第19話 オシャレに目覚める


魔導団第一隊修練部8〜10日目。

 午前中はいつも通り騎士団第一隊の人を修練のダンジョンに連れていく。特に問題は生じていない。


 オーガのモンスターハウスで3回全滅させる。それだけで60個を超える魔石が手に入る。

 モンスターハウスのオーガが復活するまでの4時間ほど地下3階でサーチ&デストロイ。40個ほどの魔石を得る。

 午前中だけで100個ほどのオーガの魔石だ。


 一つ当たり1万バルト。100個で100万バルト。2人で分けて1人当たり50万バルト。半日で1ヶ月分の給料を稼いでしまう。

 単純計算すると、1週間、5日間で250万バルト。1ヶ月で1,250万バルト。1年で1億5千万バルト。

 イカれた金額だ。


 別に欲しい物がないのでギルドカードにそのまま貯まっていっている。


 午後の訓練は激しさを増している。少しずつではあるが成長を実感できる。

 成長はヤル気を上げるねぇ。


 修練のダンジョンの入場の公募の予約枠が全て埋まったらしい。

 自分の目で見ないと信じられないのかな?


 朝と夜の魔力循環と魔力ソナーの併用訓練は続けている。訓練というより無意識でやってるだけだけどね。

 もう無意識で併用ができるようになっている。慣れって恐ろしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部11日目。

 ヤッホー! 明日は休みだ! テンション爆上がり!

 明日は式典用のスーツを取りに行く予定。

 当然スミレさんと一緒に行くのだ! その後は2人で夕食予定!


 さあ! 頑張って修練のダンジョンに行きますか!

 テンションが天井知らずの俺に、今日連れて行く騎士団第一隊の人はちょっと引いていた。

 でも気にしない!

 ハイテンションのままオーガを倒しまくる。

 あれ? テンション高いといつもよりファイアアローの威力とスピードが上がっている気がする。魔力制御は変わらないな。精神的なものでも魔法って効果が変わるんだね。


 午後はサイファ団長への報告会。

 こちらも何も問題なかった。先程のファイアアローの威力とスピードについてサイファ団長に聞いてみた。


「それは興奮していつもより魔法に魔力を込めてしまったのね。新兵が初陣で良くやる事よ。いつもより魔力を込めると魔法の威力が上がりスピードも上がるわ。その代わり魔法制御がしにくくなるのよ。貴方の場合は魔法制御が特段に優れているから感じなかったんでしょうけど」


 へぇー。そうなんだ。やはり亀の甲より年の功だね。あ、なんかサイファ団長の雰囲気が変わった。


「貴方、なんか失礼な事を考えていなかった? なんか不愉快な感じを受けたのよね。まぁ魔法を使う時は平常心が大切ね。感情が爆発すると魔法制御が効かなくて魔力暴走する場合があるから」


 なるほど。サイファ団長の年齢については思ってもいけない。心にメモをしておこう。

 魔法を使う時は平常心か。浮かれていてはダメってことだね。


「ありがとうございます。肝に銘じておきます」


「あ、それと週明けの【青の日】の午後の訓練にカイト皇太子殿下が視察に来るって。まぁ貴方を見に来るんでしょうから。よろしくね」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔導団第一隊修練部12日目。

 昨日から続くテンションは続いている。良く寝れたな俺。

 今日は夕方の5時に待ち合わせ。いつも通りスミレさんが宿舎まで来てくれる。洋服屋でスーツを受け取り、その後夕食の予定。

 午前中は何しているかな。せっかくだから今日着て行く洋服を買いに行くか。自分のセンスには自信がないからお店の店員さんにコーディネートをお願いしちゃおう。

 善は急げ! 思い立ったが吉日! よし行こう!


