第147話 秋風に吹かれて【カタスの視点】
カイト皇太子殿下がザラス皇帝陛下の暗殺に関与していたため、侵略戦争推進派が大人しくなったそうだ。
そのおかげでエルの外出が認められるようになる。
私は非番の【無の日】にエルを連れ出した。
まずは最近帝都で人気になっている劇を観に行く。劇の題名は【
この劇の原作は帝都で馬鹿売れしている小説だ。そしてこの小説はジョージさんとスミレさんの恋愛がモチーフになっている。
さすがに大都市帝都で人気の劇だ。すぐにハラハラドキドキする展開に惹き込まれる。そして主人公がドラゴン討伐に成功した時には劇場内は拍手喝采になった。
ハイライトは帝国中央公園の噴水の前でのヒロインへの告白。劇を観ている女性達は朗々とした主人公の告白に胸を熱くしただろう。ヒロインが主人公の告白を受け入れた時、エルは涙を流していた。
私もこのような感動的な告白がしたいものだ。
その後昼食を食べた後に街中をぶらついた。特に目的も無いゆったりとした時間。気になったお店を覗きながらエルと他愛もない話を楽しむ。
それにしても街中にはジョージさん関連の商品に溢れ返っていた。
姿絵を販売しているお店には行列ができている。改めて私は帝都におけるドラゴン
実際のジョージさんは
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな日々を送っていた時にサイファ魔導団長から呼び出しを受けた。時間がある時に団長室に来るようにとの伝言。
魔導団第三隊の自分の仕事は書類整理ばかり。はっきりいえば暇しかない。早速私は団長室に向かった。
「エル・サライドールをエクス帝国魔導団に入隊させようと思うんだけど、どうかしら? 貴方から見てエルはエクス帝国に忠誠を誓えると思う?」
「問題無いと思います。エルは元々エクス帝国出身ですし、ロード王国に見捨てられました。ロード王国に戻る事も叶いません。今回の寛大な処置にエルはエクス帝国に感謝していると思います」
「私もそう思うんだけど、そう思わない人もいるのよね。ロード王国軍の英雄がエクス帝国に心から忠誠を誓うわけがないって」
その時、サイファ団長の口元が上がる。何か嫌な予感が……。
「これは私の独り言よ。ロード王国の人、つまりエルがエクス帝国に同化するための象徴的な事があると助かるのよね。例えばエクス帝国民と結婚するとか。それがエクス帝国の軍人だと最高なんだけどな」
獲物を追い詰めた顔のサイファ団長。有無を言わさず獲物の首に牙を突き立てる。
「そういえばカタス、あなたは独身でしたね。そろそろ結婚とかしたほうが良いんじゃないかしら」
私にエルと結婚しろって事か……。
確かに将来的にはそうなりたい。しかし今はエルとの仲を深めている最中。
エルは上昇志向が強い女性だ。女性が結婚するとどうしても制約がついてしまう。それにエクス帝国民の女性の平均結婚年齢は22歳から24歳。エルは現在18歳。結婚する人もいるが、早い印象は否めない。
エルにプロポーズして失敗したら今の関係が崩れてしまうじゃないか……。
「カタス、明日は任務を休みにしなさい。エルを外に連れ出すのも良いわね。エルを夜の10時まで戻してくれれば問題無いから」
頭がグルグル回る。この流れは、明日、エルにプロポーズしなければならないのか。
「最近はジョージさんのプロポーズを真似るのが帝都では流行っているみたいね。女性はロマンチックなのに憧れるから」
ニヤリと笑うサイファ団長。これはもう逃げられないな。
私は肩を落として魔導団団長室を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昨晩一生懸命考えたが、私にロマンチックなプロポーズは無理だ。
エルが感動して泣いていた【
そして私の出した結論はありのままの気持ちをエルにぶつける事だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「え、えっと……。もう一度言ってくれるかな?」
「だからいいわよ、カタス。結婚しましょう」
あまりにもあっさりとした返答に唖然としてしまった。
「何よ、呆けた顔をして。貴方が結婚してって言ったんでしょ。まさか冗談じゃないわよね?」
「もちろんだ。冗談でこんな事は言わない。ただ、私の告白をエルがあっさり受け入れてくれて
「別にあっさりではないわよ。私だってロマンチックな告白に憧れていたんだから。カタスの告白はとてもロマンチックだったわ。私にとっては【
何かわからないがどうやら上手くいったようだ。やはりありのままの気持ちをぶつけるのが正解だった。
寝不足で頭が働かない。また告白の成功で頭が熱くなっている。ポヤポヤした頭に秋風がとても気持ちよかった。
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