第19話 オーバーグルグルスキー場4(盗難2)

 翌朝6時過ぎ、女将が起きてきてくれた。漸く自分の部屋に入る事ができた。ヘンドリックは昨夜会った友達であるオランダ人に私の事を頼んでおくと言ってくれた。挨拶もそこそこにヘンドリックと別れた後、昨夜のダンシングバーに行ってみた。

 暗い中を手探りで進んで行くと、裏口から誰かがやって来る。黒人の従業員のようで、ライトを灯してくれた。お陰で椅子の上に自分のジャケットを見つける事ができた。すぐにポケットを探ってみる。やはり…、部屋のキーはあったが、小銭入れはなかった。

 黒人は英語は全然話せないようだ。私が何を言ってもただニコニコと頷くだけである。ちょっと頭が弱いのだろうか? それでも私の様子に遺失物を悟ったようで一緒に探してくれたが、見つからなかった。


 その後、昨夜共に楽しく過ごしたヘンドリックの友人を訪ねてみた。ヘンドリックから私の盗難の事は聞いているとの事で話は早い。今朝見つかったジャケットの事を話したら、一人の陽気なオランダ人がホテルの責任者らしき人の所に連れて行ってくれて説明してくれた。しかし、ホテルとダンシングバーとどんな繋がりがあるのだろう。同系列? 責任者は、ダンシングバーのマスターは午後から出勤すると言っていた。

 午後から再び、陽気で親切なオランダ人はホテルでマスターに説明してくれた。意外にもマスターは話の大筋を既に知っていた。


 昨夜我々が帰った後、15分ぐらいして5人のグループのうちの1人の少年がジャケットを持ってやってきたので受け取り椅子の上に置いて帰ったとの事で後の事は分からないそうだが、その少年は不良少年との事である。既にポリスには連絡してくれていて16時にはこちらに来るとの事である。

 

 16時、今度は1人でホテルを訪れた。ポリスは30分遅れてやってきた。ポリスにはマスターが説明してくれた。

 夕食時、このポリスが今度は2人で、滞在中のホテルにやって来てジャケットを見せてくれと言う。その後、朝ダンシングバーで見つけたときの様子を尋ねられた。

 英語の話せない黒人に会ったが、彼はその時ジャケットには触れていない旨、話しておいた。


 昨夜、少年がジャケット持参でダンシングバーにやって来たとき、小銭入れはポケットの中に在ったのか? いずれにしても、その少年に訊けばはっきりするであろう。すぐに解決するはずである。そう思っていた。

 でも、解決しなかった。


 こんな単純な盗難事件を何故解決できないのだろう?

 少年から手繰っていけば容易に解決できるはずだが。


 小銭入れには日本円にしたら、1万円ぐらいなのでそれ程の大ショックということはない。年を跨いで10日もあるので吉報を余裕で待ちながらチロルのスキーを楽しんでいた。だが結局最後まで吉報はなかった。

 ポリスステーションはバスで20分ぐらいの場所にあるので、最後の日には訪ねてみようかとも考えた。吉報はないにしても、分かっている事だけでも聞いておこうかなと思ったのである。でも結局、チロル最後の日は滑って終わる方を選ぶ事にした。

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