第11話 騎士団長からの呼び出しと白亜のダンジョン
特別任務24日目。
今日は休みだ。
習慣になっている魔力循環と魔力ソナーの併用を行う。併用での魔力ソナーでも有効範囲が500mを超えている。
お、今週も先輩は女を連れ込んでいるな。
羨ま…けしからん!
食堂で朝食を取るか。
宿舎の食堂で朝食を食べていると見知った顔の騎士の男性が寄ってきた。騎士団第一隊の訓練で一緒になった人だ。
「ジョージ・モンゴリだな。休日のところ悪いがゾロン騎士団長が呼んでいる。午前10時に騎士団本部の団長室までご足労お願いする」
なんだろう? 嫌な予感がする。いや違う、これはとても嫌な事が起こる確信だ。
「誠に申し訳ございませんが、今日は休日です。謹んでお断り致します」
怒り顔になる騎士の男性。
「貴様は何を言っているんだ! 騎士団長が呼んでいるんだぞ! 休みなんて関係あるか!」
「俺は魔導団所属ですよ。なんで関係の無い騎士団長に呼ばれて行かないといけないのですか?」
「お前は騎士団第一隊の訓練に参加しただろう! 無関係とは言わせないぞ!」
「騎士団の訓練に参加したのは、上司に当たる魔導団長の指示があったからです。今回の呼び出しとは関係ないですね。用事があるなら騎士団長が来るのがスジでしょう。まぁ来てもらっても今日は休みなので会いませんけどね。今日中に俺と会いたいのならば魔導団長の指示をもらってきてください。それならば考えます」
騎士団の男性は怒りで口がプルプルしている。
「理解した。後悔するなよ!」
騎士団の男性は背中越しにもイライラがわかる様子で帰っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
せっかくの休日に朝から気分が悪いな。宿舎にいるとまた騎士団がくるかもしれないから外出するか。たまに街に出るのも良いな。あ、一般に開放されている他のダンジョンに行くのも面白いかな。
帝都の1番大きなダンジョンは西の白亜のダンジョン。とても賑わっているみたいだ。まあ1人でも大丈夫だろ。
用意してこようっと。
装備はいつもと同じ軽装で良いか。剣だけはスミレさんからもらった騎士団ご用達のそこそこの剣である。魔石を拾うためにリュックも必要か。
いざ行かん!
帝都から白亜のダンジョンまでは2kmくらいの距離がある。魔力循環で身体能力向上を使えばすぐに着いた。
今日は休みの【無の日】なのに白亜のダンジョンは賑わっている。冒険者は休みが無いのかな?
ダンジョンの横にある売店で白亜のダンジョンのマップを地下10階層まで購入する。
魔力ソナーを使って最短距離で進んでみよう。
白亜のダンジョンは壁と天井が白い岩石のダンジョンだ。やはり壁と天井はダンジョンのエネルギーで発光している。
魔力ソナーを使って最短距離を進む。前方に人間の魔力反応が4つ。その奥に20ほどの小さな魔力反応がある。俺は気にせず進む。
どうやら4人パーティの冒険者みたいだ。男性が2人と女性が2人の構成。どうやら体長が50㎝ほどのモグラっぽい魔物にてこずっているようだ。
「こんにちは!」
俺は明るく挨拶したが返答はない。
「この先に進みたいので魔物を倒しちゃって良いですか?」
前衛の男性が怒ったように声を張り上げる。
「何言ってんだ! こんな大量のポリックを1人で倒せるわけないだろ! 丁寧に一体一体倒すのがセオリーだろ! 邪魔するな!」
何か今日は良く怒られるなぁ。厄日だきっと。今度お祓いに行こう。
了解を得られなかったが勝手に倒しちゃおう。
モグラもどきは皮膚が柔らかそうだから眼球を狙う必要があるかな。一応眼球を狙うか。
【火の変化、千変万化たる身を矢にして
20本の火の矢がモグラもどきに向かう。眼球に射線が通っていたのは眼球に、そうじゃ無いのは身体の真ん中にファイアアローを当てた。
良かった。全部倒せたみたいだ。
唖然とする4人の冒険者。
モグラもどきは全て魔石に変わっていく。
とても小さい魔石だな。拾うのも面倒だ。ほっとこう。
