第18話 オーバーグルグルスキー場3(盗難1)

 今回の海外一人旅最悪の日。初めて海外で明白な盗難に遭ってしまった。カナダの旅でも自分の不注意で紛失したり、盗難かも?というのはあったが、今回のように明白なのは初めてである。


 スキー場はガスがかかって全然楽しめなかった。

 翌朝にはテーブルメートであるオランダ人が帰国するので、夕食後彼の車の雪落としとチェーン装着を手伝った。その後のテストドライブ時の会話である。


"Tomorrow morning, will you go back to Netherlands?"

"Yes."


"Every year, will you visit to Obergurgl ?"

"Yes. Are you first time?"


"Yeah, first time."

"Do you like Obergurgl? "


"Yeah."

"So, come again?"


"If possible I'd like to come again. But, I have no money and no time."


 まあ、海外旅行費はあったんだけど、問題は休暇取得である。この頃、SE専門の派遣会社勤務で、今回は無理を聞いて貰っての特別休暇であった。今後当分は無理である。

 そのテストドライブの帰り道、Y字路で自分の方向感覚とは違った道へ進んだので、自分の方向音痴を十分自覚した上で、確認してみた。


"Ah? this way?"

"This way is right."


"Oh yeah? maybe, you are right."


 まあ、方向音痴には絶対的自信と実績があるので、毎年訪れている彼に任せる事に異議はないが、私が少し怪訝そうな顔をしたと見えてその後のやり取りである。


"That way? You go to Italy."

"Oh, I don't have Passport."


"Hahahahaha......"

"Hahahahaha......"


 このいつも冷静で無表情のオランダ紳士がこれほど快活に笑ったのは初めてだった。スキーに関しては、彼はスクール派で私は自由気まま派故に一緒に滑る事はなかったが、この時初めて完全に打ち解けたと感じた。


 この後、彼に誘われて他のホテルに宿泊している彼の友人を訪ねた。男女合せて8人のグループで全員オランダ人である。

 逢った早々に、彼らの一人がテーブルメートに私の事を聞いてきた。


" Your friend?"

"Table mate. We had big laughing, today."


 『日本人がパスポートを持参してないと言うので、イタリアには行かなかったよ』というジョークはここでは話さなかったけど。

 みんなでテーブルを囲み楽しい会話の花が咲いた。普段はオランダ語を話すのであろうが、みんな英語を話してくれた。ここで初めてテーブルメートのファーストネームが『ヘンドリック』であると知った。それにしてもみんな陽気である。なかでもヘンドリックが別人のように陽気な事。


 日本人の髪の色が話題になったので、

"Black Hair"

と言ったら、すぐにヘンドリックが

"Nippon no Hair"

と返してきた。日本語も少しは分かるようで、大はしゃぎ。


 真夜中1時半、明るい雰囲気のままホテル近くのダンシング・バーにみんなで繰り出す事にした。1時間半後に帰ろうとしたら、ジャケットが見当たらない。ヘンドリックにも手伝ってもらって探したが見つからない。

 やむなく翌朝出直す事にして一旦引き上げたが、部屋のキーがジャケットの中にあり部屋に入れない。ヘンドリックが事務室のベルを押してくれていたがどこからも反応はなく、結局ホールのソファーを2つ使用し従業員の物らしきオーバーコートを毛布代わりにして一夜を明かす事にした。

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