第217話 上級貴族の専任侍女

「どうかお願いです。私がジョージ様への思慕しぼの念を抱きながらグラコート伯爵邸で働く事をお許しください。他に何も望みません。ただ貴方の笑顔を見ていたいんです……。それが私の幸せなんです……」


 ポーラの目からは涙がポロポロ流れている。

 うぅ……。キツい……。この状況でダメって言わないといけないのか。

 それでも俺は必要とあらばいなと言える男のはず。

 頑張れ! 俺は男の子! ハッキリ否と言えるおとことなるのだ!


「悪いけど……」「許しましょう」


 何っ!? 俺のいなの言葉に被せる言葉が!?

 

「許可いたします。素晴らしい想いです。その気持ちを忘れずに日々ジョージ様のために尽くしてください」


「本当ですか? 本当に許していただけるのですか? 主人であるジョージ様に懸想けそうする私を変わらず雇っていただけるのですか?」


「問題ありません。私は貴女のような人を求めておりました。ジョージ様への熱い想いを語らえる仲間です。ポーラさん、一応確認させていただきます。先程の想いに嘘偽りはございませんね」


「はい! ジョージ様の近くで働かせていただけるだけで満足です。ただジョージ様の笑顔をいつも見たいだけですから」


「了解致しました。貴女は15歳でバラス公爵家に裁縫の下働きで雇われましたが、確か最低限ですがメイド教育も受けていますね。貴女には専任侍女になっていただきたい。これからジョージ様の身の回りの世話を受け持ってもらいたいのです。貴女のようなジョージ様の完全な味方・・・・・は得難い人物です。ちょうど明日からジョージ様はエルフの里に行かれます。貴女にはそれに付き添っていただきます」


 あれよあれよと言う間に物事が決まっていく。あれ? 俺の意見は?


「ちょ、ちょっと待ってよダン。ポーラは俺の完全な味方かもしれないけれど問題があるだろ」


「はて? 何も問題はありませんが?」


「あるだろ! 明白にあるよ! ポーラは俺に気があるんだよ。そのポーラを俺の身の回りの世話をさせるなんて、猛獣の前に高級肉を置くに等しいだろ」


「なるほど、ジョージ様が猛獣でポーラが高級肉ですか。上手く喩えるもんですね。ただ、ジョージ様は猛獣というより性獣です」


 性獣って……。確かに自覚はしているが他人に言われるとちょっと傷がつくな。


「猛獣でも性獣でもどっちでも良いよ。間違いがあったら事だ。俺はスミレを悲しませたく無いんだよ。ギリギリの譲歩として、グラコート伯爵邸で働くのを許すぐらいだろ」


「ジョージ様は専任侍女を置いておりません。これは対外的にあまりよろしくありません。容姿端麗の専任侍女を持つ事は貴族の基本ステータスです。またジョージ様の警護の面でも問題があります。ジョージ様は伯爵ですが、エクス帝国内では特別の貴族です。家臣団もそうですが、御側付おそばづきも整える必要がございます。ジョージ様の専任侍女ともなれば間違いの無い選択をしなければなりません」


「それなら別にポーラでなくても良くない?」


「残念ながらグラコート伯爵家は新興貴族なんです。通常の上級貴族には長年仕えている下級貴族が存在しているのです。そのような下級貴族の家では仕える上級貴族に揺るぎない忠誠心を生まれながらに叩き込まれます。そのような人材を御側付きに採用しているんですよ。御側付きには主人に危険が迫った時には身を挺して主人を守る必要があります。残念ながら、今のジョージ様には絶対の忠誠心がある人材がいないのです」


 なるほど、絶対の忠誠心ねぇ。生まれながらに叩き込まれるって……。


「でもポーラは忠誠心ではないよ。俺の駄目なところを見て幻滅されたら問題じゃん」


「ジョージ様は確かに駄目なところが多いですが、駄目なところを含めての魅力ですから問題ありません」


 駄目なところを含めてって……。これは褒め言葉? 貶していないか?


「取り敢えず御側付きである俺の専任侍女が必要って事は理解したよ。だけどもう一つ大きな問題がある。さっきも言ったけどスミレが悲しむ可能性があるだろ? 俺はそんな危険は避けたいんだよね」


「危険性ですか? それは無いですね」


「無いわけ無いだろ? 俺に好意を持っている素敵な女性が四六時中一緒にいて甲斐甲斐しく俺の世話をする事になるんだぞ。簡単に予想できるよ。俺の自制心は風前の灯だ」


「あぁ、そういう事ですか。先程も性獣の前に裸の女性を置くもんだって喩えてましたもんね」


「猛獣の前に高級肉だろ……」


「まぁどちらでも良いです。ジョージ様は勘違いをしております。いや勘違いでは無く専任侍女の役割り、業務をわかっていませんね」


 専任侍女の役割り? 業務?

 そんなの普通に俺の身の回りの世話だろ?


「言い換えましょう。上級貴族・・・・の専任侍女の役割りです。これは明確に違うのです」


 うん? 俺の知らない事なのか? また貴族の常識なのかな。


「上級貴族の専任侍女の役割りは、身の回りの世話は当たり前ですが、何かあった時に自らの身体を盾にして主人を守る必要があります。そして大事な役割りに主人の性的処理があります」


 性的処理!?

 上級貴族の専任侍女って専任の風俗嬢なの!?


「伯爵以上の上級貴族の場合、無闇やたらに外で性的なものを発散されると困るのです。継承問題や相続問題が生じる可能性がありますから。醜聞にも繋がりますしね。安心して性処理ができるように長い歴史の中で構築された方法が専任侍女なのです。子飼いの貴族家の令嬢なら御家騒動には発展しませんから」


 なるほど、下半身事情で揉めてきた歴史があるんだろうなぁ。

 お家を継承させていく安全装置が専任侍女なのか。


「スミレ様は実家はノースコート侯爵家です。平民出身のジョージ様と違って侯爵令嬢としての常識をお持ちでしょう。スミレ様に取っては、上級貴族の当主が専任侍女で性的処理する事は当たり前と考えます。またそれが貴族の常識です」


 また貴族の常識か……。俺はもともと平民だから、侯爵令嬢として育ったスミレと常識が違うのだろうな。しかしこのまま貴族の常識に流されるのはなんかしゃくさわるわ。

 よし! 俺は俺の常識でスミレへの愛を貫いてやる!

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