第13話 エピソード⑬


あの時ーーーーー


相手は私の弾道を見透かし軽やかに体を反転させた


こんな事は滅多にない


危険を察知したベルギリウスが間合いに助太刀に入る


銃の、ズガッと仰けぞる強烈な反動をフカフカの毛皮のイカロスが射撃の度、私の事を守ってくれた


柔軟に、生きたエアバッグ~


強靱な足腰を誇る賢き彼がいなければ今回、安心して不安定な体勢で職務を全う出来なかったし、最悪私は死んでいたかも知れない


対ヴァンパイア特殊銃の実包、全弾撃ち尽くし辛うじて勝利を収めた


本当に本当に今回はヤバかった

相手が絶大に強かった


生き残ったのは紙一重の幸運〜

私の方が運が良いというよりも、運気が多少強かったせいだと思う




しかしーーーー



私がここまで追い込まれたには大きな「理由」


相手にもやるせない訳があったのだ



なぜ対象が直下の階のフロアにわざわざ移動したのか?


肩掛け式の巨大銃はもう必要が無いだろうと思ったし、弾もないから無用の長物

地上に荷物を残した


私には思い当たる仮説があったから、ベルギリウスとイカロスを従え階段を使って最上階に上がる


どうせハンドガンはヴァンパイアには効かない


武闘派の頼れる彼等が居れば大丈夫だとも思ったから怖くは無い



「ウワァ……」


目的のフロアに到着し息を吞むベルギリウスに目配せし、私は穏やかにスーーーッと腰を下ろし優しい顔と声色を作る


「みんなここにいるの?」


「うん」

天使の様な顔立ちの男の子はこっくりと頷いた



ぴったり窓を固く塞がれた、元娯楽室最上階フロアには行方不明~

忽然と消息を絶っていた子ども達が全員居た


丁寧なケア

滑らかなクシケズった髪と、ふくふくと血色の良い肌艶の子ども達


側でさり気なく匂いを嗅ぐと、ほんのり優しいミルクの香りがした



見渡せば、他階から持ち込んだとおぼしき、柔らかで温かなフカフカの毛布が何枚ももあった


〜豊かな種類の備蓄用食料品に数々のオモチャ


壁や天井からは心躍るペーパークラフトが幾つも楽しげに飾られている


仄かな間接照明ライトが穏やかにそこここを照らす、掃除が行き届く広大な場所は、まるで巨大な秘密基地、自由な子ども部屋だった



恐怖とは無縁の安らかな子ども達


安心しきった顔色を確認、直ぐさま救命救急を要請


彼等は水上所長の口利きもあり


ぶたれたり無視されたりの生来の環境とは真逆な家庭で、優秀なカウンセラーの指導のもと、穏やかに生活をしているという



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