第253話 立ち竦む
やっと連れてきたか。
騎士団のギュンターさんとボードさんは少し
三人とも身体の前で両手首に手錠が嵌められている。
あれ? エクス帝国魔導団特製手錠にそっくりだ。
嵌められると魔力が激減するんだよな。普通は魔法が使えなくなるけど、俺が嵌めるとどうなるのかな? 帝都に戻ったら一度試してみるか。
手錠を外される三人。ゆっくりと俺に近づいてくる。
ギュンターさんが俺を見て苦笑いを浮かべた。
「お久しぶりです、ジョージ様。エンヴァラにいくら説明しても信じてもらえなくて困ってしまってました。立場的にエンヴァラと敵対をするわけにもいかず、ジョージ様が来られるのを待っておりました」
ギュンターさん、やはり少し痩せたかな?
「ギュンターさん、ボードさん、二人とも無事で安心しました。もともと俺の依頼が発端です。ご迷惑をおかけしました。すいません」
俺の謝罪に慌てて打ち消すボードさん。
「ジョージ様は何も悪くありません。気にしないでください。最近はまとまった休みが取れていませんでしたから、ちょうど良い骨休みになりましたよ。なぁギュンター」
「おぉ、そうだな。質素なメシがちょっと悲しかったが、無駄な贅肉が落とせて結果的には良かったな」
優しい二人だな。騎士団の人ってカラっとした性格の人が多い印象だ。どれ、カタスさんは特に変わりないな。
これで人質も解放されたし、ようやく我慢する必要は無くなった。
それでは三人にはもう少し頑張ってもらおうか。
「シーファ。ギュンターさんとボードさんに剣を渡して。カタスさんはいらないね」
シーファが俺の指示に少し戸惑いながらもギュンターさんとボードさんに用意していた剣を渡した。
カタスさんが慌てて口を開く。
「何のつもりなんですか? この緊迫した状況で剣を帯剣させるなんてあらぬ疑いをかけられますよ」
カタスさんが尤もな忠告をしてくる。そりゃそうだよね。ギュンターさんとボードさんが剣を受け取ったらエンヴァラの人達が少し
「あらぬ疑いはかけられないさ。だってエンヴァラの人達の心配は本当の事だから」
俺の言葉に、皆が困惑している。
「ギュンターさんとボードさんとカタスさんは俺に付いてきても良いし、離れていても良いよ。ただ付いてきたら少しは危険性があるからね。シーファは家臣団の入団の試験中だから付いてきて」
「す、すいません。せめて何をするかだけでも教えていただけますか?」
カタスさんが焦った声をあげた。
俺は努めて平静な声で返答する。
「囚われのお姫様を救いに行くだけだよ」
一瞬の静寂の後に笑い声が響く。
「おい! 聞いたかボード! ジョージ様の英雄譚が生まれる瞬間が見られるみたいだぞ!」
「聞きましたよ。これはドラゴン討伐を超える英雄譚になるかもしれませんね。なんせ囚われのお姫様を救うのですから。これは気合いが入りますよ」
興奮している騎士団の二人。しかしカタスさんは困惑したままだ。
シーファは無表情だ。果たしてシーファはこの後の状況でも無表情でいられるかな?
俺は一歩前に出て大声を張り上げる。
「聞け! エンヴァラの民よ! 貴様らは罪深き民である! 罪を重ねて生きている事に誰も気が付いていない! 誠にもって
俺は高らかに宣言した。
そして呆然としているエンヴァラのエルフの集団を無視して俺は走り出す。
断末魔の叫びを上げ続けている世界樹に向かって。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
開放されている正門を駆け抜けて集落に入った。
エンヴァラの住居は木造なんだな。石造りのエクス帝国の帝都と違って、やわらかな印象を受ける。
周囲の森と調和が取れており、なんとも素敵だ。
そして正門から世界樹まで一直線に道が引かれている。
たぶんここがエンヴァラの大通りだな。数人のエルフが驚いた顔を見せている。
そりゃそうだ。俺が体内魔法の身体能力向上で全力疾走しているもんな。イカれた速度になっているわ。
エクス帝国騎士団のエリートであるギュンターさんとボードさんですら付いて来れない。
シーファは置いてけぼりになっているな。
まぁ、世界樹の前で準備してたら追いついてくるだろ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おいおい、凄いな……。
世界樹を遠目で見ていて大きいと感じていたが、近づいていくと感じていたよりさらにデカい。
周りに比較対象が無かったから、実際の大きさより小さく見えていたのか。
既に前方の視界は世界樹で埋められている。
ふざけている大きさだよ……。
これが全て檻だと言うのか。
世界樹は魔力の塊だ。そして異様な形に歪んでいる。禍々しい濃密な魔力を感じる。どす黒い緑色をした魔力……。
ドラゴンを超える圧倒的な魔力を放つ世界樹。俺は世界樹の目の前で不覚にも立ち竦んでしまった。
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