第83話 行動はいつだって誰かのため
けれど、そんなことで実際問題、催し物に関する問題が解決されるわけではなかった。あれから様々な部に声かけをしたがどれも好感触とは程と多い。
「もう無理ぃぃぃ!!!」
情けない叫びに、だんっ!と朝日のおでこが机にあたる固い音が続く。
「おい、頭大丈夫か」
「へへっ、どうせ私は学年の下の下の下ですよ・・・」
「・・・これは重症だね」
不気味に笑う朝日を見て、茉白は呟いた。
この数日、やっていることといえば思いつくだけの部に出演の願いを呼びかけているだけなのだが、その仕事の大役(ほとんど全部)を務めている朝日の精神はひどく摩耗しているようだ。
まぁ、無理なの承知でお願いしてその上で全部断られてるんだ。こうもなるか。
要はフラれる前提で、片っ端から告白して、ものの見事にこっぴどくフラれているみたいなもんだ。精神衛生的にいいわけがない
また額を机に突き合わせ、ブツブツと呪詛を唱えている朝日を横目に俺は考える。どの部でも朝日に対しての印象は良さげなのだが、こと依頼になると難色を示すのだ。そりゃ急な話だし部活動をしてる側からすれば困ることは俺でもわかる。
そう、それはつまり催しのないイベントになる訳で・・・
「もう無理なんじゃねーか?このイベント」
こういうことになる。
うっすらとここにいる全員が思っていたことのなのか、朝日と茉白からコミカルなツッコミの声が上がることはない。何も言わない、静かな肯定を感じながら俺は考える。
誰かに出てもらうのが無理ならもう俺たちでビンゴ大会とかをやるのが手っ取り早いように思う。それが二宮会長の望んでいる形かどうかは置いておいて、現状で俺たちが打てる手はそれだけなのだから仕方ない。
すると、そんなふうに考えている俺の横顔を眺めていた茉白は、ちょうど俺が考えていたことを呟いた。
「どうして会長は急にこんな無茶をやろうと思ったんだろうね」
「というと?」
「だってさ、あの成美先生とか川霧さんの雰囲気からして忘年会の話は前もって準備されていたものではないでしょ?それに時期的にも三年生の受験の時期を考えれば学校行事としても中途半端だし」
「自分が初めての行事を作りたいって言ってただろ。それなら何でもよかったんだろ」
「そうかな。もし先輩がそんな野心的ならもっと入念な準備や手筈をしそうじゃない?なんだか、本当に突拍子もないっていうか・・・」
不満げな茉白の言葉に、確かになんだかこのイベントに裏がありそうな気もしてきたが、そんなことないだろう。俺はすぐにその気配を振り払う。
考えすぎだ。あの会長の感じ、自分がやりたいことを思いついたらすぐ行動!ってタイプなんだろ。考えるだけ無駄だ
俺はそう結論付けると、この時間が無駄なように感じて席を立つ。
「あれ、帰ります?」
「いや、ちょっとトイレ」
なんて適当に理由をつけて俺は空き教室を後にした。
何か考えに詰まった時とかって歩いてると意外といい案を思いついたりするもんだ。そう、俺は諦めた訳じゃない。本当だぞ?このままあわよくばなんて考えてないから。
必死に心の内で言い訳をしながら、窓から見える中庭を眺めて歩いていると、そこに人の姿を捉えた。
うん?あれは・・・・
俺は反射的の物陰に隠れ、その方向に音もなく近づいては耳をそば立てる。
「———っだから!た、楽しみにしててください!!」
「うん、わかった。でも二宮くんも頑張りすぎたらダメだよ?私、楽しみにしてるから、それじゃあね」
「はい、また明日!!」
そして歩き出した足音は俺から遠さがっていく。やがて、その音が聞こえなくなると、太く短い、息を吐く音。それを聞いて俺は角から出る。
「あれは、二宮会長の彼女さんっすか」
「——!?し、色見くん。いつからそこに」
へぇ、そこが見えない会長がここまでわかりやすく慌てるなんて。
俺の中のゴシップ魂の疼きが表情に出ないよう努めていると会長はわざとらしい咳払いをしていった。
「あ、あの先輩は
これまた焦りが分かりやすく、メガネをかけ直す会長。
なるほど、やはり二宮会長はあの先輩のことが好きなようだ。おめでたい
ここ数日の鬱憤は、元はと言えばこの人のせいだ。少しくらい意地悪しても許されるだろう。
「二宮先輩、もしかしてですけど、今回のイベントは——」
「あぁ。あの人に振り向いてもらうためだ」
恥ずかしげもなく、二宮先輩はすぐにそう言い切った。
自分の恋心に気づかれた焦りだとか、気恥ずかしさはなく、先輩は決意を固めた精悍な顔つきで言い放ったのだ。
「あの人と仲良くなったのはもう一年は前だ。2年になってからより親しくなったと個人的に思ってるよ。」
唐突にそう語り出した先輩は、ついさっき恵と言う先輩が歩いていった方を見つめながら続ける。
「それはもう嬉しかったよ。でもね僕は、このままじゃダメだと思ったんだ。いつまでも居心地のいい関係に甘えて、ずるずると日々を無駄に消化していくんじゃないかって怖くなったんだ」
「・・・それで忘年会を?」
「あぁ、そうだよ。生徒会長として、僕が仕事をできるのはもう最後だ。なら、せめて最後は自分の盛大なわがままをやり遂げようってね。・・・まぁ、もしかしたら最悪のパターンになった時の心の保険が欲しいだけなのかもしれないけど」
つまりは忘年会を行うことでその先輩に振り向いてもらう、というよりかは今回のイベントはただの舞台装置のようなものなのだろうか。
初めてみる会長の弱々しげな横顔と、それでも何かを振り払うように力を込められた拳で俺は、そう納得する。
「つまり会長はこの忘年会で——」
「恵先輩に、告白する」
こうして俺は、このイベントに隠された二宮航の、本心に触れたのだった。
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