 そこそこ高級そうな洋服屋に入る。

 綺麗なお姉さんが店員さん。今日、高級な飲食店へ女性と食事に行く事を説明し、コーディネートを頼んだ。

 何と店員さんは暗めの赤色のシャツを持ってきた。今年の流行色とのこと。

 自分では選択できない色だな。下はダークブルーのスラックス。革靴も一緒に購入した。

 また散髪を勧められる。お勧めの散髪屋まで教えてくれる優しさだ。早速、そこで散髪をする。

 宿舎に帰宅して昼食を食べ待ち合わせ時間までゆっくりした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後4時40分。魔力ソナー開始。

 まだかなぁ。まだかなぁ。まだかなぁ。


 10分ほどでスミレさんの魔力反応を感じた。早速、宿舎の前で待つ。

 左の手首にはスミレさんとのお揃いで買ったブレスレットをしている。


 僕に気づいたスミレさんが目を見開いた。


「ジョージ君、いつもと雰囲気が違うね。ちょっと吃驚したよ」


「今日、散髪に行って、洋服も買ってきたんです。変じゃないですか?」


「なかなか似合っているよ。変じゃなくてカッコ良くなってるから安心してくれ。それでは行こうか」


 今日のスミレさんは白のシャツに黒系のスカートを履いている。スミレさんの左手の手首のブレスレットを見た時にはにやけてしまう。


 頼んでいた式典用のスーツはとても素敵だった。試着した俺を見てスミレさんも頷いてくれた。


 満足して飲食店に向かう。当たり前のように個室に案内され、ワインで乾杯した。

 食事をしながら会話を楽しむ。至福の時だ。


「そういえば、昨日の午後の修練のダンジョンで冒険者が大怪我したみたいだな。オーガと戦ったそうだ。その怪我をした冒険者は、あんなにオーガを倒せる人がいるわけがないだろ、きっと弱いオーガに違いないって言ってたんだって。それで戦って返り討ちにあった。死ななかっただけ儲けもんかな」


「そんな事があったんだ。冒険者っていろんな事を考えるんだね。俺からしたら斜め上の考えだよ」


 ワインを一口飲んでスミレさんが真剣な顔になった。


「あと、ウチとロード王国との国境で緊張感が高まっているみたいだ」


「緊張感? 何か理由があるのかな?」


「ロード王国側の国境付近で盗賊の被害が増えている。ロード王国は盗賊の裏にはエクス帝国が暗躍していると言っているわけだ。当然、エクス帝国としては関係を否定しているんだけどね」


「ロード王国がその盗賊を掃討すれば問題解決じゃないの?」


「そんな単純な話じゃない。その盗賊の装備は普通の盗賊と比べてとても優れているらしい。その盗賊を討伐しようとしたら、しっかりとした軍を出さないといけなくなる。ロード王国が国境付近に軍を出すとなるとエクス帝国も国境付近に軍を出す必要が出てくる。軍と軍が向かい合ったら、ちょっとした切っ掛けで戦争に突入する可能性が出てくる。だからロード王国は盗賊討伐に軍を出せなくなっている」


「難しいんだね。どうすれば解決できるかわからないや」


「ロード王国の言い分も理解できる。盗賊が優れた装備をしているなんて、後ろにパトロンがいるに決まっている。そのパトロンの可能性が高いのがエクス帝国の息がかかっている商人あたりかな」


「スミレさんは盗賊の裏にエクス帝国がいると思っているの?」


「エクス帝国の一部の人だと思っている。ロード王国を攻めて、戦功をあげたいんだろ。証拠が無いから、しらばっくれられるのが悔しい」


「盗賊の裏にいる人物に心当たりがあるの?」


「ノースコート侯爵家。私の父親ね」


 衝撃を受けた。スミレさんの父親は侵略戦争推進派だったのか。

 スミレさんはまたワインを一口飲んで微笑んだ。


「私から話し始めたけど、この話はもう止めましょう。一応戦争になるかもしれないからジョージ君には知っておいて欲しかったから。でもこれ以上話すとせっかくの楽しい雰囲気が台無しだ」


 そうだな。せっかくスミレさんと食事をしているんだ。楽しまないと損だよね。


「そうですね。そういえばスミレさんに兄弟はいるんですか?」


「兄と妹がいるかな。兄はエクス城で文官、妹はエクス帝国高等学校に在学している。兄妹仲は普通かな。ジョージ君のご家族は?」


「恥ずかしい話なんですが、俺が13歳の時に母が妹を連れて家を出て行ってしまったんです。父は17歳の時に身体を壊して亡くなっています。祖父母はもういませんから天涯孤独の身ですね。まぁ気楽とも言いますよ」


 俺は気にしないんだけど、家族の話は地雷だったかな。話題を変えよう。


「そういえば、この間カイト皇太子殿下に呼ばれまして……」


 その後は穏やかに会話をしながら、食事をして帰った。

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