っても、薄衣一枚で人前に出るのも
寝室には
「……あの、ネフィ?」
アルは上機嫌でカトラリーを手に取っているけれど、お昼から少し豪勢な、そしてあからさまな料理に私は頬を引くつかせる。どれも精が付く食べ物だ。昨夜の夕食もそうだったなと思い出す。鶏の肝のワイン煮や、この辺りでは貴重な牡蠣の燻製まであった。
アルは王太子だから世継ぎが必要なのは分かっているけれど、今までとは違う重責を感じる。国をよくする事も大事だ。それと同様に、世継ぎを産む事も王妃の大事な仕事。
私はもうひとり身を通すんだと思っていた。十八になるまで求婚者はいなくて、実家も従兄弟が継ぐ。結婚なんて縁遠い話しだと思っていたのに、それさえ飛び越えて世継ぎを望まれている。
私が詰め込んだ知識は、全て領地経営に関するものだ。子供の育て方は多少は知っている。従兄弟は二つ下だから、たまに領地に来た時は遊んでいたし、お漏らしの後片付けくらいはやっていた。でもその程度だ。
自分の子供ともなれば、責任が全然違う。もちろん乳母はついてくれるだろうけれど、任せっきりにはしたくない。お母様も、乳母の援助を受けながら私を育ててくれた。何より好きな人の子供だもの。私の手で育てたい。
不意に口を閉じた私に、アルが怪訝な顔をする。
「リリー? 嫌いなものでもあった?」
その言葉を、ネフィが即座に否定する。
「リージュ様に好き嫌いはございません。全て私が監修しておりますから」
きつめの口調で断言されても、アルはにこやかに応えている。私に仕えてくれている事にも、惜しみなく感謝していた。
それなのに、何故かネフィはアルに対して当たりが強い。一度聞いた事もあるけれど、上手く
そんな二人を見て、笑いが込み上げてきた。つい、くすりと声が漏れて、視線が集中する。変な所で同調するんだから。
「ふふ、二人が仲が良くて嬉しいです」
そう言えば、ネフィがにがい顔をした。
「仲が良いなど、恐れ多い。私はただのメイドでございますから」
それに反して、アルは嬉しそうだ。
「うん、ネフィはね、リリーの事を色々教えてくれるんだ。好きな物や場所をね。今度一緒にミネス湖畔に行こうよ。ご両親とよく行ってたんでしょう? リリーが好きな景色を一緒に見たい」
アルは楽し気に、あそこも行きたい、ここも行きたいと指折り数える。王位を継げばそうそう遠出などできないから、まだ身軽な王太子の内に旅行したいとも言っていた。
そして、こうも。
「その時、子供も一緒だと楽しいだろうね。僕は父上が早くに王位に就いたから、一緒に出掛けるなんて、仕事でしかなかったんだ。だから、いろんな所に一緒に行きたい。きっと可愛いんだろうな~。リリーの子供だもんね」
アルが同じように考えていた事に、私はまた嬉しくて笑みが深まる。
「そうですね。私も今考えていたんです。子供ができたら、できるだけ自分の手で育てたいって。世継ぎとなる子ですから、甘やかしてばかりはいられないでしょうけれど、愛情を持って、アルと幸せな家族になっていきたいです」
王位継承者となる子には、厳しい教育も待っているだろう。でも、私達がその苦難を支える存在になれたら。そう思って言った事なのに。
「よかった。リリーもそう思ってくれるんだ。じゃあ、僕頑張るよ。子供は早い内にできても困らないからね。ネフィ、そういう事だから」
にこやかにそう告げると、ネフィは溜息を吐きつつも一礼して退出してしまった。訳が分からず首を傾げる私に、アルは意味深な発言をする。
「子供は何人欲しい?」
私の腕を引きながら、向かうのは大きな寝台。
まさか、今からまた?
「あ、あの、お仕事はいいんですか!?」
若干
「戦の功労で三日の休みをもぎ取ったんだ。あと二日、めいっぱい愛し合おうね?」
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