第30話 其々の…

 sideルイ 

 

 ふと夜中に目が覚めた。

 いつの間にか胸元にはスライムを抱きしめていた。

 スライムが触手を伸ばしボクの目元を拭っている。

 気付かないうちに泣いていたようだ…。

 族長様に言われて、この街の学校に通うことになったが、ハッキリ言ってイヤだった。

 何故ボク1人が、両親や友達と離れて暮らさなければいけないのか理解が出来なかった。

 こんなことなら魔法の才能なんか無ければ良かったと思っていた。

 ライオンの獣人のように鋭い牙や爪、ゴリラの獣人のように逞しい肉体が有ったらこんなことにはなって無かったと思った。

 ボクは同世代の中でも強かった、どんな攻撃もボクには当たらないし、ボクの足はどんな相手も倒した。

 それなのに今日、同世代の子に初めて負けた。

 しかも人族の女の子に、何をやっても通用しなかった。

 あの子の魔法は凄かった、体術も相手にならなかった。

 ボクより少し背は高かったが、身体能力はボクのほうが優れていると思いたい…。

 なのに勝てなかった、明日、学校に行ってあの子のような子達ばかりだったらと不安になる。

 ボクより強い獣人の子や人族の子達ばっかりなら、ボクは郷から追い出されたと思うしか無い…。

 そんなことを思って寝たから涙が出て来たみたいだ。

 今はこの、少しヒンヤリとして温もりがあるスライムとあの子の匂いで癒される。

 微かに残るセンちゃんの匂い…、あの子に負けたく無いと思うのと、あの子のことを少し知りたいと思う気持ちがあるのは矛盾しているような切ない気持ちになる。

 こんな気持ちは初めてで分からないことばかりで戸惑ってしまう。

 明日はもう少し仲良く慣れるかな…。


 

 sideセン


 おはようございます。

 朝早くから今日はギルドの食堂に来ています。

 おばちゃんに話を聞きたくてやって来ました。

 おばちゃんは日本の食材に詳しいので、もしやと思い聞きに来た。

 おばちゃんに挨拶したら私用のご飯を用意しようとするので、仕事があるからとお断りして、ある食材のことを聞いてみたら、やはり作っているところはあるようだ。

 だが、普通には買えないようで食堂のある分を分けてもらった。

 どうなるか分からないが、ルイ君が気にいるようなら売ってもらえるよ交渉したいところだ。

 おばちゃんにそのことを話し、原料と加工品の買取をお願いしておいた。


 家に戻って、ルイ君の朝食を作る。サラダを中心に果物と乳製品も用意する。

 好む好まないは別として、人族が食べれるものは獣人も食べれるとレイナさんから聞いているので用意した。

 植物性のものだけで身体を作るのは無理があるので、動物性でも好みが有れば出して行きたい。

 

 基本はサラダにしておいて、ヨーグルトとバナナを和えたものを出しておく。

 その他に、乾燥した大豆を出してみた。

 食べれるようならオヤツとして持たせるつもりだ。

 お弁当もスティック野菜をメインにして作っておいたが、少し物足りないよね。

 食堂があるから、其方で食べれれば問題ないのだが、念の為用意はした。


 ルイ君がレフ君を抱えて起きて来た。


 「おはよう…。

 このスライムは、センちゃんのスライムなの。」


 少し寝ぼけているのか、ちょっと可愛らしい。


 「申し訳ございません。

 その子はレフと言って、私がテイムしているスライムです。

 もし宜しければそのままお連れくださっても問題ありません。」


 「あぁっ。

 それなら今日はレフを1日預ろうかな。」


 何か言いそうだけど、無視をしよう。


 「私は構いませんので宜しくお願い致します。

 朝食の準備は出来ていますが、先に身支度を整えたほうが宜しいかと思います。」


 「…うん。」


 暫くはレフ君を預けて様子見だよね。

 私は何もする気は無いからね、取り敢えず、朝食の仕上げをして待ってようかな。


 ルイ君が野菜中心の朝食を食べる中、ヨーグルトとバナナの和物はお気に入りのようだ。

 

