第3話 ついにきた放課後
ついに来た放課後。
・・・こういうと待ちに待った感じがあるがそんなことはない。
実際何回か逃げようとしたけど、成美先生の報復が怖くてやめた。
気落ちしながらゾンビのような足取りで辿り着いたのは空き教室。
この時間帯にこの辺りの教室を使うものはいないのか人の気配は一切もしない。青々しい喧騒溢れる放課後の中でどこか異境に来たような感慨にすらなる。
俺は改めて目の前の両扉を見る。
そして深呼吸
この扉を開けてしまえば、青春とは程遠い俺の無色であれど平穏だった高校生活が面倒になりそうで躊躇する。
ゆっくりと扉に手を掛ける。
少しでも指先に力を入れれば今が変わってしまう。
だからこそ、あと一歩の勇気が出ず扉の前で立ちつくしていると――
――ガラッ! 「キャっっー!」
「うおっ」
目の前の扉は急に開き、それと同時に悲鳴が聞こえた。
その声の一つは俺のだが、もう一つは目の前で尻餅をついている女の子のものだ。
その子は立ち上がって、頭を素早く下げる。
「ごめんなさい、急に扉開けちゃって!」
いや、そこでは無いぞ俺が驚いたのは。とツッコミを入れてしまう。
もちろん心の中でだ。
「普通この教室の扉前に人が立っていることは無いだろ、俺も悪いよ。」
そう言いながら、目の前で髪を整えているその子を見る。
するとその子は、子供らしさを感じる顔に大きな瞳を見開きながら、可愛らしく小首を傾ける。
「どうしたんですか?」
「い、いや、なんでもない。ところでここで何してんだ?俺この教室で成美先生と用事があるんだけど。」
完璧。全然動揺を感じさせないスムーズな会話だ。
「え、色見くんも成美先生に呼ばれたの?」
まさかの答えに俺は動揺する。どういうことだとこれからの俺に起こること思案していると
「先生が時間になっても来ないから、呼びに行こうとしてたんだけど、どうします?座ります?」
そう言いながら、隣の席を示してくる青髪少女。
・・・さっきから距離が近いんだよ、君
「いや、いい」
俺は紳士らしく断って、俺は窓際に移動し、窓を開ける。
緊張で暑くなった頬を秋風がなぞるのがこそばゆい。
「早く先生来ないかな。私友達待たせちゃってるんですよね。色見くんはこの後予定とかないんですか?」
「特にないな」
「あ、そうなんですね。・・まー、1人の時間も大切ですしね!!きゅ、休日は何してるんですか?」
「・・・特に」
「・・・」
やばいっ!気まずい!!
だって基本俺の休日は昼過ぎに起きてはゲームしてるだけだ。俺は基本、そういう趣味に介入して欲しくない主義だからこういう時って回答に困るんだよな。
気苦労によるため息を気づかれない程度すると、外から運動部の練習の声や吹奏楽部の各楽器の練習の音が聞こえてくることに気づいた。
俺は基本直帰しているので、この騒がしさには慣れていないが意外とそれは心地よく、窓から見える部活動の様子を、気づけば俺は無心で目で追っていた。
けれど同時に、同じ学生でありながらも何かに必死になっている彼、彼女らはあまりに青々しく、思わず目を細めたくもなってしまう。
そんな考えがよぎると同時、窓のすぐ下のテニスコートの女生徒が上を見上げ俺に手を振ってきた。
え、やだ!気づいたら俺も眩しく輝く学校生活を過ごしていたのかもしれない
そう思い手を上げようとすると、視界の端で手が揺れていたのを捉えた。
視線をやると、いつの間にか少女は窓際までやってきていたようで、楽しげにテニスコートに向けて手を振っている。
「・・君の知り合い?」
勘違いした恥ずかしさを誤魔化そうと、意味もない質問をしてしまう。・・頬が暑い。
どうやら隣に立つこの子もまた外の生徒達と同様に、充実した生活を送っているのだろう。
「はい、同じクラスの子です。というか、色見くん。私の名前覚えてないんですか?さっきから君、君って言ってますけど!!」
そう言ってこちらに頬を膨らませた顔を向けてくる。
俺は気まずさと恥ずかしさで目を逸らす
「いや、そもそも同じクラスの女子の顔と名前すら怪しいんだ。そんな俺が別のクラスの生徒なんて覚えられるわけがないだろ」
緊張のせいで高圧的な口調で反論してしまった。
そんな俺の言葉を聞いて明らかに残念そうな寂しそうな表情を見せる彼女。
そして、少女は短く息を吸う。