「それじゃ、俺は先に行くね」
俺はその後も最短距離で白亜のダンジョンを進んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
低層に出てくる魔物はポリック(モグラもどき)、ゴブリン、コボルト、コウモリもどき(名前知らん)。
ゴブリンとコボルトは錆びた剣や鎧を装備していた。死んだ冒険者のものを拾って使っているのだろう。
魔力ソナーで不意打ちを防ぎ、剣とファイアアローで進んでいく。魔石は小さいので拾わない。オーガの倒し過ぎの弊害だな。
途中から豚顔の二足歩行の魔物が出てきた。これがオークかな? それほど強くない。というより弱い。俺の剣術で簡単に倒せる。
確かオークを安定して倒せるようになると冒険者として一人前と言われるはずだ。オーク討伐で生活できるだけのお金が稼げるらしい。
うん。やっぱり国から無理難題を言われたら冒険者になろう。
狼みたいな魔物も出てきた。10体くらいで連携をしてくる。
せっかくなので剣で戦うことにした。なかなかのスピードがあり楽しめた。
気が付いたら購入したマップの最後まで来てしまった。
白亜のダンジョンは10階層おきに強力な魔物が出てくる。強力な魔物は地下11階層に続く階段の前の部屋にいる。その部屋の事を冒険者はボス部屋と言っている。
ボス部屋には1つのパーティしか入れないそうだ。ボスは倒されても新しいパーティがボス部屋に入ると復活するそうだ。ダンジョンの摩訶不思議だね。
ボス部屋の扉の前には4人パーティが2組並んでいた。
俺はその後ろに並ぶ。
皆んなが怪訝そうな視線を俺に向ける。がっしりした男性が話しかけてきた。
「なんだお前は見た事ないな。他の街のダンジョンから移ってきたのか?」
「いや生まれも育ちも帝都だよ」
「ここまでソロで来たのか?」
「そうだけど、何か問題があるのか?」
「ここのボスはオークキングだ。耐久力とパワーがあるからソロはキツくないか? 帰ったほうが身のためだぞ」
「でもボス部屋を超えた先にダンジョンの入り口に戻れる転移水晶があるんだろ。帰るの面倒だからボスを倒していくよ」
「馬鹿じゃないのか? だから命は大切にしろって言っているんだ!」
「オークキングってオーガより強いのか?」
「そんなわけないだろ。オーガなんて化け物とオークキングを一緒にするな」
「ならたぶん大丈夫だ。俺の事は気にしないでくれ」
がっしりした男性は諦めたようで、その後は声をかけてこなかった。
それにしても結構待つな。オークキングが耐久力あるって言っていたから倒すのに時間がかかるのかな?
30分ほど待って俺の番がきた。
ボス部屋は20m四方の部屋だった。
中央に黒い
靄の中に目が光った。
【火の変化、千変万化たる身を矢にして
先手必勝! 2本の火の矢が光った目に刺さった。
崩れ落ちる靄に包まれた魔物。
少し経つと中くらいの魔石がでてきた。一応持ち帰るか。
俺は魔石を拾ってボス部屋の奥の通路に出た。転移水晶があり触るとダンジョン入り口まで転移した。
うーん。あんまり面白くなかったな。やっぱりソロは寂しいや。
同じダンジョンでもスミレさんと一緒なら楽しめたかもしれないなぁ。やっぱり何をするかじゃなく誰とするかだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オークキングの魔石の納品ついでに冒険者ギルドの食堂で昼メシでも食べるか。
昼メシを食べていたら3名の騎士に俺は囲まれた。
今日は食事中に騎士に話しかけられる日なのか?
リーダーらしき男性騎士が怒り口調で言葉を発す。
「ジョージ・モンゴリだな。騎士団本部まで来てもらおうか。拒否するなら連行するまでだ」
一体全体なんだっていうんだ。落ち着いて食事もできない。俺は魔力循環を開始した。
「その件については丁重にお断りしましたよ。そのように騎士団長にお伝えください」
「おい! 連行するぞ! 取り押さえろ!」
マジですか! 吃驚です!