 「この豆は何?」


 「それは大豆の炒り豆ですね、普段は余りそのまま食べることは御座いませんが、ルイ様ならお食べになられるかと思いまして用意致しました。」


 ルイ君は恐る恐る豆を口にして咀嚼する。

 カリコリといい音をさせて食べている。


 「食感が良いのもあるけど、美味しいね。

 これなら幾らでも食べれそうだよ。」


 「お口に合ったのならよう御座いました。

 お弁当の他にそれもお付け致しますので、学校の皆様とお食べになって下さい。」


 大豆が食べれて良かったよ、身体を作るのにタンパク質は欠かせないからね。

 夕食には貰った食材を使うとして、ルイ君はちゃんと勉強してるかな。

 寮の掃除をしながらルイ君の様子を見る。

 読み書きはある程度出来るようだが、計算が苦手のようだね。

 森の中だとお金も使うこと無いだろうしね。

 

 魔法の授業は初日なので生活魔法中心に行うようだ。

 身体強化が使えるルイ君は、そこそこ魔法が使える。

 身体強化ばっかり使っているから、他はあんまりだけど、観たところルイ君の適性は風魔法かな?

 送風だけは他よりも威力がありそうだ。

 

 最後に選択授業になるが戦闘訓練の授業もある。

 魔の森に近いこともあり、この街特有の授業内容かな。

 流石に獣人の郷の出身であるルイ君は、同世代の中でも抜群の身体能力をしていて、模擬戦も負け無しだ。

 何処かホッとしているように感じるが…、当然の結果だろう。

 

 ルイ君は、仲良くなった獣人の子達と学校の訓練場で遊んで来るようだ。

 学校にも馴染めている様なので一安心と言うところだ。


 私はお風呂と夕食の準備をしてルイ君の帰りを待つ、ルイ君は訓練場でいろんな子達と手合わせをして帰って来た。

 そこそこ汚れているが、ルイ君の全勝である。

 ルイ君には先にお風呂に入って、綺麗にしてもらう。

 その間にご飯を準備して、ルイ君がお風呂から上がったらドライヤーで乾かしご飯にする。

 今日、用意したのは豆腐ステーキだ。

 お肉は好みでは無いから、豆腐をステーキにしてパンチのある料理にしてみたのだ。

 見た目は肉のステーキに似ているので、ルイ君も最初は戸惑っていたが、一口食べたら気に入ってくれたようだ。

 その他にパンも用意はしているが、食べれるならとご飯も用意している。

 ステーキのソースと、ご飯が合うと此方も好評だった。

 もしかしたらルイ君なら、納豆も行けるかもと思ったが、其方は追々試して行こうと思う。


 ご飯が食べ終わり少し落ち着いたルイ君だが、何か言いたそうにしていたので聞いてみることにした。


 「ルイ様。

 初めての学校生活は如何でしたか?

 何か問題でも御座いましたか?」


 「別に、学校自体には問題ないよ。

 授業も問題無かった…し、街の子達はいいヤツばっかだし楽しかったけど…。

 センちゃんより強いヤツはいなかった。」


 「それはそうで御座いますね。

 これでも私は、冒険者として魔の森で既に活動していますので、その子達と私を比べるのは可哀想かと思います。」


 「なら、ボクに体術を教えてよ。

 この前、ボクを投げ飛ばしてたやつを。

 ボクは強くなりたいんだ。」


 「休日に手合せをするのは構いませんよ。

 ですが、学業が疎かになられても困りますので、今度のテストで平均以上の点数なら御教え致しても構いませんよ。

 宜しければ、算術や生活魔法は御教え致します。」


 「うぐぅ、何で算術苦手なの知ってるんだ、算術は教えて欲しい。

 でも、生活魔法は出来ている筈だ。」


 「ルイ様もそうですが、獣人の皆様は生活魔法をもっと普段から使うべきですね。

 私がこの前、手合わせのときに使っていたのはフロートボードですよ。

 生活魔法は使い方次第で色々出来ますからね。

 取り敢えず、今日は算術の復習と生活魔法の使い方を御教え致します。

 体術はルイ様次第で普段でも御教え致しますが、休日ならそれとは関係無く御教え致します。」

 

 「分かったよ、取り敢えず休日だけでも頼む。」


 教えるのは問題無いけど、毎回エリーさんの訓練所を貸してもらうのは大変だよね。

 今後のことも考えると、寮にも運動出来るスペースは必要になると思えからエリーさんに相談してみようかな。

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