今こそ覚悟を決める時②
——(レファス視点)——
「何!? 擬似体が無くなった!?」
執務室でフィオナからそう報告を受けた時、脳裏によぎったのはガーレリアのことだった。
「まさか、ガーレリアが擬似体を使って下界に行ってしまったんじゃないだろうね!?」
僕はすぐに執務室から飛び出すと、研究棟へ向かって走り出した。
お披露目の式典以降、ガーレリアのことを知らぬ者はこの天界にはいない。だが、擬似体姿のガーレリアは一部の者しか知らない。
その姿で門衛の目を欺いて、降臨ゲートを通過してしまったのでは?と考えたのだ。
「既に降臨ゲートは使用禁止にしておりますので、その心配はないかと……」
すぐ後ろをついて走るフィオナが、淡々とした口調で報告してきた。
「そうか……それなら大丈夫だな」
僕は、早足程度に速度を落とすと、ガーレリアがいるであろう『ガーレリア専用診療室』に向かった。
◇◆◇◆◇
「入るよ、ガーレリア!」
自動扉が開くと同時にそう声をかけながら入った室内には、頭からすっぽりとシーツを被った『彼女』が立っていた。
こちらに背中を向けているので顔は見えないが、そのシルエットは明らかにガーレリアのモノではなかった。
「!?……誰だ?……」
「レファス様? いかがなさいま……ハッ!?」
警戒気味に問いかけた僕の後ろから遅れて入室したフィオナが、驚きにハッと息を呑んで口元を押さえた。
!?……何だ? 少々のことでは動じないフィオナが、『彼女』を見て狼狽えている……危険性は感じないが……『彼女』は一体、何者だ?
心当たりのない人物に訝しむボクの耳に、突然、その女性の底抜けに明るい声が響いて聞こえてきた。
「ガーラなら、自力で下界に降臨しちゃったわ。今頃、ヴァリター君に会ってるはずよ?」
それは、とても『懐かしい声』だった。
その声は、遥か昔の記憶の中の……そこでしか聞くことができないはずの……
「っ…………そ……そんな……」
……バカな……
真偽を確かめたい。なのにそれをしてしまうと、この夢が終わってしまうような気がして、言葉を続けられなくなってしまった。
言葉を無くし固まる僕に……
「あんまり過保護が過ぎると、ガーラに嫌われちゃうわよ? パパ?」
……そう告げながら、『彼女』はこちらへとゆっくり振り返った。
「……ただいま、レファス……遅くなっちゃってごめんね?」
そう言うと、『彼女』は僕を真っ直ぐに見つめながらフワリと優しく微笑んだ。
日だまりのような笑みを浮かべるその顔は、記憶の中のあの頃のままで……
「アルガーラ!!」
僕は『彼女』……『アルガーラ』に駆け寄ると、流れる涙もそのままにその体を強く抱きしめた。
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