第25話 不安

 私が案内された部屋は、メイド服が掛けてある使用人の部屋だ。

 

 「確か、ハーフリング用のメイド服があった筈ニャ。

 取り敢えずはそれを着てもらうニャ。」


 出されたメイド服は黒のワンピースにエプロンだが、飾り気はなくシンプルなもので少しゆったりした感じだ。

 ハークリング用で今の私でもギリギリ着れるようだ。


 「鎧下と胸当はそのまま着けといてニャ。

 小手は服の下に隠すように着けたら良いニャ。」


 はて、防具を着けてメイド服着るの?

 メイドってなんだっけ、仕事は家事全般だと思ってたんだけど。

 身の回りのお世話は侍女とかそれなりに信用のおける人しか出来ない筈だよね?

 それにしたって防具は必要無いのでは?


 「暫くそれを着てもらうニャけど、必要なら自分の制服は作ってもらえば良いニャ。

 いつも頼んでいるところで作ってもらっても経費で落とせるニャ。」


 様子見でコレは着ておくけど、自分専用のメイド服は注文して作れよってことだよね?

 なにその自分専用のメイド服って?

 ミニスカメイドとかになれるよってこのなのかな?

 あぁ、エロいのはダメね。

 形じゃなくて機能の問題ね、でもメイド服に機能性を求めることがあるのかしら?

 私の場合は、左手がないから袖口を閉じてもらうとかはあるかもしれないけど…。

 

 取り敢えず着替えて、レイラさんの案内でエリーさんの下に向かった。

 

 「ようこそセンちゃん。

 此処の家は私のうちだから、気を張らなくても大丈夫よ。

 暫くはレイラと一緒に居てもらうけど、慣れて来たら代官屋敷のほうで行儀見習いとして仕事してもらうから。」


 「分かりました、エリーさん。

 レイラさんとは主にどんな仕事をするんですか?」


 「レイラに頼んでいるのは、戦闘訓練だから今までと余り変わらないと思うわよ。」


 「?、メイドなのに戦闘訓練するんですか?」


 「なに言ってるの?

 メイドは戦えないとメイドとは言わないのよ?

