第15話 エピソード⑮

岩風呂からフゥフゥと出たご機嫌な私

サロンで宿の自慢の手作り和菓子の水饅頭をなんと3つも食べ、更にふわっふわな御抹茶も点てていただいた


すっかりイイ気持ちになった私は離れになっている客室で、ベルギリウスに膝枕して貰い思いっきりぐだぐだする


無防備な私の髪を、目を細めた嬉しそうなベルギリウスはキュッキュと長い指でお下げの三つ編みにしている真っ最中だ


「いつも器用ね」

「ミオの髪は綺麗で素直で編みやすくって大好きなんだ〜」

「そう?」


美青年の彼に、お世辞でもそんな嬉しがらせの事を言って貰ってキュンとしない女子はいないと思う


「明日はフィッシュボーンの編み込みしてもいい?」

「手が掛かるけどいいの?」


「ミオいつも仕事の戦術上しょうがないけれど、夜会巻きでしょ?


〜大人っぽく見えて良く似合ってるけど偶には違うのもいいでしょ

凄く好きだけどね♡」

「いいわよ」

「やったぁ」

「じゃぁお返しにベルギリウスの髪も私がセットしてあげる

因みにどんなのがいい?」

「?!いいの?!」

「私もあなたの髪好きだから」

「嬉しすぎるし♡」


互いにグルーミングのようなやり取りで、ジックリ相手を触ることは彼にとっても充分に加点になる

何故ならばリラックス状態での良質なエナジーは彼等の種の堪らないご馳走


私にとっても極楽、桃源郷だ


何気にさり気なく吸い取られることで、よりいっそうのボーーーッと力が抜けきる深い催眠状態、緊張がほぐれ泥のように眠り込む前段階の癒やしが得られる


一連の寛ぎ具合がとても心地良いのだ


私が眠り込んでも、必ず側でベルギリウスが責任を持って守ってくれる


他のハーフだの純血種だのに襲われる心配は無い


こんな安心出来る眠り方は狩人には滅多に訪れない



お腹も膨れて心地よい眠気も加わり、いよいよ頭もボーッとしてくる


「ねぇベルギリウス?

お友達ーーー

純血種の仲間に会ったことがある?

ううん、逢ってる?」


純血種とは、両親ともに代々ヴァンパイアの血脈、至高であり別格の存在


容姿は元より潜在能力、運動神経は無論のこと、奴らは兎に角長生きだから経験値が半端ない為、狡賢い

狡猾さにかけては天下一品だ


ハーフのヴァンパイアの事は協会の方で時々出会うから割愛した


チラチラ見た感じ、互いの本能、強烈な縄張り意識の関係で、友情は良好そうではない


「なんで?

偉そーな彼等からしたら、僕なんか半端者で面汚しなんだよねぇ

なんていうか、下等生物?

プライドや美意識がホント高いからね、同じ純血種同士としか付き合わないよ」


「ベルギリウスは好きじゃ無いの?」


「そんなのあたりまえでしょ

でなければソモソモ猟犬なんかやってないし?

ーーー僕はミオだけでいいなぁ

ウンウン、今みたくミオが側に居れば充分幸せだもんねー♪」


「何言ってんの、『餌』だし?」


「じゃないよ?やだなー色々とぜーんぶ好みなんだー♡

だからうんと長生きしてね

僕から離れていかないで……」



甘やかな囁き声を聞きながら髪を弄ばれ、時折サラリと火照る頭皮にもヒンヤリ冷たい指先が潜り込むかに差し込まれ……


フンワリ余りの気持ちよさに緩やかに、心地よい夢の中に誘われる


猟犬ベルギリウスの狩人に対する言葉だから、例え意味合いを半分に割り引いたとしても嬉しい


私は彼の認める立派なご主人様でありたいなーと

トロトロの幸せな眠りに落ちる僅かな時の中で、柄にもなくそんな事を考えた












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