俺の腕を2人の騎士が抑えようとする。それを避け詠唱をする。
【火の変化、千変万化たる身を矢にして
6本の火の矢が騎士の両肩を貫く。
これで腕が使えなくなっただろう。これで安心だ
「先に手を出してきたのはお前らだからな。今度は手加減はしない。事の経緯をしっかりとゾロン騎士団長に伝えるんだな」
俺は痛みで
あ、身体能力向上したままだ……。こりゃ顎の骨が砕けているね。報告できないやん。
まぁ良いか。
青褪めている2人の騎士。
俺はニッコリ笑って宿舎に戻った。街中では騎士団がチラホラみえる。
どうやら俺を探しているようだ。
どうしようかな。しょうがない。魔導団本部の団長室に逃げ込もう。騎士団本部の隣だけどね。
俺は魔力ソナーを使って騎士団の捜索をかわしながら魔導団本部まで到着した。
真っ直ぐ団長室に向かい扉をノックする。中から応答の声がしたので入室する。部屋にはサイファ魔導団長がいた。
休みの【無の日】でも働いているんだなぁ。大変だな。
「なんだジョージくんじゃない? どうしたの?」
「何故か騎士団に追われています」
俺はサイファ魔導団長に朝の宿舎での内容と先程の冒険者ギルドの食堂での内容を説明した。
「なるほど、騎士団が暴走しているようね。というよりゾロン騎士団長の暴走だわ。ゾロンの呼び出しに応じなかったのは賢明な判断ね。冒険者ギルドの乱闘騒ぎもジョージ君に非は無いわ。今からゾロンをここに呼び出すけど大丈夫かしら?」
どうせゾロン騎士団長とは顔を合わせる必要があるからな。その場にサイファ魔導団長がいるほうが良いよな。
「お願い致します。何故呼び出しを受けたのかもわかっていないんです。団長に全てお任せします」
「分かったわ。このままここで待っていてね。今、ゾロンに使いを出すから」
サイファ魔導団長は一度部屋を出て1分程で戻ってきた。
「さぁゾロンは一体何を言い出すか。何となく予想はできているけどね」
「ご迷惑をおかけしてすいません」
「いや部下の事なら迷惑ではないわ。ジョージ君のせいでもないしね。ゾロンが全て悪いわ」
そう言ったサイファ魔導団長の顔は怖かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
10分ほどでノックの音がした。
サイファ魔導団長が入室の許可を出す前に扉は開いた。怒り顔のゾロン騎士団長が入室してきた。
俺を見るなり怒声をあげる。
「貴様! その軟弱な根性を叩き直してくれるわ!」
「ゾロン! 黙りなさい! 私は怒っているんですよ!」
俺を殴りつけようとしたゾロン騎士団長はサイファ魔導団長の一喝で挙動を止めた。
「そこのソファに座りなさい。ゾロン。それとも床に正座しますか?」
無言のままサイファ魔導団長の勧めたソファに座るゾロン騎士団長。その正面にサイファ魔導団長、俺はその隣に座った。
「ゾロン。ジョージ君から今日の経緯は聞きました。何故、私の許可を得ずにジョージ君を騎士団本部に呼んだのですか? 昨日決定した事は忘れたとは言わせませんよ」
下を向いたまま無言を貫くゾロン騎士団長。
サイファ魔導団長の声だけが部屋に響く。
「東の新ダンジョンの4階層の調査をするかどうかはジョージ君の意向をしっかり聞くことになったはずです。当然こちらの希望は伝えますが最終決定はジョージ君次第になりましたよね。ジョージ君の意向を聞くのが明日の予定です。出席者は私とゾロン、宰相と皇太子とスミレさんとジョージ君になっています。それなのになぜその前日である今日にジョージ君を個別に呼んだのですか?」
それでも無言を貫くゾロン騎士団長。
溜め息をついてサイファ魔導団長が話し続ける。
「これじゃ話し合いになりませんね。ゾロン、あなたの考えは大体分かっています。今後一切、ジョージ君に接触する事を禁じます。明日の会合にあなたの参加は許可致しません。またジョージ君に害悪をもたらす事も許しません。これは直接的、間接的、どちらでも駄目です。念を押した理由はわかっていますね。騎士団を使って事を起こした場合には騎士団が壊滅する事を覚悟してください。またジョージ君には相手の生死を問わない反撃を今後はさせます」