 初代男爵のトオル様が、戦闘の出来ないメイドなんて家政婦と同じだと仰ってからはこの街のメイドは全員戦闘が出来るわよ。」


 なに広めてんだよ初代様は、自分の性癖全開で好き放題やってたんだな。

 猫獣人の語尾もそうだし、今回の戦闘メイドもそうだし、チョイチョイ可笑しな文化を広めているみたいだよね。

 でも、此処ではそうだって言うんだから仕方ないけど、大丈夫かなこの街。


 「それじゃあ、今日はレイラと手合わせでもしてみて。

 レイラも宜しくね、センちゃんは体術は習ってたから基礎は出来てると思うわ。」


 「了解ニャ、メイドの基本を教えるニャ。

 センちゃん、裏に訓練所があるからそこに行くニャ。

 着いてくるにゃ。」


 エリーさんと別れ、レイラさんと訓練所に向かう。

 訓練所にはライオンやトラ、狼の獣人さんが訓練をしていた。

 皆さん、代官の私兵のようで此方の屋敷はそのような人達の溜まり場になっているようだ。


 「それじゃ、掛かって来るニャ。

 今の腕前を確認して訓練内容を決めるニャ。

 取り敢えず、身体強化だけ有りで掛かって来るニャ。」


 それと付け加えられたのが、メイドはあくまでも優雅に振る舞えと言われた。

 蹴り技も使っても良いが、スカートの中が見えたらNGだとも言われた。

 理想は見えそうで見えないがベストだとか…、そんなのに拘ってるのかよ初代様は、やっぱりバカのご先祖さまだよね。

 違う意味でのバカだけど、記憶の中の男も何故かウンウンと頷いている気がするのは気のせいではないと思う。

 レフ君も、若干テンションが上がっているような気がするが気のせいであって欲しい。


 私は一礼した後、ゆっくり歩いて近づくと右のストレートをレイラさんに向かって喰らわせた。

 レイラさんは笑顔でそれを躱して、私の右手を払う。

 レイラさんから攻撃して来るつもりは無いようだ。

 それならと私は、払われた流れに沿ってクルリと回り左の小手で裏拳を放った。

 小手が危険だと判断したのか、レイラさんはそれを屈んで躱した。

 屈んだレイラさんに右のミドルキックをお見舞いすると、左手を添えられてそっと晒された。


 私は一旦距離を取り一呼吸おく、レイラさんも私に合わせて構え直す。

 流石に獣人のレイラさんだけあって、身体の使い方が非常に上手い。

 後、勘が鋭いのか小手の攻撃は避けて来た。

 私の今の手の内で、有効になりそうなのは小手による攻撃のみなのだが、それを躱されると打つ手がない。

 魔法を攻撃に混ぜれば勝機は有るが、今は体術のみの話なのでどうにもならないかな…。


 私は基本ヒーラーなので体術の攻撃は得意では無いのだが、レイラさんに一矢報いたいと思う。

 私は右手の指輪を触媒としてゴム状のメリケンサックを出してリーチを誤魔化す。

 ブーツにも同様にゴム状のプロテクターを出してリーチを誤魔化した。

 魔法を使っているけど、保護の為だから勘弁してくれるよね?


 私はすかさずローキックを放つ、レイラさんはギリギリで足を引こうとするが私のプロテクターが僅かにカスる。

 若干驚いた顔をしているレイラさんに、渾身の右ストレートをお見舞いした。

 コレも余裕で躱そうとするレイラさんだが、メリケンサックの分頬をカスる。

 またもや掠ったことに警戒心を上げたレイラさんに、私は左の小手でボディーブローを放つ。

 距離が近くて躱しきれないと思ったのか、左手を添えて晒そうとしている小手から衝撃波が産まれレイラさんを襲うが、衝撃波ごとレイラは後ろに飛び衝撃を躱された。


 距離が空き、仕切り直しだがレイラさんから待てが掛かった。


 「小手の衝撃波は装備だから許すけどニャ、リーチを誤魔化す魔法は反則だニャ。

 魔法は無しだと言った筈だニャ。」


 「すみません。

 拳と足を守るプロテクターなんですけどね。

 叶いそうもないので、少しズルをしました。」


 「それはもう良いニャ、8歳の割には良く動けているニャ。

 立ち振舞も蹴りの後のスカートも完璧ニャ。

 (其処はどうでも良いけど。)

 思ってた以上に動けてるのニャ。

 自分の武器の使い方も分かっているからニャ、余り教えることが無さそうニャ。

 後は練度を上げられれば問題無さそうニャけど、少し防御が弱いニャね。」


 「そうですね…、基本私はヒーラーなので攻撃も防御も得意では無いですね。」


 「そうは言っても、メイドの1番の仕事は要人警護ニャ。 (そんなことは無いと思うけど)

 守れないと話にならないニャ。」


 「魔法を使えれば、防御に関してはマシになると思います。

 私は体術よりも魔法のほうが得意ですから。」


 「8歳ならまだ身体も出来ていないから仕方がないニャ。

 でも、勿体無いのニャ、それだけ動けるなら格闘術まで覚えられそうニャ。

 センちゃんさえ良ければ、私が個人的に指導しても良いニャ。」


 「それは有り難いのですが、いつまで私は此処にいれますかね?

 取り敢えず、10歳迄は雇ってもらえる筈ですけど。」


 「センちゃんが望めばいつまでも居れるニャ。

 冒険者に戻りたいのならいつでも戻れるニャ、冒険者に戻っても暇なときに教わりに来るのは問題ないニャ。

 多分、エリーさんもそう言うニャ。」


 「何から何までありがとうございます。

 それなら体術の訓練も宜しくお願いします。

 後はどんな仕事が有りますか?」


 「家事全般はやってもらうニャけど、生活魔法が使えれば楽チンニャ。

 侍女としての立ち回りは、エリーさんに聞くニャ。

 そっちはエリーさんのほうが得意ニャ。」


 「分かりました、今日はこの後はどうしますか?」


 「そんなの決まっているニャ、今日は私と1日稽古だニャ。

 久々の新人で腕が鳴るニャ、今日は逃さないのニャ。」


 「………お手柔らかにお願いします。」


 その後、身体強化も無しの素の身体能力で戦わされた。

 猫獣人のしなやかな肉体に、私は着いて行けずコテンパンにやられてしまった。

 さっきの掠ったのを根に持っていたようだ。

 私はスライム細胞を駆使して何とか喰らいつくしかなかった。

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