第143話 必要? 必要じゃない? そんな事はくだらない【カタスの視点】

 帝都に入った馬車は真っ先に騎士団第二隊の詰所に向かった。

 騎士団第二隊は国内の治安維持が仕事であり、国内の警察権を持っている。

 ベルク宰相は、今後のエルの処罰はザラス皇帝陛下の案件になる可能性が高い事を伝え、手荒な扱いをしないように指示してエルを騎士団第二隊に預けた。


 騎士団第二隊に連行されるエルと視線が絡んだ。

 エルは潤んだ瞳を私に向けている。

 これが今生の別れになるかもしれないと思うと胸が締め付けられる。


 その時、ベルク宰相が詰所の責任者に新たな指示を出した。念の為、魔導団第二隊の応援を呼ぶようにと。

 これはチャンスだ。私の頭には魔導団第二隊に勤めている同期の顔が浮かんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 エクス城の謁見の間で行われたロード王国派遣外交団の任務報告と解散。その後に開催された帰還パーティ。どちらも焦りの思いを抱きながら参加していた。

 帰還パーティには外交団の一員として参加しなければならない。急いで挨拶しなければならない人と顔を合わせパーティ会場を後にする。


 遠征帰りの疲れた身体に鞭打って魔導団第二隊詰所に向かう。

 私の魔導団同期の隊員であるラバルは詰所で書類仕事をしているところだった。


「ラバル! 頼みがあるんだ!」


「おぉ! カタスじゃないか! あれ? お前ロード王国派遣外交団の団員だったよな。今日は帰還パーティに参加じゃないのか? 全く羨ましい限りだよ。こちとら治安維持の仕事があるから参加もできないからな」


「そんなことはどうでも良い! 頼みがあるんだ! 騎士団第二隊から魔導団第二隊に応援要請があったと思うんだが、それに俺にやらせてくれないか?」


「うん? 確かに昼に応援要請があって隊員が数名騎士団の詰所に向かったな。その応援をカタスがやるのか?」


「そうだ! 魔導団第二隊からサイファ団長に応援要請をしてくれ! 私を指名して!」


「おいおい落ち着いてくれよ。騎士団第二隊からの応援要請は魔導団第二隊に来たんだぞ。それなのに魔導団第二隊から魔導団第一隊の応援要請をするのか? 応援の応援なんて理解できん。それゃ無茶だ」


「ラバル、取り敢えず次の言葉を一言一句そのままサイファ団長に伝えてくれ。現在、ロード王国から連行したエル・サライドールの身柄は騎士団第二隊にあります。エル・サライドールの処罰は今後ザラス陛下の案件になる可能性があるため、慎重に応対する必要があります。騎士団第二隊より魔導団第二隊に応援要請がきておりますが、エル・サライドールは取り調べなどにおいて心を開いておりません。しかしながら魔導団第一隊のカタスは連行時に一緒にいたため、エル・サライドールとそれなりの関係を作っているようです。今回の騎士団第二隊からの応援要請にカタスを推薦いたします。と」


 私は一気呵成に喋った。

 唖然とするラバル。少し下を見ながら考えをまとめているようだ。


「確かにそれならカタスが騎士団第二隊からの応援要請を受けるのもありえるかもな。でもそんな事をする必要があるのか?」


「今回は必要か必要でないかを価値基準にして動いてないんだ。ただ私がそれをやりたいだけなんだよ。我が儘である事は理解している。でもそれを押し通させてくれ」


 難しい顔をして私を見つめるラバル。その視線を逸らさずに私は受け止める。

 ラバルは溜め息を一つついて口を開いた。


「わかったよ。真面目なお前がこんな事を頼むなんて、よっぽどの事なんだろ。俺からサイファ団長に提言してみるさ。ただし貸し一つだぞ。今度飯でも奢れ」


 次の日、私は魔導団本部にて騎士団第二隊の応援の辞令を受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る