決意を感じさせる顔つきになる。
「いいですか!?私の名前は・・・!!」
言いかけたその子の名前は、扉の音によって遮られた。
二人して扉の方を見る。
そこには俺らを読んだ張本人、成美未果先生がやはり気だるげに立っていた。
「朝日凪(あさひなぎ)な。ったくお前ら成績は悪いくせに、律儀に時間通りきやがって」
そういうと先生はあくびと伸びをしながら教壇に進む。
成美先生は目を擦りながら「はやく座れよ〜」と教卓の上の埃を払う。
・・マジでなんでこんな人が教師になったんだ。
気合の入った自己紹介を静止された上に、機会を横取りされた朝日は哀愁を漂わせ、目のあたりを赤くして両手を前でモジモジしながら俯いている。
「・・・座るか」
「・・・はい」
俺は病人に対してのように近くにあった椅子を引いて朝日に着席を促す。
俺自身も適当な席に腰を下ろす。
先生は綺麗になった教卓に両手を置くと、いつもの授業の時のような口調で言った。
「よし、ここにお前たちを呼んだ理由は、あるお願い事をしたいからだ。」
お願い事?先生にしては棘のない言葉だな。
「って言ってもお前たちに拒否権はないけどな」
うん。棘しかねーわ
「その内容っていうのは、生徒会のお手伝いだ。」
当たり前のように言う先生に、つい意味が分からず俺は眉をひそめる。
「今年私は生徒会の担当教員になってしまってな。しかし、そうなった以上私の理念の元活動する。生徒会役員はそのほとんどが二年。つまりもうすぐ三年になってしまう奴らってわけだ。私は学生である以上学業に精を出して欲しいと思っている。」
それには俺も同意する。学生の本業は勉強だからね。だから俺も帰宅部な訳で。
なんだ、今のところ怪しいところなんてひとつも
「そこでだ」
力込めて言った先生は、どこか楽しげに続ける。
「お前らは生徒会の雑務及び支援をこなして欲しい。名付けるならば、裏生徒会。ってとこだな。そうすることで生徒会の役員は省力化でき、お前らは学校活動への積極的な参加を理由に内申点を稼げる・・と思う。そして私は仕事が削減され、労働環境がベンタブラックからブラックへと向上する。どうだ?いい取引じゃないか?」
やはり先生は意地悪そうに顔を歪ませる。
・・なんか色々突っ込みたい事はあるけど
「えっと、でも私たちは選挙に出てませんし、部外者が生徒会活動をしたところで、先生たちがそれを私たちの功績としてくれるかって微妙なんじゃ・・?」
「確かにな。本来なら部外者が生徒会活動に関わる事はできない。でも、だ。生徒会の担当は誰でもないこの私だぞ?生徒会の活動に関しては私の認可があれば他の先生はなにも言ってこないだろ。私って先生たちの中でも一目置かれてるからな。」
フンっと誇らしげに胸を張る成美先生。
迷惑ごとの種だから避けられてんだろ。自己中だからね、この先生。
「それに、学校からしても進級できない生徒なんか作りたくないんだ。だから少しでも自分達が学校の活動に対して誠意や成果を出せばお前たちの目下の課題である進級はクリアできるだろ」
「あれ、それじゃー、そんなお手伝いなんてしなくても一回何かの生徒会活動に参加するだけでもいいんじゃ」
あっれれー。おっかしーぞー?と俺は隙を見つけて追及する。
努めて煽り口調にならないよう意識した俺に、成美先生はニヤリと笑う。
「色見、お前なぁんか勘違いしとりゃせんか?進級のためにお前らがいるんじゃんねぇ、私の楽のためにお前らがいるんだ!!」
先生はそう、決め顔で言ってのけた。最低だよ、この先生。鬼かよ。隣を見てみると、朝日は、おぉ〜と先生に驚嘆で手を叩いている。
いや、この人名言を汚しただけだからね?
コホンと咳払いをしてから先生は
「まぁ、質疑応答が終わったところでだ。雑務として早速見回りをしてもらう。その際について来てくれる生徒会の子を一人だが紹介しよう。その子は生徒会で唯一お前たちとの同級だから仲良くしてくれ。んじゃ、入ってこい」
成美先生は教員らしくそんなセリフをいうと、フム。と満足げに教壇から降りた。
それがやりたかっただけじゃないよな?
先生の視線を追うようにして、俺は扉に目をやる。
瞬間
俺は息を呑んだ。
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