Alice in Wonderland(不思議の国のアリス)

伊藤ダリ男

第1話  昭和四十八年~東京

この公園は、雑多な都会の喧騒を遮るように大きな木々によって囲まれ、中央には、然(さ)もない円形の噴水池がひとつ作られていた。

この噴水池を囲むように幾つかのベンチが敷かれていて、お昼時には近くのサラリーマン達が集まっていた。

そして自前の弁当を広げてワイワイ言いながら食べている、そんな彼らの微笑ましい光景を、毎日のように目にすることができた。

夜には、若い男女のカップルや懐に余裕があるサラリーマン達が、ネオン輝く飲み屋街に出かける為の待ち合わせに使うにも便利な場所であったのだ。


ところが、ここにひとりの変な女が昼夜問わず現れるのである。

なぜこの女が変な女かと問われれば、噴水池を背に立ち、じっと目を閉じてほほ笑んでいるからである。

しかもこの女の派手な衣装とキツイ香水の匂いは、この公園に最も不釣り合いであるのだ。

その容姿はガリガリに痩せて妙に背が高く、皺だらけの顔・・・。

その顔に白粉をはたき、大きな付けまつ毛に真っ赤な口紅、極めつけは、赤紫色のアイシャドーをこれでもかと言う具合に塗っていたことだった。

彼女は人と目が合うと、愛想笑いするものだから周りから妖怪と呼ばれて、気持ち悪がれられていたのであった。

この女の名は、アリス。

実は有坂澄人(ありさかすみと)と言うオカマの立ちん坊だった。

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