第163話 一番の問題
屋敷に帰るとベルク宰相とスミレが俺を待っていた。
ベルク宰相はいつもと同じく疲れた顔をしている。しっかりと休めているのか? たぶん無理なんだろうな。
「お忙しいところ足を運んでいただいてありがとうございます。詳細はスミレから聞いていただけたでしょうか?」
「ジョージさんはエクス帝国の最重要人物です。そのジョージさんの相談ならいつでも駆けつけますよ。スミレさんから話は聞きました。確かに難しい判断になりますね」
そうだよね……。相手はエクス帝国一の金持ちのバラス公爵家だもんな。
「まずは前提条件を確認いたしましょう。ジョージさんはエクス帝国の皇帝陛下になるつもりは無いですよね?」
そりゃそうだ。面倒だもんな。頼まれてもやだよ。なるくらいならエクス帝国から出ていくわ。
「そうですね。皇帝陛下になるくらいならエクス帝国を
「さすがにジョージさんにいなくなられたら困ります。冗談でも、そんな事は言わないでください。次にジョージさんはスミレさん以外の人と結婚したくないんですよね?」
おぉ! 当たり前じゃ! スミレの悲しむ顔なんか見たくないからな。
「当然です。俺はスミレと幸せになるんです。俺が幸せでスミレも幸せじゃ無いと困ります」
俺の言葉でスミレの顔が少しニヤけている。
あ、そんな顔もするんだ。これはこれで魅力的だな。
「なるほど。それは困った事になります。この二つを両立させるためには、ジョージさんは本当にエクス帝国を出ないと駄目かもしれません」
えっ! そうなの?
「この短期間でジョージさんはロード王国のパトリシア第二王女とバラス公爵家のオリビア・バラスから婚姻を求められています。今のジョージさんの側室はそれだけ魅力的なんですよ。パトリシア王女の求婚はエクス帝国とロード王国の力関係で何とかなりましたが、今回は相手が悪いです。タイル公爵は、このエクス帝国の紛れもない権力者ですから」
「簡単に断るのは駄目なんですか?」
「そうですね。ジョージさんがエクス帝国の皇帝陛下になるのなら、好き勝手やってもらって良いのですが、エクス帝国の一貴族として今後も生活するのであれば、表立ってバラス公爵家と対立するのは得策ではありませんね。断れば、タイル公爵が話していたような噂がエクス帝国の貴族に流れるでしょう。それによりグラコート伯爵家の威信が
スミレが憤慨した顔でベルク宰相に質問をする。
「タイル公爵はジョージが怖くないんですか? そんな事になればジョージから物理的に殺されるかもしれませんよ? そんな選択はしないと思いますけど」
「確かに普通はそう考えるかもしれません。ただタイル公爵は
確かに人を殺すより、この国を出た方が面倒じゃないしな。
「それにジョージさんがエクス帝国を出たとしても、この国を攻めてくるとは考えていないですね。そんな人なら皇帝陛下になる事を選びますから」
何で好き好んで自分の故郷を攻めるよ。そんな事はするはずないや。
あ、完全に俺の性格を把握されている!?
「前回のジョージさんとタイル公爵との会談は、タイル公爵としては失敗でした。その失敗をしっかりと反省して計画を練っていますね。これは油断していると喰われますね」
あんなオッサンに喰われたくは無いね。
参ったなぁ。それならエクス帝国を出るか……。
スミレさえいれば何でも耐えられるからな。
「それなら伯爵位を返上して他の国に行く事を考えます。お金が溜まっているので数年はゆっくりして、その後は冒険者でもやってみます」
ウホッ! これはこれで魅力的な考えだ。毎日朝から晩までスミレを堪能できるじゃないか!
「ちょっと待ってください。短絡的に考えてもらっちゃ困ります。それをすると周囲に
少し焦ったベルク宰相。
徒ならぬ影響か……。
ま、あるわな。そんな簡単じゃ無い事は理解しているさ。ただ、スミレとの酒池肉林生活が魅力的過ぎただけだよ。
「まず、ジョージさんがエクス帝国を出た場合の影響です。アリス皇女の後ろ盾が無くなりますのでアリス皇女の立場が揺らぐ事になります。権力闘争が今よりも激しくなるでしょう。アリス皇女を
なるほど。確かにカイト侯爵やタイル公爵なんかが
「次にロード王国です。ジョージさんの重石が無くなったロード王国からするとエクス帝国への感情は最悪になるでしょう。戦争待った無しですね」
内戦の可能性に対外戦争まで勃発するってか。
「後は経済への影響です。今、ドラゴンの魔石でエネルギー革命が起きようとしています。その期待感から好景気になってきています。それがドラゴンの魔石の供給がストップする事で経済の冷え込みの恐れがあります。英雄のジョージさんがエクス帝国からいなくなる事も帝国民の気持ちを暗くしてしまいます。国民の暗い気持ちは不景気になりやすいですからね」
俺ってそんなに罪作りの男になっていたのか!?
「そしてこれが一番の問題なんですが……」
えっ! まだあるの?
「ジョージさんがいなくなると私が寂しくなるって事ですね」
そう言ってベルク宰相は微笑んだ。
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