第41話 重なる想い

 窓の外は満天の星が煌めく、明るい月夜。遠くにふくろうの声が響き、木々のざわめきが風の冷たさを感じさせる。


 それはいつもなら気にもとめない、微かな音。でも、今の私には怖いくらいに大きく聞こえた。


 湯浴みでネフィを筆頭に数人のメイド達に磨きあげられ、薄衣の寝衣ガウンを着せられて、私は大きな寝台に座っている。この寝室は、王太子夫妻のための部屋だ。寝台も自室の物とは違い、余裕で二人が横になれるだけの広さがある。それだけで、これから起こるであろう出来事が頭を過り、動きがぎこちなくなってしまう。


 寝衣ガウンは透けているのではないかと思うほどに頼りなく、落ち着かない。窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らし、焚かれたお香の細い煙が妖しい雰囲気を醸し出していた。


 緊張で固まったまま、無限とも思える時間が終わりを告げる。


 軽いノックが響き、私の部屋とは逆の扉が開く。この部屋にはお互いの自室からだけ入れるようになっていた。


 現れた殿下も、同じような薄絹の寝衣ガウンを着ている。逞しい体の線がうっすらと見えて、私は咄嗟に顔を背けた。私が見ているように、殿下にも私が映っているという事だ。薄い寝衣ガウンを手繰り寄せ、どうにか体を隠そうと試みるも、殿下の腕が伸びてきて遮られてしまった。


「リージュ、恥ずかしいの? すごく奇麗だよ。こんな姿の君を見れるのは、僕だけなんだ……はぁ、幸せ……」


 殿下は私の首元に唇を寄せ、深呼吸する。昼間と同じ行動だけれど、今は薄絹一枚を隔てただけの温もりが伝わってきて、とにかく恥ずかしい。体中が心臓になったのかと思ってしまうほどに、鼓動が激しく鳴る。


 顔を上げられずにいる私に、殿下は薄く笑いながら頬を包んだ。その手は熱くて、お互いの熱が交じり合うような感覚に陥る。

 

「こっち見て……」


 真っ赤になっている事は自覚しながら、おそるおそる顔を上げると、すぐに唇を塞がれた。二度、三度と口づけしながら、殿下はうっそりと囁く。


「やっと、君と繋がれる。この六年、どれほど夢に見たかな。出征してからは触れる事もできなくて、毎日君を想った。五年間はまだよかったんだなって、今更ながらに思うよ。だって、君はまだ遠い存在だったから。でも、今は違う。こうして手を伸ばせば触れられるんだ」


 そっと私の胸に触れながら、殿下は吐息を漏らす。薄絹越しの殿下の手は大きくて硬く、頂を掠めるように動かれると更に体温が上がっていく。


 思わず声が零れると、殿下はほくそ笑んだ。


「ふふ、可愛い……僕はまだ成人していないけど、きっと幸せにするから。できるだけ、優しくする。でも、昼間言ったように止まらないよ? ほら、もうこんなになっちゃってるもの」


 そう言いながら、私の手を自分の下腹部へと導く。そこには熱の塊が脈打っていた。


「触って……? 僕がどれほど君を愛しているのか、感じてよ」


 そう言われても、こんな経験なんて皆無の私はどう触ればいいのかさえ分からない。ぎこちなく撫でると、殿下が身震いをした。


「ん……っ。も、無理……。リージュ、先に謝っておくね。ごめん」


 その言葉を言うが早いか、殿下は私に貪りついた。

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