第2話 逃走と懇願

「はぁ!はぁ!はぁ!」


僕は慣れない体で先の見えない迷宮を必死に走り続けました。


「あ、あのなんで僕達を狙ってるの!?」

「はぁ!、はぁ!、い、今は余計な――事考えないで!もう少しだから!走って!」


前を走る彼女は限界寸前とばかりに息を切らし、答えを返す余裕はなさそうでした。

さっと後ろを振り向くと例のロボットが金切り音を響かせながら僕達を追いかけてきます。


(もし追いつかれたらあの剣で……)


逃げ足に混ざりカシャン、カシャン!と徐々に大きく響いてくる音。

酸素を取り込もうにも詰まる息、それに連動して更に苦しくて張り裂けそうな胸。

全力で走ってる事だけが理由じゃない。


「はぁ、はぁ!いやぁ、だめ!このままじゃ追いつかれるよ!」


僕は自身に近づく確かな『終わり』を心身で感じ取り思わず悲鳴をあげた。


「はぁ、はぁ!み、見えた!あの部屋!頑張って!」


彼女が精一杯の声で示す先に扉が見えました。


「あれ!わぁ、わかった!」


その時ブン!と後ろから風音が抜けました。


「ひぃ!」


ロボットが振るう凶刃が僕の背中をかすめたのです。


「嫌だ!壊れたくないよ助けて!ご主人!」

「あの中に飛び込んで!」

「うわあぁ!」


ロボットの刃先が僕の背中に触れる瞬間。

彼女がドン!押し開けた扉の中へ飛びこんだ。



「はぁ!はぁ!――」


僕は息を切らしながら、扉越しにロボットと見つめてました。

ロボットは空を切った刃先を見つめ、それを鞘に収め沈黙しました。


(止まったけど……何で?)


ロボットは開いているはずの扉の前で立ちすくみ、中へ入って来る事はありませんでした。

すると扉がゆっくりと閉まりだし、パタンと静寂の部屋に閉音が響きました。


「はぁ、はぁ……な、なんだったのあれ?……」


あまりの出来事に呆然とする僕でした。


「はぁ!はぁ!ゲホ、ゲホ!――」


ですが隣で倒れたまま苦しそうに胸を激しく上下させてる彼女を見てはっとしました。


「だ、大丈夫ですか!?」


僕は背中のリュックをおろし、急いでタオルと水稲を出しました。


それで彼女の汗を拭うと頭の後ろに敷きました。


「えっと……あった!染みるけど我慢してね」


「う!くぅ……」


リュックから取り出した小型の救急箱。

その中に入ってる消毒液を手に取ると、傷口にかけ包帯を巻いてあげました。


「これで良いのな?……」

「はぁ、はぁ……うぅ……」


荒い呼吸は次第に落ち着き、彼女はゆっくりと此方に顔を向けました。

汚れていがらも整った気品のある顔つき。

それに合う滑らかな金髪と青色の瞳でした。


「冷たいお茶ですけと……飲めますか?」


彼女はゆっくりと体を起こし、渡されたお茶をゆっくりと飲み干しました。


「ありがとう……落ち着きました……貴方お医者様……だったの?」

「違うよ僕は乗り物」


「名前は『※※※※※』」


「えっと……なんて言ったの?」

「あれ?待って僕は『※※※※※』……あれ!?」


僕の口から発せられた言葉は自身でも聞き取れないノイズでした。


(どうして?僕の名前が言えない!?)


「あ!え、えっと……そう!『カウル』」

「ご主人は僕の事カウルって呼んでる」

「カウル……」

「私は名前は『セイラ』よろしくカウルさん」

「よ、よろしくお願いします……セイラさん」

「いつぅ……」

「あぁ、大丈夫ですか!?」

「私は平気……それより」


セイラさんは改まって僕に言いました。


「カウルさんお願い!どうか私を……」

「助けて下さい」


セイラさんはそう言いながら僕に深く頭を下げました。



次回 『剣と魔法の異世界』

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