ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりましたが、仕事先(下界)で無自覚に色々やらかした結果、大変なことになりました〜

★序章 今世ではちょっと色々ありました①

　突然だけど……

　みんなは前世の記憶があったりする？

　大半の人は無い、仮にあったとしても薄っすらといった程度だと思う。

　もちろんそれが当たり前で、自然な事で、おかしなことは何もない。

　でも、ボクにはその当たり前が当てはまらない。

　前世どころか、ボクにはずっとずっと、遥か昔からの記憶が残っている。

　羨ましいって思うでしょ？

　ところが、これがとんでもない！

　だって、考えても見てよ？　たった一人だけ記憶があっても、それを分かち合える人が誰もいないんだよ？

　それどころか変に知識が豊富だと、情報窃盗の疑いを掛けられたり、良からぬ組織に誘拐されそうになったりと……、本当に面倒事ばかりで嫌になるよ。

　だからボクは、前世の記憶や能力を引き継いでいることを悟られないよう人と深く関らず、周囲から浮いてしまわないよう気をつけながら、無難に埋没人生を繰り返している。

　そんふうに転生を繰り返し続けるボクの唯一の生き甲斐は、天界政府発案の新制度『Lv.化政策』によって始まった『魂のレベル上げ』をすること！

　『Lv.化政策』とは、天界の偉い人たちが考えた『人々にレベルの概念を植え付け、自発的な能力向上を促す』ことを目的とした、たいへんゲーム色の強い政策だ。

　主に、天界の入国審査などに使われていて、『Lv.』が高いほど天界での充実した行政サービスが受けられる制度らしい。

　ちなみに下界ではあまり浸透していない——って、まあ、忘れちゃうから当たり前だけど……

　ええっと、どこまで話したっけ？

　そうそう、この『Lv.』ってヤツは魂に刻まれているから、転生して全くの別人になってもそのまま引き継がれる。

　これ……、周回(転生)したらめちゃくちゃLv.上がるんじゃない！？

　そんなふうに思いついたことが、転生周回を始めた切っ掛け。

　で、結論として……

　世の中、そんなに甘くなかった！

　ゲームと同じで、『Lv.』が上がると次の『Lv.』までに必要な経験値が増える。

　なのに、ゲームと違って経験値の多い敵キャラなんてモノはいない……ってことで周回を重ねても、ある程度のところでLv.は落ち着いてしまう。

　何！？　この無理ゲー！！

　……と、大半の人は思うはず。

　しかし！

　その無慈悲なまでの無理具合が、ボクのオタク魂に火をつけた！

　今こそ『記憶保持者』の特権を活かす時！！

　ボクは、より多くの経験値を効率よく稼ぐため、研究を重ね、あらゆる方面からアプローチし、試行錯誤を繰り返した。

　そして、血の滲むような検証の結果、『あまり文化レベルの高くない世界であれば、経験値が底上げされる』ということを突き止めた！

　以来、ボクは文化レベルの高くない世界ばかり選んで、転生を続けている。

　ちなみに、悪行を働くと経験値は下がる。

　と、いうわけで、ボクは結構高レベルだったりするんだけど、そこはオタク魂的に、行き着くとこまで行きたいんだよね！

　そんなわけで、悪目立ちしないよう気をつけながら、地道にコツコツと経験値を稼いできたんだ。

　と、そんな感じで、無難に人生を繰り返してきたボクだけど、今世はチョット思うところがあって、感傷的になっていたところなんだ。

　——今世——

　そう……。

　ボクはついさっき、人生の終焉を迎えたばかりなんだ……

　あの世（霊界）に到着するまでの間、少しボクのお喋りに付き合ってもらおうかな。

　あれは……、今から2日前の深夜のことだった。

　◇　◆　◇　　◇　◆　◇

　隣国との国境に広がる大森林。

　月明かりすら届かないその密林の中、ボクは騎獣に跨（また）がり、藪蚊（やぶか）の大群に襲われながら道なき道を突き進んでいた。

　どうしてそんな深夜にこんな密林にいたのかって？

　それは、『悪の組織に攫われたお姫様を救出に！』っていう、あの展開だよ。

　ん？　話が見えない？　そっか……。

　じゃあ、まずは自己紹介から始めるね。

　ボクの名前はガッロル・シューハウザー。

　こう見えて、前世では『ルアト王国』の『騎士団長』を務めていたんだ。

　どう？　少しは驚いた？

　それである日、ボクの仕える『ルアト王国』の王女様が、反王家勢力を名乗る『トルカ教団』によって攫われてしまったんだ。

　それでボクは、奴らのアジトが隠されているという、この大森林の中心部へ向かって騎獣を走らせている途中なんだ。

　教団が姫さまを誘拐してもうすぐ半日。

　ボクは姫さまの安否が気になって仕方がなかった。

　なぜなら、奴らは王女様——姫さまを、事もあろうに『邪神召喚の儀式』などと称して生贄にしようとしていたからだ。

　誰もが姫さまの行方を掴みきれない中、奴ら（教団）のアジトを突き止めることに成功したボクは、姫さまを救出するのため、一人でその場所を目指して騎獣を走らせていた。

　ん？　そんな大変な事態なのになぜ単騎なのかって？

　そ、それは……

　こんな人気（ひとけ）のない場所で、騎士団のみんなを引き連れて救出作戦に向かえば、奴らに気付かれてしまうと思ったからで……

　……いや……違う。そうじゃない。

　ボクはこの時、判断を誤ってしまったんだ。

　正直に言うと『一人の方が動きやすい』と思って、誰にも相談せず、単騎で動いてしまったんだ。

　自分の能力に慢心していたんだよね……。

　まあ、そういうわけで、ボクはその大森林の中を単騎で駆けていたんだ。

　枝葉に体を引っ掻かれながら、木々の隙間を掻い潜るように進んでいると、不意に木々も下草も無い、不自然に開けたエリアに行き当たった。

　そう、この地点こそ僕が目指していた『トルカ教団のアジト』がある場所だ。

　見ればそこに、中世ヨーロッパを彷彿とさせる古びた洋館が建っていた。

　蔓延る蔦の勢いから、忘れさられて久しいことは想像に難くない。

　密林の中、そこだけ切り取られたかのように、異質な存在感を放ちながら建つその古びた洋館は、いかにも『邪教集団の秘密のアジト』といった様相だ。

　想像以上に不気味なその屋敷を見て、『ちょっと失敗したかな……』と思ってしまった。

　せめて、ヴァリターにだけでも打ち明けて一緒に来てもらえば良かったかも知れない……

　そんな風に少し弱気になりかけた時、夜風に乗って赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

　っ！！　そうだ、姫さまも頑張っているんだ。ここで気後れしている場合じゃ無い！

　ボクは自分にそう言い聞かせて気合を入れ直すと、手頃な枝に騎獣を繋ぎ、前庭の生垣で身を隠しながら館へと近づいた。

　生垣から顔を覗かせて素早く周囲を確認すると、警備に当たっている数名の教団員を発見した。

　だけど、みんな座り込んでいたり壁にもたれかかったまま居眠りをしていたりと……はっきり言って警備は穴だらけで侵入し放題だ。

　これが騎士団員達だったら『地獄の特別訓練』確定だな。

　……まあ、おかげでこうして楽に潜入できるから助かるんだけどね。

　——そんなふうに思いながら、ボクは熟睡している教団員の脇をソッとすり抜けると、朽ちて壊れた窓から館の中へと潜入した——