ひとり
三宅天斗
第1話 イレギュラー
高校一年、春。桜がこれでもかと咲き誇る街道を背を伸ばしながら歩き、柔らかな笑顔を浮かべたまま高校に向かう。道中、やたら周囲からの視線を感じる。今日の日和のような柔らかい熱を帯びた視線と、メラメラと燃え滾る炎のように肌を刺すような冷たい視線。前者は鼻の下をすぅと伸ばした男子たちのもの。そして後者は、そんな男子たちに呆れつつも、己の魅力のなさを悔いて私を僻むような淋しい女子たちのもの。
こんな高校デビューを迎えるのも仕方があるまい。だって私、めっちゃ可愛いし。
僻むことしかできない女子、そして目をハート形にした男子に見せつけるように胸を張って温かな風を切るように歩き正門をくぐった。
すごく気分のいい朝。胸が躍るという言葉の意味がよく理解できた。
新学期。出会いの季節ということもあって、教室内には浮ついた空気が流れている。その空気の中心は、間違いなく私だ。教室中の視線が私に集まっている。本当に気分がいい。こんなに気持ちのいい朝はいつぶりだろう。
えもいわれぬ優越感に浸りながら、とりあえずクラス皆の顔色をうかがう。まずは男子たち。私の作った笑顔に釘付けになって、目がキラキラと輝いている。今日から始まる一年間に彼らは大きな希望を抱いているのがはっきりと伝わってきた。そして、女子たち。みんな劣等感丸出しの醜い視線を私に向ける。彼女たちからは今日からの一年間は彼氏ができない、と憂いているのがひしひしと伝わってきた。新学期定番の対極的な視線。懐かしくて顔がより明るくなる。
教室中を一通り見て黒板の方に視線を戻そうとした時、一つ信じられない光景が視界を過ぎった。
教室の片隅で、明らかに目立っている私に目もくれず、ただ黙々と小説なんて魅力のないものを呼んでいる男子がいた。イレギュラーな出来事。心の奥に小さな苛立ちが湧き出てくる。なんなの、アイツ。不満が心に生まれた時、
「ねぇ、キミ」
急に爽やかな男子の声が聞こえてきた。
「なに?」
入学初日からばっちり髪形を決めてきた典型的な陽キャ男子を見て、私は冷たいトーンで静かに返す。そんな私を見てニコッと笑ったその男子は、
「冷たいなぁ。あの、突然なんだけど連絡先、交換しない?」
スマホをポケットから取り出した。チャラチャラしてて、明らかに軽そうな男。でも顔はそこそこかっこいい方。ある程度のチャラさは許容できるとして、私には少し物足りない感じ。でもまぁ、このクラスでは一番かっこいいか。
チラと周りを確認してから私はスマホを差し出した。
「ありがとう。あ、名前言ってなかった。俺は柳一成。よろしく」
「立花奈々未。よろしくね、柳君」
スマホを受け取って慣れた手つきで連絡先を追加する柳君。やっぱり見た目の通り軽い男みたいだ。
「できた。じゃあ、今日からよろしくね。奈々未ちゃん」
最初から名前呼び。距離の詰め方が異常だったから、つい表情を崩しそうになったけど、なんとか笑顔を貫いてひとまず難を逃れた。
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