◇10
次の日。本当に公爵様が毒草園に連れていってくださった。だけど……
「あ、あの……」
「あぁ、リードだ」
「えっ」
まさか、手を繋がれるとは思いもしなかった。毒草園に連れていってくださるだけでも驚いているのに、手を繋いでくださるなんて。
でも、リード……本当に、私はペット扱いになってしまってるのね……
「勝手に歩かれて転んで毒花に触れてみろ。ぽっくり死なれてはこっちが困る」
た、確かに昨日羊の私が触って大変な事になるかもしれないって言ってたけど……本当かな。この星の人間と、羊族の私の違いって何だろう……
「やめるか?」
「えぇと……」
「これならいいか?」
「きゃあっ!?」
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
私の小さな悲鳴と、周りの驚く声。聖女召喚後に公爵様に担がれて、グリフィスさんに言われて腕に乗せられた。片腕で。まさに、それだ。
私は途中で気を失ったみたいだけど……高すぎてがっしり首に手を回してしがみついてしまった。
「あっすっすみませんっ……」
「気にするな」
「「「えっ……」」」
遠くで使用人さん達の声が聞こえるけど……どうしてだろう。
でも、そのまま歩き出してしまった。聞けずに聞けない。だから、黙って大人しくしている事しか出来なかった。
「着いたぞ。前を見てみろ」
「……ぁ」
恐る恐る、公爵様の見る先に目を向けた。その先にあったのは……色とりどりの花が広がった、お庭だ。こんな色鮮やかなお庭、見た事がない。
でも、これ……全部毒の植物ばかりなんだよね。紫とか、緑とか、そんな色ばかりだと思ってたのに。へぇ……間違えそう。
「綺麗、ですね……」
「見た目に惑わされるな」
「は、い……」
公爵様が歩いて中に入ると、中が広く感じる。それだけたくさんの毒花があるって事だよね。これ、お世話するの大変なんじゃないかな。
「これは麻痺毒を持っている。葉っぱ一枚分だけでも致死量とまではいかないがかなり効くな」
「へ……」
「こっちはよく暗殺に使われる。粉末にして食事に混入させても色が変わらず無臭だからな。暗殺にはぴったりだ」
「……」
そう説明してくださったけど……こ、怖い。毒なんてよく知らないから、こんなに種類があって危険なものなんだって初めて知った。植物図鑑でちょっとだけ毒花見たけど……本で見るのと本物を見るのとじゃ全然怖さが違う。
なんで行きたいって自分で言っちゃったんだろう……でも、毒殺とかっていうのは前の世界ではあまり聞いた事なかったし……
背筋が凍りそう……
「もういいか?」
「は、はぃ……」
「ククッ、うちの可愛いペットには刺激が強すぎたか。違う庭で散歩でもしようか」
「……」
もう、何も言えなかった。可愛いペットだなんて……でも、言い返せない。
何だか、どっと疲れたような、そうでないような。まさか毒にやられた? いや、触ってもいないし……近くにいるだけで駄目だったのかな。
でも……
「あ、あの、公爵様、もう、降ろして、いただけませんか……?」
「ペットとスキンシップを取ることに何か問題があるか?」
「えっ……」
毒草園とは違う庭に連れてきてもらったのに、全然降ろしてもらえない。一体どういう事なんだろう。周りに使用人さん達がいてずっと見てるから、恥ずかしい。だいぶ恥ずかしい。でも、そんな私の心境を見破っていたのか、さっきから公爵様のクスクス笑い声が聞こえてくる。それがあって余計恥ずかしい。お、降ろしてぇ……
「どうした、お腹が空いたか?」
「公爵様ぁ……」
「ククッ、今日はパンケーキにしようか」
「パ、パンケーキ……?」
パン、って……あのパン? 今朝の朝食にも出てきた、あのパンだよね。でも、ケーキって、甘いやつだよね……?
「だが、それを食べるにはナイフとフォークをちゃんと使えなくてはいけない」
「うっ……」
ナイフとフォーク……まだ、私ちゃんと使えない……ど、どうしよう、パンケーキ、すごく気になる……
「ククッ、安心しろ。私が食わせてやる」
「ひぇっ!?」
こ、公爵様が……!? 公爵様が、食わせる……!? わ、私に!?
「ぷっ、くくっ……お前は本当に面白いな。見ていて飽きない」
「えっ……」
「お前はそのまま、ウチの可愛い羊のペットでいればいい」
「……」
羊のペット……羊ではあるけれど……本当に私の事、ペットって思ってるのかな。からかってる、だけ?
でも、初対面でこの人と会った時のような鋭い視線や言葉は、全然なくなっちゃった。
じゃあ、ペットとしていたほうが、いいのかな。でも、怖い人の近くでびくびくしながら生活するよりは、こっちの方が全然いい。
「わぁ……!」
「どうだ、気に入ったか?」
「パ、パンケーキ、ですか……!」
目の前には、分厚くて丸い形のした、本当にパンのようなものがお皿の上に乗っていて。そこに果物や、甘いソースもかかっていて。あと、これなんだろう……? 黄色っぽい、半円形状の……
「食ってみろ」
「えっ……!?」
さっき話していた通り、ナイフとフォークで一口サイズにカットされて、そして口の前に出されてしまった。これは……は、恥ずかしい……で、でも、美味しそう……
結局、好奇心に負けて口に入れた。
「……ん!?」
「ククッ、お前は正直だな。そんなに美味しいか」
ふわふわで、甘くて、とっても美味しい……! この半円形のものは、バニラアイスというらしくて、とっても冷たくて甘い。とっても美味しい……!
こんなに美味しいものが食べられるなんて、思いもしなかった。幸せかもしれない。なら、この幸せな時間をずっと過ごせるように、わがままを言わずに大人しくしていよう。公爵様が何を考えているか分からないけれど……でも今は怖くないし。だから、大丈夫だよね。
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