第29話 エピソード⑨

よく見えない場所ーーーーーー


靴の爪先からゆっくりソフトに足をつけたのが、微かに斜めの視線の先に入る




『コイツーーー何者?』



ピカピカに、顔がうつりそうに磨かれた立派な革靴


軽やかにジャリリッと、靴底で踏みしめた音がイヤに響く



「へぇ〜〜〜、君まだ動けるんだねぇ、凄い凄い


お仲間達はみんな、カエルみたいにベッタリ伸びきってるのに?」


グイッと無理矢理髪の毛を掴まれて顔を持ちあげられる


「アイツら筋肉ゴリラなのに全く無様だねぇ♪」



無理な姿勢だったがアリサは、精一杯の精神力を込めて睨みつける



「はろはろ〜お嬢さん、おーかっわいいねぇ、僕のタ・イ・プ♡」


ゾッとするほど高貴で美しい双眸が見下ろす


素晴らしい美形


中腰の人物はこんな夜中なのに

まるでクリーニング店から出したばかりのような、清潔で皺の無いスーツ



「う〜〜んタイプだからぁ〜

よしっっ


んじゃ、苦しまないようにせめて一瞬で息の根を止めてあげるね?


強がっちゃって可愛いね


だけど本音言うと、もぅピクリとも動けないでしょ?


わかってるし?」


「……」




「僕に言わせるとサー

あんなに生気吸い取った後、頭が持ち上げられたって奇跡だよ


姫は凄い身体能力だねー


後ろのゴリラ君達は、ゆっくりゆーっくり楽しむけどさーー

でいいよね?


お・姫・様 ♡」



闇に浮かぶ左右対称の恐るべき美貌の少年は、アルカイックスマイルで不気味に微笑んだ


「じゃ覚悟して♪」


まるでキスをされるかに顔が接近した


アリサの身体にイヤな汗が滲んだ




『教官ーーーー

ミオ教官助けてッッ!!』



お願いしますッッッッ!!



助けて下さいッッッッッ






咄嗟に強く心を込めて



ーーーーー思い切り強く念じた





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