第2話 エピソード②
「ミオ
これが例の事件の概要の新しいデータだ
本当に大丈夫か?」
「私『達』をなんだと思ってらっしゃるんですか?」
薄く笑いを頬に貼りつける
何時ものこと
そんな自分に目の前の男、直属の上司……
トーキョーに本部があるヴァンパイア・ハンター協会の某支部
ここ『支店』一番の権力者、水上所長は深く苦しげな溜息をつく
「これでも私の親友の遺児であるお前のことを、案じているのだよ」
「結構です、余計なお世話です」
キュルキュルと車椅子を器用に狭いスペースから巧に通り抜けさせると、ジッと下部から見上げる
相変わらずイケオジッぷりは変わらない
苦み走った男らしい表情
色っぽい名優ばりの素晴らしい顔
私は彼に心酔して今がある
彼も又、現役の最前線でのハンター時代は素晴らしい逮捕歴を築き上げてきたのだが
私の父~
バディだった親友を助けようとしたばかりに高所より落下
「事故」で下半身不随になって事務方に廻ったという男気溢れる経歴の持ち主だ
ヴァンパイアハンターについてのアレヤコレヤの捕縛技術は全て彼から学んだ
因みに一緒に墜落した父親は死んだ
つまり彼は自分の純然たる師匠でもある
で~
未だに父を助けられなかった事を悔やんでいるという訳
「段々ソックリになってきてまぁ……」
私を見るたびに、ブツブツお小言を貰う事が多くなった
「そんなに似てますか?私」
「気持ちが悪いくらいソックリだよ」
特に無鉄砲なところが~
と、溜息を吐きグズグズと言った
「『猟犬』はどうしている?
お利口に元気にしているか」
「お陰様で」
「絶対にひと月に一度にしろ
~どんなに甘い声でしつこく強請られても応じるな
丸め込まれて集中力体力を欠き、殉職した女性ハンターを私は大勢見て来た
我々とは種が元来違うのだ
気をつけたまえ」
「りょーーーかい♡」
私はピッと頭の横で敬礼の指の形を取り所長室を退出した
ロビーには私の「猟犬」が待っていた
満面の笑みで長い腕を広げて私を囲い込む
「おぅお帰り♪」
「ただいまー」
ちゅ♡
早速のキス
~といっても唇では無く首筋だ
エネルギーチャージ……
彼等流の『美味しい食事』
活動エネルギーを取り入れる為にする行為だ
猟犬はハンターの生体エネルギーを摂取することで、他には手を出さぬよう文書による契約で取り決めがかわされている
もしも誓いを破った時は心臓の上に仕掛けられた対ヴァンパイア破壊装置が作動
瞬時に灰にされる
『彼』~ベルギリウス
元々は私の父親の『猟犬』だった、ヴァンパイアと人間とのハーフ
体力知力共々、その上、肉体的老化スピードが全然違う男
見上げるような長身
スッキリしたスタイルだが見かけに騙されてはいけない事を私は知っている
年齢は秘密だそうだ
ただポロッと失言みたく言ったセリフで、黒船のペリーを実際に見たことがあると言っていた
よってそれなりの年齢だと思う
サラサラの長い腰まである癖のない金髪を気怠げに掻き上げて、2度目のキスを強めにする
「そんなに疲れたの?」
「ここはバリアが厳重だから疲労度が全然違うんだ」
「だったら協会の、建物の外で待てばいいのに」
「ミオを他の男の視線に晒すのはイヤ、絶対」
「もぅ!」
私の
心より信頼する途方もなく長生きの『猟犬』は結構な甘えん坊だ
「フーン……」
「これが最近起きた変死事件のデータ」
私は自分が運転する愛車、ちょっと洒落で選んだレッドの輸入車の中でベルギリウスに渡す
後部座席でゆったりと寛ぐのを見定めると、フットブレーキを踏みこむ
フレームのエンジンボタンを押す
途端に小気味よい堪らない振動が私を包み込む
ウィンカーを出し注意深く駐車スペースより発進させる
「人と紛れて決してバレ無いように静かに生きているヴァンパイアではないわね」
「純血種ーーー……
はこんな事はしない」
「でしょうね」
「直ぐに現場に行く?」
「ええ」
全て半径1キロ以内で集中している
「今から行けば丁度『黄昏時』でしょ?
~最高に都合がいいわ」
「あのさぁ、今夜で『1ヶ月』だよ?
仕事したらご褒美頂戴」
私は暫く考える
ーーー仕事終わりにそんな体力があるとは到底思えない
彼等との濃密な、素肌を互いに直接あわせる長時間にわたる行為
「ーーー今夜は駄目
私死んじゃう」
「ちえ~~~~
楽しみにしていたのに」
「でも『犯人』捕まえたら何してもいいよ
明日以降になるけれども」
「ホント?!ホントホント?」
「でも殺さないでね、私を」
「当たり前でしょ?
ミオは僕が仕えた歴代の
~ミオが死んでしまったら僕だって死んじゃう」
私が死んだらベルギリウスは新しい
でも
事実が例えそうではなくとも嬉しい思いやりにキュンと胸が高まる
彼とはなるべく長期間一緒にいたい
狩人と猟犬の間柄としても
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