第22話 絶望からの逃走


 逃がしてはならない……。

解き放ってはならない……。

救わなければならない……。


砂人形達は運動エネルギーを蓄えながら次々と己の体を崩し砂粒へ還った。

ザラザラと摩擦音を奏で真っ黒に見える程に集約すると、漆黒の巨大な竜巻に変貌した。

竜巻は口の無い砂人形達の叫びをゴウゴウと轟かせながら、大小無数の砂嵐と共に遠くの標的へ進路を取った。



「……な!何あれ!?」


まるで灰色の空を割るよう天へ昇る黒柱を目の当たりにして、僕の心臓がグシャリと歪んだ。

巨大な竜巻は辺りの廃墟を飲み込みながら、着実に此方へ向かってた。


(あれに飲み込まれたら、ひとたまりもない。もっともっと遠くへ逃げなきゃ)


僕は直ぐにセイラさんの元へ駆け寄り、彼女を抱えると脱兎の如くその場を後にした。

廃墟群を抜け僕は何も無い砂漠の上を必死に走り続けた。

だが走破音と共に聞こえる嵐の轟音はどんどん強くなる。


「はぁ、はぁ、ダメこのままだと追いつかれる!どうして転送魔法が起動しないの!?」

(このままじゃ駄目だ……)

「もっと、もっと!早く走らないと!」


その願いに答えるように僕の体が輝いた。

内からエネルギーが溢れ僕の足は、砂と瓦礫の悪路をものともしない速度で疾走した。


「マジックブーストが起動した!これらな距離を取れる」


だが竜巻によって天候が狂い、視界は大量の砂塵によって一メートル先すら見えなくなった。

それでも僕は無我夢中で足を動かした。


 「はぁ、はぁ……」


部位変形とマジックブーストの併用は僕の心身に想像以上の負担を掛けた。

意識が朦朧とする中、僕は悪夢となった砂漠をひたすら走り続けた。


(はぁ、はぁ……今止まったら直ぐに追いつかれる。何処へ逃げれば良いの……)


天上知らずの竜巻は盗人の僕達に罰を与えんと、暴力的な恐怖を巻き散らしながら迫ってる。


「う、くう……」

「セイラさん!?」

「はぁ、はぁ……リ、フル様……」

「カ、ウルさん……絶対、に……償う、だ、から……私……」

(セイラさん夢の中でも必死に戦ってる)

「はぁ、はぁ、弱気になるな!もっと早く、遠くへ走れ!僕達は覚悟を決めて来たんだ!」

「セイラさんと一緒に王女様を救って……僕は元の世界に……ご主人の元に帰るって」

「だから――」


バクゥン!


「!!!!」


 異変は突然起こった。

内側から破裂音が響くと体を包む魔法の輝きが消え、いくらアクセルを回しても応えてくない。


「足に力が入らない……だめ、これじゃ竜巻に追いつかれ……きゃぁ!」


タイヤが瓦礫に引っ掛かり、ガクッと体が揺れた。


「うあぁ!ひぐぅ!……」


僕は彼女を前方へ抛りながら盛大に転び、瓦礫の地面に体を打ち付けた。

全身に激痛が駆け抜け言葉にならない悲鳴が吐き出る。


(がぁ、体中が、痛い、そ、それに……くぅ、苦しい……胸が焼き付いてるみたい……)

「はぁ、はぁ……うぅ、セ、セイラさん……」


目の前には手足を投げ出し、ぐったりと倒れる……セイラさんの姿があった。

僕は……残った力を振り絞り、体を引きずりながら……彼女の元へと歩み寄った。


「ごめんなさい……もう、走れない……貴方を……救えなかった……」


足元には、竜巻が……暴風と砂塵が、吹き荒れてる……。


「さよならも……うぅ……言えかった……出来る、なら……もう一度……会い、たい……」


僕は……意識のないセイラさんの手を握った。


 懺悔と後悔の言葉は瞳から零れた煌めく涙と共に、荒れ狂う砂塵と轟音に飲み込まれた。


次回 『鑑定者』


 

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