第6話 疾走
「……」
モンスターと呼ばれてる者は、二人が入った部屋の前でじっと身構えていた。
その者達が己の道を切り開く為闘いを挑んでくるのか。
それとも観念し命を差し出すのかは分からない。
何方にせよモンスターはただ『挑戦者の切実な希望に試練を与える』という命令に邁進していた。
「……!」
その時モンスターはある異変に気付いた。
部屋の中から声が聞こえてくる。
「……回せば……走って……」
「……を踏むと……」
詳細は分からないが二人の何方かがレクチャーを行ってる事はニュアンスで理解できた。
「……わかった……」
「……体に悪いから……かけたら……すぐに……」
「それじゃ……行くよ!」
キュルキュル……ズン!!!。
「!!」
部屋の中から爆音が響いた。
それは一定のリズムでボコボコと煙を吐き出す様な駆動音であった。
また音に交じりかすかに女達の声が聞こえた。
(何かが起こる)
そう直感したモンスターの手に力が入り抜き身の刀に殺気が集まる。
すると部屋から響いていた音が変化した。
ギュルゥゥ!と音量が一気に大きくなる。
また一瞬音が途切れたと思うと更なる高音を室内で響かせ、音源は着実に此方へと近づいてくるのが分かった。
そしてもう一度音が途切れた直後。
バン!!!
「!!!!」
勢い良く扉が開かれてた。
モンスターはすかさず中から現れたそれに剣を振り下ろした。
ガァアァン!
モンスターの放った斬撃が僕達の直ぐ後ろかすめ、破裂音と共に地面を吹き飛ばした。
(やった!かわせた!)
元の姿となった僕は心の中で歓喜の声を上げた。
磨かれた光沢のある黒いボディに真赤なホイールを履いた原動機付自転車。
タイヤはブロックの路面をしっかりと掴み僕の体は通路を駆け抜けた。
更に通常の49㏄のそれとは思えない桁違いの加速と速度でモンスターを置き去りにした。
『マジックブースト』。
僕が新たに得たスキルの名前。
通常よりも多くの燃料を消費する事で最大加速や速度を大幅に高める。
しかし燃料を使い切れば僕は走れなくなる。
(でも僕は※※※※※!)
(最高水準の燃費性能を持ってるんだ!そう易々と力尽きたりしない!)
「カウル来る!」
セイラさんはハンドルにしがみつきなが声を上げた。
攻撃を放った為出遅れてたモンスターは踵を返し羽を広げると直ぐさま此方へ飛んできた。
(なら振り切りる!セイラさんもっともっと回して!)
「分かった」
ハンドルを通じて彼女の声が伝わったセイラさんはスロットルを更にひねる。
すると僕は通常では考えられない程加速し、スピードメーターが端まで振り切る速度でモンスターを引き離す。
(良し!これなら逃げ切れる!)
心の中でガッツポーズする僕。
「カァ!――カウル次右!」
強烈な風圧を顔面に受けながら、セイラさんが叫んだ。
最初の難所である急カーブが僕たちの前に迫っていた。
(セイラさんアクセル緩めてブレーキ!ハンドル切って!)
キイィィィ!!
スピードが落ちながらもかなりの速度で、僕は傾きながら急カーブに突っ込んだ。
「うぐぅ!」
セイラさんの体に強烈な風圧と強烈な慣性力がかかる。
「離す……ものかぁ!」
セイラは振り落とされまいと必死にハンドルを握る。
(曲がれぇ!!!)
14インチの小さなタイヤはグリップし地面を捕らえ続ける。
車体が地面に度々接触し火花を跳ねた。
(もう少し、もう少しで……どうだ!?)
僕達はクラッシュする事無く走り続け、やがてカーブの角度は緩んでいった。
(曲がり切った!やったセイラさん!お願い!)
「わかった!」
掛け声にセイラは再びアクセルを回しカウルを加速させた。
(さっきは危なかったけどこのまま行けば……)
「待ってカウル!来る!左に避けて!」
セイラの声にはっとした僕は壁ギリギリまで車体を寄せた。
次の瞬間ビュン!と僕の右を何かが通り抜けた。
(何あれ!?)
「魔弾!石の様に固めた魔力を飛ばしてくる!」
(あんな速度で!?当たったら転倒しちゃうよ!)
「直感で指示する。任せて!」
焦る僕にセイラさんは力強く答えた。
(分かった!セイラさんに任せる!)
モンスターは手の平を此方に向け容赦なく魔力の塊を発射する。
「来る右!」
僕達は阿吽の呼吸で車体を操作した。
弾丸は左の壁を弾き土煙を上げる。
「次左、右、右、左!」
僕達は次々と発射される魔弾を寸前の所で交わし続けた。
(出口はまだなの?)
「もう少しだから頑張って!」
二人は命懸けで道を駆け抜ける。
そして僕達はあるもの目にした。
(セイラさんあれ!遠くが明るくなってる!)
「そこが出口!」
それはまさしく希望の光であった。
(よし!セイラさんもっと僕を加速させて!)
「えぇ!……いや待って!?何かおかしい……」
「あぁ、そんな!」
浮足立つ僕であったがセイラさんは希望を打ち砕かれる様な悲鳴を上げた。
次回 『光の中へ!』
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