第49話 深夜の訪問


 スミレがフレイヤを連れ帰った後は散らかった応接室の掃除だった。

 魔力暴走させるなんて申し訳ない。


 テキパキと動く使用人達。俺もやろうとしたらメイド見習いのサラに止められた。

 だって料理人のバキですら手伝っているじゃないか。

 執事長のマリウスから自室でゆっくりしてくださいと言われて俺は引き下がった。

 邪魔になるだけなんだね。


 お風呂に入り、ゆっくりしていると知っている魔力が近づいてくる。もう遅い時間なのにな。


 応接室の片付けが終わり、遅めの晩御飯を食べ終わったマリウスに来客がある事を告げる。

 全く申し訳ない。

 俺は身支度を整えて遅い時間にやってくる客人に備える。

 数分後、呼び鈴がなった。


 先程の応接室とは違う応接室に通しておいてもらう。

 少しランクが下がる応接室だがその方がフレイヤに良いだろう。


 応接室にはノースコート侯爵家当主のギランさんと奥さんのソフィアさん、スミレとフレイヤの4人がいた。

 ちょっと手狭になるけどしょうがないか。先程の応接室にはフレイヤも入りたくないだろうから。


 俺が応接室に入るなりギランさんとソフィアさんが頭を下げる。


「この度は、末の娘のフレイヤがジョージさんに大変失礼な事をした。ノースコート侯爵家の当主としてグラコート伯爵家に謝罪をしたい。どうかこの謝罪を受け取って欲しい」


 う〜ん。

 この謝罪を見ると本心にしか感じられない。今回の件はフレイヤだけの暴走と思えてくる。でも本当にそうなのだろうか? ギランさんの第一印象に引っ張られているのかな? 野心家に見えてしまう。

 でもまぁ結婚式も近いしね。わだかまりは無いほうが良いか。


「謝罪は受け取ります。ただしフレイヤさんが言っていた事は、エクス帝国に取って看過できない内容が含まれています。その件についてはどうなさいますか? 果たしてフレイヤさんは全てをギランさんに話しているのか?」


 俺が顔を向けるとビクッとなるフレイヤ。


「一応はフレイヤから聞いているのだが、なかなか要領を得なくてな。取り敢えずフレイヤがジョージさんに失礼な事を言ってしまい、大変怒らせてしまった事は分かった。悪いがジョージさんから話してもらえるかな?」


 俺は丁寧に説明を始める。

 まずはロード王国のエル・サライドールを残忍なやり方で殺すように頼まれた事。

 そしてベルク宰相をロード王国内で殺す事。

 また死んだベルク宰相の代わりに外交団の団長になりロード王国の上層部を殺すように言われた事。

 極め付けはノースコート侯爵家が結婚を機に俺を取り込もうと画策しているが、失敗したらスミレを殺してフレイヤを後釜に据える可能性があると言われた事。


 俺の説明を聞いていたギランさんは見る見る青褪めていく。

 ソフィアさんもオロオロしだした。

 スミレは冷静に俺の話を聞いていた。


「以上が今晩、フレイヤさんに言われた事です。フレイヤさんには、もしノースコート侯爵家が俺やスミレやこの屋敷の使用人等の身内に変な事を画策するようなら容赦はしないと伝言を頼んだんですが伝わっていますか?」


 力無く首を横に振るギランさん。


「まさかそこまで馬鹿な発言があったとは思わなかった。この内容が外に漏れたら国内的にベルク宰相の暗殺を画策した犯罪者じゃないか。ベルク宰相の実家のエバンビーク公爵家から不興を買う事になる」


 まぁそうだよね。

 ベルク宰相って良い所の家の人だったんだな。知らなかったよ。


「フレイヤさんの話した事を知っているのは俺と執事長のマリウス、メイド長のナタリーとここにいる人だけです。外に漏れる事は無いでしょう」


「おぉ! そうしてくれるか。それは助かるよ。この話が外に漏れたら、良くてフレイヤはエバンビーク公爵家に人質のような婚姻を結ぶように言われるか、修道院に入るか、最悪、自死の命令があったかもしれない」


「ここだけの話にするのは良いのですが、私としては、ノースコート侯爵家とフレイヤさんからの報復、又は口封じが怖いんですよね」


「そんな事はしないし、させない!」


「ギランさんは損得勘定がしっかりしているので信用できますが、フレイヤさんはどうでしょうか? 話していると頭は切れそうです。俺と執事長とメイド長に恥ずかしい所を見られています。小賢しい事を考えそうなんですよね」


 俺がフレイヤを見ると、またビクッとなった。

 今は怯えているけどねぇ。時間が経つとヤバいタイプの女性だよね。


 ソフィアさんが泣きそうな顔で大きな声を上げる。


「こんな話は全部嘘よ! フレイヤがそんな事を言うはずが無いじゃない! ジョージさんも悪ふざけは止めて!」


「俺に言われても。フレイヤさんに直接聞いたらどうですか?」


 ソフィアさんは俺からフレイヤに視線を移動させた。


「フレイヤ。ジョージさんが言った事は本当なの? 全部嘘よね。あなたみたいな子が、そんな事言うわけないわよね」


 縋るようなソフィアさんの目だ。

 その真摯な目を受け止めきれずに俯いてしまうフレイヤ。

 数秒待つとフレイヤは何かを言おうとして顔を上げた。

 しかし俺と目が合って固まってしまう。


 なんか適当な事でも言おうとしたのかな?

 フレイヤ魔力の質は汚泥だもんな。

 話が進まないな。ハッキリさせよう。


「フレイヤさん。はっきりさせよう。そうしないと話が進まない。喋れないのなら首を振れ。俺が言った事が正しいのなら縦に、間違っているなら横に振れ」


 緊張感に包まれる応接室。

 皆フレイヤを見ている。

 その緊張感にあたふたするフレイヤ。遂にはシクシク泣き出した。


 こりゃ駄目だ。

 今日はもう遅いし、お開きだな。


「ギランさん、今日はもう止めませんか? 明日、私がノースコート侯爵家に伺います。それまでは今日、フレイヤさんが言った事は内密にしておきます」


「それまで内密って事は、外に漏れる可能性があるって事だね」


「そうですね。状況によってはベルク宰相にお話しするかもしれません。私も何かしらの保証が無いと安心できませんから。情報をながせば口封じの意味が無くなりますしね」


「分かった。今日のところは一旦帰宅しよう。誠に申し訳ないが、明日ウチの屋敷で待っている」


 やっと散会になったよ。

 今日はマールとフレイヤに絡まれて疲れたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る