第162話 宰相案件とパトリシア王女
何かタイル公爵に頭が振り回されてばかりだ……。
ちょっと冷静になれ。
オリビアが奴隷?
エクス帝国での奴隷は大きくわけて3種類だ。
他国との戦争での戦利品としての戦争奴隷。犯罪者が奴隷身分に落とされる犯罪奴隷。借金を返せなくて奴隷になる借金奴隷。
奴隷は平民の下を作る事で、平民の不満の
しかし公爵令嬢が奴隷に落とされるなんて前代未聞だよ。普通は家の恥になるからそんな事はできないよな。
「さすがにオリビアさんを奴隷に落とすのはどうなんでしょうか? オリビアさんはエクス帝国騎士団のエリートと聞いております。その方を奴隷に落とすのはエクス帝国の損失では無いですか?」
「まぁグラコート伯爵様には関係無い話ですから、これから私が話す内容は独り言と思ってください。このオリビアがエクス帝国騎士団のエリートだとしても、一個人の武勇なんてたかが知れています。ジョージ伯爵様やスミレ様は例外中の例外です」
あ、タイル・バラス公爵の雰囲気がいつものように変わった。
ねっとりとした感覚だ。背筋がゾワゾワする。
「オリビアはアリス皇女の護衛にする為に平民からバラス公爵家に迎え入れたのに、やった事と言えばグラコート伯爵様に暴言を吐いてアリス皇女の不興を買いました。近い将来、かなりの確率でオリビアはバラス公爵家に不利益をもたらします。今の状況では挽回は不可能でしょう。早めに損切りするのは経済の鉄則ですから」
損切りって……。人間には血が通っているんだぞ。この人は他人の心がわからないのか?
「どうせ損切りをするなら、グラコート伯爵家様との
この人は
でもバラス公爵家の恥になるよな?
「あ、付け足しです。オリビアを奴隷に落としてもバラス公爵家の恥にはなりません。この件でグラコート伯爵家にバラス公爵家が謝罪をしたが受け入れてもらえなかった。バラス公爵家はグラコート伯爵家の怒りを鎮める為に泣く泣く当事者のオリビアを奴隷に落としたと思われるでしょう。またそのように貴族に流れる情報を私は操作しますから」
なんなんだ!? これは脅しなのか?
オリビアを俺の側室にしないと、オリビアは奴隷に落とされる。そしてそれはグラコート伯爵家がバラス公爵家に無理矢理迫った事になるってか。
それでもオリビアを側室にするのはダメだ。俺は幸せな家庭を作るんだから。
あ、これは俺の許容量を超えているわ。お父さん案件だよ。やっぱりベルク宰相に相談すれば良かったかな。
仕切り直しだ。
「タイル公爵様の提案は理解いたしました。この提案はエクス帝国全体の問題になるかもしれません。誠に申し訳ございませんが、後日正式に返答させていただきます」
居住まいを正すタイル公爵。
「私の提案を考えていただけるようでありがたいです。その返答が今後のグラコート伯爵家様とバラス公爵家の良い関係になる事を期待します。それがエクス帝国には必要な事ですから」
前回は物別れに終わったタイル公爵と俺の会談。この人は本当に俺と
タイル公爵の提案を考える時に真意を確認しておく事は必要だよな。
「前回、私は貴方を怒らせたと思うのですが、どうしてグラコート伯爵家と友誼を結びたいと考えているのですか?」
タイル公爵の口元が僅かに上がる。
あ、苦手な顔だ。
「前回の事を改めて考えて上で、今後の事を考えたまでです。グラコート伯爵様は圧倒的な武力を背景にアリス皇女やベルク宰相の信頼が厚い。現時点のグラコート伯爵様に歯向かうのは愚か者のする事です。私はお金以外を信用していません。しかしグラコート伯爵様は違うようだ。前回の私の提案はお金を主体に考えていました。だからこそ上手くいかなかったのでしょう」
「貴方から『後悔するぞ。私に歯向かうという事か』って言われましたが?」
「ハハハ。『一時の感情で未来の可能性を潰す人とは契約はしにくい』と私に返したではありませんか? それこそ一時の感情で未来を台無しにする訳にはいかないのです」
タイル公爵の声は静かな声だったが、自信と迫力に溢れる声だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
午後から俺はロード王国の軍人の引率。今日からロード王国の軍人を引率する事になるんだよね。
スミレにはベルク宰相に相談する為にエクス城に行ってもらった。
それにしてもロード王国の動きは早い。
王女であるパトリシアに提案したのは11月5日だ。11月7日にはベルク宰相からロード王国がエクス帝国にレベル上げをさせて欲しいと要請があったのを聞いている。
それでも本国との調整も必要だからロード王国がレベル上げに参加するのはもう少し時間がかかると思っていた。
エクス帝国とロード王国は馬車で14日ほどかかる。往復で1ヶ月弱。急いでも数日早くなるくらいかな? ロード王国で検討する時間はほとんどなかった計算だ。
あり得ないほどに早いわ。
俺が修練のダンジョンに行くと、10人程度の集団が
その集団の唯一の女性が俺に気が付いた。
今日も綺麗な金髪が風に靡いている。大きな目が特徴的だ。
そして満面の笑みに変わる。
「1ヶ月ぶりですね。ジョージ様。本日からロード王国軍をよろしくお願いいたします」
ロード王国のパトリシア王女だ。
そんな笑顔は反則だよ。
やっぱり可愛いな……。
そしてとても柔らかそうな胸だ。
惜しい事……、あ、俺は何を考えている!?
「こちらこそよろしくお願い致します。ドラゴン討伐は危険ですので、ダンジョン内ではこちらの指示に従ってください」
心の動揺を見せずに紳士的に振る舞えた俺は今日も素敵だ! これもルードさん、さまさまだ。
その後、ロード王国軍のレベル上げは
パトリシア王女から夕食を誘われたが、今日は断る事にした。俺の屋敷からバラス宰相の魔力反応を感じるんだよね。今日はタイル・バラス公爵の提案を考えないと駄目だからね。
パトリシア王女とは今度食事を共にする事を約束して別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます