第255話 絶倫の魔力
「×××! ×××××! ××××!」
聞くに耐えられ無い内容だわ。
さすがに耳障りだ。
「黙れ! アバズレ!」
「何がアバズレよ! お前なんか×××の×××よ!」
三倍で言い返してきやがった。こんな手も足も出ない状態で良くイキがれるな。感心するよ。
俺は【黒月】を抜いてアマル姫の顔に突き付けた。
「お前のその長い耳は飾りか? どうやら俺の声が聞こえないみたいだな。それなら切り落としてやろうか?」
俺は意識的に酷薄そうな顔を作り、微笑を浮かべる。歯がガチガチと震え出すアマル姫。
「やっと静かになったな。やればできるじゃないか。これからは一度でちゃんとやれ。理解したか?」
アマル姫は凄い勢いで何度も首を縦に振る。
「偶然とはいえ、ウィンミル家の一人がここにいるのはちょうど良い。これから俺のやる事を良く見ておけ。お前らの罪深さを教えてやるよ」
これで世界樹に集中できるな。さぁこれからが本番だ。
「ジョージ様! 私は何をすればよろしいでしょうか?」
直立不動で俺の指示を待つシーファ。なかなかの好印象だ。登用試験中だもんな。それでもこの指示は耐えられるかな? ある意味でシーファの忠誠心を試す指示だ。
「これから世界樹を消滅させる。だからシーファは世界樹の枝にストームブレードを放ってくれ」
シーファは生まれてから今まで母なる世界樹に仕えてきたんだ。さすがにこの試験は厳しいだろうな。
シーファは俯いてしまった。肩が震えている。
やっぱり無理か。これまでの自分の人生の全否定になるもんな。
「くくく、ふふふ、ハハハハハ! そんな事くらいでジョージ様のお側にいられるようになるんですか。喜んでやらせていただきます!」
満面の笑みで呪文の詠唱を始めるシーファ。
【疾走する
おぉ! 先日見たストームブレードより威力が増しているよ! やっぱり魔法は気持ちの
それより何の躊躇も無いシーファに一抹の恐怖を感じるよ……。
あ、俺はとんでもない勘違いをするところだった。
シーファが涙を流している……。凛々しさの中に悲しみを感じられる顔だ。
取り敢えずはそっとしておこう。
シーファが放った四本の風の刃が世界樹の枝を切断した。
世界樹は樹木であるが、濃密な魔力の集合体である。その濃密な魔力が枝の強度を上げているようだ。
シーファの風の刃では2〜3本を切断したところで止まってしまう。それでも助かるけどね。
俺は地面に落ちた世界樹の枝を見る。普通の樹木の幹くらいの太さだよ。切り口からはドス黒い魔力が急速に漏れ出している。
「ギュンターさん、ボードさん、悪いけど切り落とされた枝を集めておいて。あとから燃やすから」
「おぉ! 任せておけ。それにしてもさすが神木だな。もう再生を始めているじゃないか」
ギュンターさんが言ったとおり切断された枝からは新しい枝が生えてきている。
たぶんそうなるだろうと思ったよ。でもこれで良いんだよね。
「予定どおりだよ。じゃ、俺も始めるわ。落ちてくる枝に注意してね」
【疾走する
ズドドドドーン!
200本の風の刃が幾多の枝を切断し、そのまま空に向かって突き抜けていく。
地面には切り落とされた世界樹の枝で山ができていた。
「ジョージ様、これは集める必要が無いみたいですな。そのまま燃やしたらどうです?」
「そうだね。ちょっと待ってね。今燃やすよ」
【苛烈なる炎、
一瞬のうちに炎に包まれる世界樹の枝の山。切断されたばかりの枝だから燃やすのが大変かと思ったが問題なかった。もっと煙が出るかと身構えていたが、出るのはドス黒い魔力のみ。盛大に燃えているわ。
「ジョージ様は火属性の上位魔法である炎属性の魔法も使うのですね。フレイムダンスなんて初めて見ましたよ」
ボードさんが感心した声をかけてくれる。
やっぱり火属性の上位魔法である炎属性の魔法はファイアボールやファイアアローとは火力が違うや。
上位魔法の呪文を覚えておいて良かったわ。ぶっつけ本番でもなんとかなるもんだ。でも俺がヤリたいのは
炎が踊り狂うのを止めた後には、大量の真っ白な灰が残された。そしてその灰はキラキラと光りながら崩壊し、大気に溶けていく。
「おぉ! 幻想的な光景ですな。まさに英雄譚の一ページに
ギュンターさんが感嘆の声を上げた。
世界樹はほとんどが魔力で構成されている。切り落とされた枝は魔力を保つ事ができないから、魔力が空気に溶け込んでいく。残された樹木は魔力の残滓。スカスカになっているのか?
俺に切り落とされた箇所は既に新しい枝を生やし始めている。魔力の流れがハッキリ見える。ぶっとい幹から大量の魔力が再生している箇所に動いている。
それに伴い、わずかに世界樹の幹が細くなった。意識していないとわからないほどだけど。
耐久勝負だな。望むところだよ。
レベルが三桁を超えてから魔力が枯渇する前兆すら感じた事がないからな。
いまや俺の魔力量は俺の精力に匹敵する程の絶倫だ。覚悟しろよ、世界樹!
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