サイファ魔導団長の言葉に目を見開くゾロン騎士団団長。
そのゾロン騎士団長にサイファ魔導団長はまだ要求を突きつける。
「現在、ジョージ君の近接戦闘の強化が必須項目です。指導者が必要になります。騎士団の紐付きでは困りますので、スミレさんを騎士団から魔導団に転籍手続きを取ります。スミレさんなら継続して指導ができますし、ジョージ君の護衛にもちょうど良いですからね。以上です。何か言う事はありますか?」
ゾロン騎士団長は拳を強く握りしめている。
かすれた声で返答する。
「特にございません。サイファ魔導団長のおっしゃった通りに致します」
「ゾロン。馬鹿な考えは改めるべきです。戦争を始めるのは簡単ですが終わらせるのは難しいものです。たとえ戦争を終わらせたとしても、疲弊した自国と占領地統治に四苦八苦するだけですよ」
「肝に銘じておきます」
その一言を絞り出してゾロン騎士団長は部屋を出て行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゾロン騎士団長がいなくなってサイファ魔導団長と2人になった。
「ちょっと長い話になりそうだからお茶でもいれるわね」
「ありがとうございます」
細かいところは分からなかったが、サイファ団長に守ってもらった事だけは良く分かった。
お茶を入れてくれたサイファ団長が経緯を説明してくれる。
昨日、スミレさんから東の新ダンジョンの地下4階での報告を受けた。報告の内容は、魔力ソナーで感じた魔力がとんでもない魔物であったため、俺が調査の中止を進言した事。地下4階の魔物を目視はしていない事。
地下4階の調査の実施を選択した場合、俺が辞表を出す可能性がある事。
慌ててエクス城に集まって会合が開かれた。
地下4階の調査を望んでいるのは皇太子とゾロン騎士団長。慎重派は宰相とサイファ魔導団長。皇帝は中立だった。
地下4階の調査を望む理由は地下4階の魔物も俺に瞬殺させて、より一層レベルアップをさせるようにすること。
慎重派は地下3階のオーガで充分戦力増強ができると判断している。無理して地下4階に行って俺に死なれては損失が大き過ぎると考えての判断だ。
結局は俺が納得しないとどちらも上手くいかない。その為、休み明けに俺の意向を聞いて判断する事になったそうだ。
昨日の経緯は良く分かった。
俺はお茶を一口飲んで疑問をぶつけてみた。
「どうしてゾロン騎士団長は俺を呼び寄せたんですかね?」
「たぶん貴方を魔導団から騎士団に転籍させようとしたんじゃないかしら。騎士団には誓約書があって、上官の命令に逆らえないから。褒めたり、脅したりしながら無理矢理転籍させるつもりだったはず。今の貴方は色んな意味で切り札になるわ」
やはり逃げて正解だったか。上官の命令に逆らえないなんて奴隷じゃないか。危機一髪だったな。
「明日の会合の前に貴方に情報を与えておくわ。一応このエクス帝国が戦争する可能性があるのが西のロード王国ね。今の皇帝陛下は中立派なの。皇太子とゾロン騎士団長は侵略戦争推進派ね。私と宰相は侵略戦争反対派。今は侵略戦争反対派が多いけれど貴方の存在で侵略戦争推進派に勢いがついているわ。貴方の単体での戦闘力、東の新ダンジョンのオーガ討伐による騎士団と魔導団の能力の底上げが期待できるから」
え、俺の存在が侵略戦争推進派に追い風になっているんだ。
「何かすいません」
「何謝っているのよ。周りが勝手に考えている事だから気にしないで良いわよ。侵略戦争反対派にも貴方の存在は大きいわ。ロード王国への抑止力になるしね。もし貴方が不老になっていたら向こう数百年の強い抑止力だから」
サイファ団長は優しく笑いかけてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます