第29話 指導員?
私は倒れているルイ君に手を差し伸べる。
ルイ君は顔を真っ赤にして私のことを見ていた。
はて、廻っているときも跳ねてるときもスカートの中身は見えて無いと思ったけど見られちゃいましたかね?
ってそうじゃ無いよね、見てるってより睨んでるって言ったほうが合ってるからね。
「お見事です、ルイ様。
蹴り技の威力は申し分ないでしょう。
上半身の使い方が上手くなれば、まだまだ良くなりますね。」
「お世辞は結構です。
僕には獰猛な牙も、鋭い爪も無い。
唯一の脚力も通用しないようでは話になりませんから。」
ルイ君は、どうも自分の容姿にコンプレックスがあるようだね。
五体満足で属性魔法の才能まで持ち合わせてるのに、贅沢な悩みだよね。
私は左手の義手を外してルイ君に義手を渡す。
「それなら、もう1度手合わせ致しましょう。
今回は私も手加減致しませんので、お気をつけ下さいね。
安心して下さい、私、これでも回復魔法はそこそこ得意ですので欠損以外なら治せる自信がありますから。」
ルイ君を無理くり立たせ向かい合う。
私の左手が無いのがショックだったのか、義手を凝視しているがレイラさんの掛声に意識を此方に向けて来た。
私は先ほどと同じようにカーテシーして、今度は此方から近寄って行く。
無防備に歩いて来る私に、ルイ君は無防備にミドルキックを放つが、先程と同じように私は足首を極めて投げ飛ばす。
今回は地面に叩きつけるのではなく、空中に放つ感じだ。
ルイ君が空中で姿勢を戻し、足から着地した。
私が態と空中に投げたのが分かったのか、歯を食いしばっている。
私が、ゆっくり近付いて行くのをルイ君は警戒しながら観察しているようだ。
私の護衛術は、後の先のカウンター技なので何もしなければ発動しないが、近くに行ったら普通に攻撃するので問題ない。
魔物相手なら暗器を使って攻撃するけど、ルイ君には流石にやらないよね。
ルイ君が様子見のローキックを放つが、私はフロートボードに乗ってそれを躱す。
私はそのまま三角飛びの要領でルイ君の背後に廻る。
着地狩りのミドルキックもフロートボードを蹴って躱す。
この間ルイ君にスカートの中身が見えそうで見えないように動かなければならない。
何故かそうすると技の精度が上がるのだ。
ホントに謎だが…。
ルイ君も身体能力は凄いのだから、魔法と組合せて攻撃して来ればこんなにあしらわれなくても良いのに。
「ハッキリ言います。
貴方は、ケルノス様では有りません。
護衛に来ていた方とも違います。
貴方はルイ様なのです。
貴方には貴方の武器が有ります。
貴方の其の耳は飾りですか?
魔力が無いのですか?
貴方の身体能力と魔法は無限の可能性を秘めていますよ。」
獣人は強さを求める種族だ。
其の強さは肉体的に強い程、好まれる傾向にはある。
だが、ルイ君の強さは別のところにある。
草食動物の臆病なところは欠点では無い。
気配に敏感になり、周りをよく見ている。
確かに王者の風格では無いだろうが、そんなものは生きて行くのに必要は無いのだ。
私の求める強さとは死なないことだ。
冒険者とは生きて帰って何ぼの仕事だ。
死んでしまったら評価はされないのだから。
なら、死なない為にはどうすれば良いのか…、自分を鍛えるしかないと思う。
今、自分が何を出来て、何が出来ないのか。
出来ることの手数を増やして備えれば、死に難く生きて帰る確率が上がる。
それが冒険者の強さだと思っている。
獣人族は肉体的な強さに拘りがちで、魔法も身体強化が主になる。
それが合っている獣人は良いが、ルイ君のような獣人にはもっと色々な魔法を使ったほうが合っている気がする。
ルイ君が将来何をしたいのかにもよるが、兎の獣人なら斥候職がお似合いだ。
長い耳での索敵など役立つことは沢山ある。
戦闘方法でも、私が使っているフロートボードを多用すれば、身体能力が高い兎獣人のほうが遥かに効率的に使用出来るだろう。
俯いて話を聞いているルイ君だが、今は何を言っても無駄になりそうだ。
明日から学校に通い同世代の獣人達と触れ合えれば変わって来るかもしれないからね。
「ルイ様、運動はこれくらいにして明日から学校に備えましょう。
寮に戻って休んで下さい。」
ルイ君を立たせて、寮まで連れて行く。
帰る前に清掃の魔法は使っていたが、落ち込んでいるようなのでお風呂に入ってもらった。
其の間にご飯を作り、夕食の準備をする。
お風呂から上がったルイ君を居間のソファーに座らせドライヤーの魔法で髪を乾かす。
乾かした後は食事をしてもらう、其の間に私は明日からの学校の準備もしてしまう。
教科書とかは明日、学科で受け取る予定だ。
制服は無いので、私服で登校する為に部屋の荷物を整理する。
荷物を一旦、ストレージに収納してそれを適所に戻して行くだけなので、それ程時間は掛からない。
食堂に戻るとルイ君は食事を終えていた。
そのまま私は食器を片付けて、洗物を済ますとルイ君が話しかけて来た。
「センさんは何歳なのですか?」
「私で御座いますか?
余り女性に歳を聞くのはお勧めしませんが、まぁいいでしょう。
この間、9歳になりました。」
「んなぁ、1つしか変わらないじゃん。
それで、何で9歳のセンちゃんは学校に通わないだよ。」
(歳を聞いて態度を変えるのは男性として減点ですが。)
「諸事情により学校で習うことは6歳までに済ませてあります。
本来なら今日伺ったエルフの館にて行儀見習いとして務めています。
本業務も其の一環で有ります。」
「ショジジョウって何だよ、教えて来れてもいいジャン。
大体、歳も近いんだから普通に話して来れてもいいジャンか。」
「申し訳御座いません。
ルイ様のお申出でも従えぬことも御座います。
ご了承下さいませ。」
「何でだよ、ボクの専属のメイドなら言うこと聞けよな。」
確かに私はルイ君の専属メイドなのだが、大元の雇主はケルノス様になる。
ケルノス様の依頼で代官様が仕事を受けてエリーさんが私を紹介したって流れになるので、私の雇主はケルノス様になるのよね。
なので、ルイ君には悪いが命令権は無い。
明日から学校だからと言って早めに就寝するように仕向ける。
学校に行けば、同い年の獣人の子もいるので楽しく学んで行けるだろう。
ルイ君の近くにレフ君を配置し、何かあったら知らせてもらう。
ルイ君が部屋に戻ってから私は明日の準備や、自分の勉強をしなければいけない。
今回思ったことは、獣人は種類によって個性が有り過ぎると。
夕食にしてもルイ君は野菜のほうが好きなようだ。
獣人なので肉や魚も食べるのだが、食べなくても問題ないらしい。
だが、やはりメイドとしては美味しく料理は食べて欲しいので食材や調理法を見直している。
それに野菜だけで肉体を作るのも大変だが、前世の知識が役に立つかもと思い出しているところだ。
その他にも自分の魔法や体術の鍛錬などやることは色々あるが、この生活に慣れるまでは頑張るしかないかな。
そんなことを思っていると、レフ君から緊急信号が送られて来た。
この寮には、私とルイ君しか居ないのは分かっているので危険なことでは無いようだが、レフ君が慌てているのは良く分かる。
なんて言っていいのか、出産間近の旦那さんが狼狽えている様な感じなのだが…。
ルイ君の気配は寝ている様なので、起こさないようにそっと部屋の中を伺う。
レフ君がルイ君の周りでオロオロしているのは分かるのだが、何故そうなっているのかが分からない。
ルイ君の様子を見ると、泣きながら寝ているようだ。
8歳と言えば、小学校低学年だ。
親元を離れて知らない街に1人で暮らすには、まだ早い。
幾ら族長の指示だからと言って従えど、心はまだまだ子供なのだ。
狼狽えているレフ君を宥め、ルイ君の胸元に抱かせる。
私はルイ君の手を握り、落ち着くのを待つことにした。
勿論私が一緒に寝ることは無い。
そこまで甘やかすつもりは無いが、レフ君ぐらいは良いだろう。
ルイ君がレフ君をギュッと抱きしめて、涙が止まったのを確認して私は部屋を出る。
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