第233話 シルファさん

「先程プリアから聞きましたが、本当に明日ジョージ様が魔法を見せてくれるのですか?」


 湯船につかるなり、俺に確認をしてくるシルファさん。顔が近いよ。何か凄く興奮している。そして相変わらず胸をまったく隠そうとしない。


「そうですね。プリちゃんと約束しましたから」


「それはプリアだけに見せるのでしょうか? できれば私にも見せて欲しいのですが」


 べつに何人に見せても良いけど、シルファさんは明朝からエンヴァラに帰還して長老に事の経緯を説明しに行くんじゃないの? そんな口ぶりだったよな。


「でもシルファさんは明朝この砦を離れるんじゃないですか?」


「ジョージ様の魔法を見せていただけるなら、そんなものは他の者に任せる決まっています!」


 決まっているんだ……。シルファさんの言葉である【最後の最後まで諦めずに最適解を求めるのが責任ある立場の者の行動】に感銘を受けていたんだけど、これが責任ある立場の者の行動?


「シルファさんって責任ある立場の人ですよね? 重要な長老への説明や説得を他の人に任せるのはどうなんですか?」


 俺の口調は少しだけシルファさんを責める感じになったが、シルファさんは悪びれずに胸を張る。おぉ!! やっぱり眼福、眼福。


「私の座右の銘は【私の言うとおりにしろ! そして私のやる事をするな!】です」


 ここまで開き直ると逆に清々しく感じるのが摩訶不思議。言い切るって大事かもね。

 それにもしかしてシルファさんは座右の銘愛好家? 心からの親友になれるかも!


「なるほど、素晴らしい考えをお持ちですね。自分は正しい事を言っている。しかし間違った事をしているから真似をするなって事ですか。結構、真理を突いている座右の銘ですね」


「ありがとうございます。これで私が砦に残る事を理解してくれましたか。それでジョージ様の魔法を私に見せてくれるのですか?」


 さてどうするか? プリちゃんには交換条件として年齢を聞いたんだよな。あ、それならシルファさんに聞くのはこれしかないよな。長年の疑問が解消されるじゃん。


「プリちゃんには魔法を見せる代わりにプリちゃんの年齢を教えてもらったんです。シルファさんはエクス帝国魔導団長のサイファ魔導団長と姉妹なんですよね? それならサイファ魔導団長の年齢を教えてください」


 本人に聞けないなら知っている人に聞く。当たり前だが、簡単な解決策だ。


「ジョージ様は姉のサイファと知り合いでしたね。なるほど、姉は年齢を隠していましたか。姉はエルフの社会を飛び出して人間社会で生きております。人間社会だと実年齢を知られると薄気味悪く感じる人もいるかもしれませんね。姉が隠していたのを私から教えるのは心苦しくなりそうです。また姉から叱られます」


 あら、それは残念。

 それでもやっぱりホッとした自分がいる。

 そうだよな。サイファ魔導団長の見た目は25歳くらいだ。それが人間の老婆と同じ歳とか言われたら神秘性を感じる人もいるが、薄気味悪く感じる人もいるわな。世の中には知らない方が良いこともあるか。


 そう安堵しながら俺はサイファ魔導団長の年齢を知る事を諦めていたが、シルファさんはダンを超える悪い笑顔を浮かべる。


「確かに姉の年齢を私からジョージ様に教えるのは心苦しいです。しかしジョージ様のお願いを少しだけ変えていただければ問題が無くなります。ちなみに姉と私は双子・・です」


 なんていう悪知恵……。

 この人、おっぱいの先は綺麗な桃色だが、心は男遊びが激しい黒乳首だ!


 双子なら生まれた日が同じ。つまりは俺のお願いを「シルファさんの年齢を教えてください」に変えれば良い。それでサイファ魔導団長の年齢が判明する。シルファさんからすれば、自分の年齢を教えただけだとサイファ魔導団長に主張ができる。座右の銘の【私の言うとおりにしろ! そして私のやる事をするな!】もそうだし、この悪知恵もそうだ。

 圧倒的に黒いわ、この人。

 止めておこう。今なら引き返せる。このまま行けば俺の心も黒乳首になりかねない。好奇心は猫を殺すか……。過度な好奇心は身を滅ぼすよな。


「わかりました。よくよく考えればサイファ魔導団長に悪いのでシルファさんの年齢を聞くもの止めておきます。貸し一つでどうでしょう? それで魔法をシルファさんにお見せしますよ」


「本当ですか!? 絶対ですよ! 今の発言の証人がこんなにいますからね! 後から嘘だったなんて許しませんから。貸し一つなんて言わずに三つでも四つでも問題ありません。いくらでも貸しを付けといてください」


 喜び過ぎて俺の首に腕を回して抱きついてくるシルファさん。顔が近い近い、ついでに素敵なお山を俺に押し付けちゃ駄目だよ。寝た子が起きちゃうから……。

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