第29話 ツェルマットスキー場4(イタリア側)

 マッターホルンのスイス側のスキー場がツェルマットスキー場なのに対して、イタリア側がチェルヴィニアスキー場である。

 今日は初めてイタリア側に下りてみよう。日本のガイドブックによると頂上付近に国境があり、そこに検問所が設けられているらしい。以前、オーストリアのオーバーグルグルからはパスポートを携帯してなく越せなかったが今回は準備万端、パスポートを携帯して出かけた。


 クライネマッターホルン頂上から数100mほど滑り、少し左側に上った辺りに検問所があるはずなので行ってみたがどうもそれらしい建物も番人も見当たらない。しかしイタリア側のゲレンデに合流すべくそれらしいコースが見つかったので適当に滑ってみる。程なくイタリア側に合流した。パスポートを使わず国境を越えるのは、何だか時代劇で関所を越えるのに通行手形を持ってなく山越えでの関所破りに似ている。尤も私の場合はパスポートは携帯していたけど。


 スイス側が広大で至る所から美しいマッターホルンが見られるのに対して、こちらイタリア側は細い緩やかな長~いコースが一本あるだけである。はっきり言えば、全然面白くない。リフト券もオーストリアのサンアントンスキー場のように近辺のすべてのスキー場と共通というわけではない。新たにチェルヴィニアスキー場のリフト券が必要になる。国が違うのだから、当然ではあるが。


 イタリアではスイスフランは当然使えない。町に下りて両替をしなければ。

 10kmのロングコースを滑りながらマッターホルンを見上げるとクライネマッターホルン頂上から観た以上に平凡な三角形になり、どこから観ても美しいコニーデ型の富士山とは勝手が違う。


 イタリア側の町の名はチェルヴィニアという。マッターホルンはイタリアではチェルヴィンというようだ。銀行はすぐに見つかったので50ドルをイタリア・リラに両替した。イタリア・リラは安くなっており助かる。旅の最後はローマなので、多少多めに両替しても問題ない。

 ロングコースの途中にレストランがあったのでそこでランチを食べた。スイスやオーストリアと比べるとかなり安い。

 午後からは雪上車の均した跡もなくなり滑りにくくなってきた。イタリア側でのスキーは話のタネだからこれで良いだろう。


 翌日、ヨーロッパスキー最後の日である。

 登山電車から見た深雪のシュプールが魅力的だったのでゴルナーグラートで滑ってみたが、雪質は意外と固く重く歯が立たない。線路の反対側に行くと比較的滑り易かった。それでも2度転倒。最終日で気負い過ぎたかな⁉ ここからのマッターホルンは快晴にも恵まれ最高に気高く美しかった。


 夕食後、再びユースを訪れた。彼らは今日イタリア側に下りたそうだ。

 みんなでビールを飲みに行った。スキーや田舎の話に花が咲いた。海外のスキー場で初めて遇った日本人同士が寝食を共にしながら一緒にスキーを楽しむ。きっと素晴らしい青春の思い出になるであろう。改めてユースにすれば良かったかな…と思う。

 これで彼らともお別れである。

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