第23話 鑑定者

「……暖かい……此処は?」


燦々と降り注ぐ命を育む光と、透き通る穏やな風に揺られ、僕は意識を取り戻した。


「うぅ……あぁ、セ、セイラさんは?……」


僕のか細い声に答えるように、きゅっと手を握り返されました。

隣には見た事がない程に白く美しい花々に囲まれながら、安らかに眠るセイラさんがいました。


 「あぁ……其処に居たのですね……良かった」

「うぅ、体が.……動かない」

「でも……心地いい……」


降り注ぐ微熱。花の甘い香りが流れる此処は、まるで聖母に抱かれるような安らぎがあった。

また遠くに目をやると一面の青空に幾つもの白が重なり、更に奥は天井の見えない程巨大な一本木が聳えてました。


(前にも見たような光景……あぁ、そっか……今度こそ本当の……天国に来ちゃった……)


僕はもうこの世にいない。

何もかも……終った。

そう思うと張ってた四肢の力がすっと抜け、そのまま心身が花々と一体になった。


 風が通り抜け、サァ、サァと花達が微笑むように揺れる。

すると体を安らかに温める光を『何か』がひょこっと遮った。


(何……貴方、誰?)


そして僕の頬に柔らく暖かな手が触れると、ふわり。宙へ舞い上がるような浮遊感が全身を包んだ。



 「お……い……」

「……おーい、聞こえるかい二人とも」

「……え?」


僕の目に映ったものは……見慣れた森とラミさんの姿だった。


「起きたかい?ふふ、二人共生還おめでとう。と言いたい所だけど……大分ボロボロだね」

「ラミ、さん……あれ?僕、どうして?」

「おいおいどうしたカウル君。何寝ぼけてるんだい?」

「だ、だって……僕達竜巻に巻き込まれて……死んだはずじゃ?」

「ふふ、残念。君達は先ほど転送魔法で私の元へ戻ってきたんだよ」

「それにほら手足だってちゃんとくっついてる」


ラミさんがぺたぺた、もみもみ無礼に触ると、僕はやっと実在してる実感が沸いてきた。


「あぁ、はい……僕、生きてた……戻ってこれた……」

「そうだよカウル君。君のお陰でセイラ君も生き延びた」

「本当に良く頑張ったね」


ラミさんは僕の頭を優しく撫でながら言った。


「……あぁ、そうだ!ラミさん。セイラさんが」


がばっと上半身を起こし、僕はラミさんに彼女の様子を聞いた。


「ふむ、しっかり自分の役割をこなしたみたいだけど……こりゃ内臓までいってるかも」

「こらセイラ君。名誉の負傷でイッちゃ駄目でしょ」


ラミさんは意識の無いセイラさんの上半身をゆっくり起こし、脇の下に手を回すと、よっこらしょと担ぐ。


「おっとっと、重……うむぅ、運動不足かな?」

「さてと成果を聞く前に治療だね。君は歩けるかい?」

「はい、な、何とか……」


僕は何とか立ち上がるが、足がふらふらする。


「だいぶおぼつかないね。不安だろうけど私に掴まりなさい」


言われるまま僕はラミさんの服をきゅっと握った。


「よし帰ろうか。フラワーティーも用意してあるよ」


僕達は出来るだけ急いでツリーハウスへ向かった。


 居間に荷物を置き、セイラさんを寝室に運ふと、ラミさんは直ぐにセイラさんの治療を始めました。

僕は貰った薬を塗り、腫れた頬を冷やしながら様子を見守り続けた。


「……はいこれで共完了っと。ふひぃー疲れた」

「セイラさんの容体は?……」

「一部内臓の損傷と骨折。あと全身に擦り傷、打撲でかなり重症」

「だけど全身くまなく回復魔法を掛けて、回復薬をたらふく使ったから体は元通り。その内目を覚ますよ」

「……良かった……セイラさん本当にありがとうございました」

「うむ、よしよし。でも安心するのはまだ早いよ」

「君達にとっては今からが本番だからね」

「結果報告のお話ですか……」

「その通り、さぁ私達は居間に戻ろうか」

「……あの僕セイラさんの傍にいたいです」


ラミさんの提案に対し、僕は自身の思いを伝えた。


「気持ちは分かるけど此処で話をすると休んでるセイラ君の邪魔になっちゃうよ」

「セイラさんの邪魔に……」

「そう、ベッドも一つしかないし、下でゆっくりしながら話をしようじゃないか」

「……分かりました」


少々強引な誘いだと感じたが、僕はラミさんの提案に同意し一緒に居間へ行った。


 「さて君の今後に係る大事だ。準備は良いかい?」

「はい」

「良い返事だ。さぁ、君達の成果物を見せてくれ」

「これが神域指定地で見つけた物です」


僕は緊張しながら剣が収まった鞘をラミさんに差し出した。


「ラミさんの魔道具が鞘に収まってる剣に反応してました」

「うん。ではさっそく見せてもらうよ」


ラミさんは剣の柄や鍔を確かめ、慎重に少しだけ鞘から抜き抜いた。

すると刃を凝視するラミさんの瞳が金色に輝いた。

「それも魔法ですか?」

「そう、『鑑定』ってスキル。これで製造に使われた素材や付与された魔法の特性を読み取れるのさ」


僕は価値を見定める彼女の答えを、不安に揺られながら待った。

やがてラミさんの目の輝きが収まると、全て悟ったのか、どっと腰を椅子に沈めた。


 「ふむぅ……なるほどね……これはまた随分と……」

「すごい物を持ち帰ったね」

ラミさんの両手を広げびっくり仰天と、わざとらしいリアクションをしながら言った。

「ラミさん……依頼の方は達成ですか?」

「カウル君……」


一息の間を入れラミさんは告げた。


「残念。これは駄目だね」


次回 『僕の行方』

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