第17話 お祭り

  暫くしてギルドからゴブリンの残党狩りの依頼が出された。

 妖精の街の冒険者は、新人からベテラン冒険者まで全て対象だ。

 魔の森に一斉に入って虱潰しにゴブリンを掃討する。

 新人の脇はベテランや、中級者が固めるので安心して依頼を受けられる体制にしてある。

 それによってゴブリンを森の奥に追いやり、魔物同士で争わせる作戦だが深追いし過ぎると返り討ちに遭うので、見極めが重要な作戦ではある。

 その辺の指示はベテランやギルドマスターが対応することになっている。

 この作戦に参加するための資格は成人以上、ようは15歳以上でなければ参加出来ない。


 私はギルドでお留守番だ。

 その日の夕方は診療所も混むかも知れないので、万全の状態にしておくようにギルドからも言われてはいる。

 余り魔力を使い過ぎるなよっと、念を押されてる感じだ。

 私は魔力には余裕があるので、問題はないと思っているがギルドの職員からすれば6歳児に任せるのは心配なのだろう。

 なので、最近補助で入ってくる未成年者を2人付けてもらうことにした。

 緊急事態の対応にも慣れてもらいたいからね。

 現場の空気を感じるだけでも違うと思うから。

 なのでギルドから頼まれなかった子達にも暇なら見に来たほうが為になるよとは言っておいたけど。

 ただし、お金は出ないから強制は出来ないよね。

 それに現場を見るなら掃討作戦のほうに行きたい子もいるだろうしね。

 キャシーさんに言って、ハンスさんの引率で現場見学ツアーとかやってもいいと思うけど。

 

 作戦当日になって私が言っていた見学ツアーが開催されることになったようだ。

 戦闘職の子はハンスさんの引率で掃討現場の見学のみをして、回復が出来る子達はディランさんの引率で掃討現場と診療所の見学が出来るコースになっている。

 ハンスさんは冒険者としての立ち振舞を教えて、ディランさんは回復職としての立ち振舞を説明していた。

 相手はゴブリンなので大怪我をする冒険者もいないのだが、多少の怪我はする人は出て来る。

 怪我人を前に何が悪かったのやら、回復はどの程度するのとかをちゃんと説明していたが怪我を負った当事者としては堪ったもんではないだろう。

 

 戦闘職は周りに合わせて進軍するだけなので、問題はないのだが回復職はそうも言ってられない。

 魔力が有限なのだから回復は最低限で、命の危険がないようにしなければいけない。

 怪我人は基本後方に待機している回復職が回復する。

 ただそこまで保たない者の回復は、現場の人間がしなければならない。

 その判断は現場の人間がしなければならないのだ。

 ディランさんはその辺の説明が凄く上手く、未成年者だけではなく新人の冒険者の為にもなっていたようだ。

 掃討作戦が終盤になって来たら見学ツアーは終了して、街に戻って来る。

 戦闘職はここで解散だが、回復職はこの後診療所に顔を出すことになっている。

 スライムハンドでずっと様子を伺っていたので、私は現場の状況も把握しているが、補助の子達は何処かソワソワして落ち着かないようだ。


 「落ち着いて下さいね。

 もう直ぐ掃討作戦が終了しますから、怪我人がやって来ますが冷静に対処して下さいね。

 落ち着いて対処すれば問題ないですから。」


 補助の子達の緊張がピークになったところに、ディランさん率いる回復職が戻って来た。

 補助の子達が、回復職の子達と現場の様子を聞いていた。

 現場でも回復はしていたので、大した怪我人はいないことを聞いて少し落ち着いたようだ。


 その後暫くして、作戦が終了して冒険者達が帰って来た。

 私は怪我人達の誘導をする。


 「切り傷の方は此方に並んて下さい。

 打身や打撲の人は此方です。

 頭や胸、お腹を打った人は私のところに来て下さい。

 すみませんが、来た順ではなく重症者から治して行きますので、ご了承下さい。」


 私は素早く怪我の度合いを判断して並ばせる。

 切り傷は、光属性の子が担当して、打撲などは水属性の子が担当だ。

 現場で、ある程度の治療を受けているので、そこまで酷い怪我人はいないが、頭や内臓系がやられていないかは私が直接見ることにした。

 

 幸いなことに重症者はいなかったが、深追いをし過ぎてゴブリン以外の魔物と戦闘になった新人が何人かいたようだ。

 補助の子達は切り傷や打撲などは治療出来るのだが、噛まれて傷口がズタズタな怪我はまだ治療出来ないので私が治すことにしている。


 暫く治療をしていると、補助の子達の魔力が切れかかって来たので2人はそこで終了してもらう。

 私は元から魔力量は多いが、指輪を使用すると更に効率も効果も良くなるのでまだまだ余裕だ。

 見た目ただの指輪だけど、流石聖樹の指輪である。


 補助の2人が終了したので、私は軽傷者に纏めて回復魔法をかけて今日の仕事は終了となる。

 2人には魔法触媒の説明もして、将来的に自分に合った触媒を探してもらうことを話して今日は解散となった。


 これにて、今年1番のイベントは終了となるのだが、冒険者はこれからが本番と言わんばかりに食堂に詰め寄る。

 今回この作戦に参加した冒険者には食堂を無料で開放している為だ。

 まぁ、おばちゃんがいるからバカ騒ぎをする人はいないが、それなりに賑わうのは仕方がないと思う。


 私は食堂に行く前に訓練所に来ていた。

 最近は体術ばっかりで、魔法の練習はしていなかったから冒険者がいない間に練習しときたい。


 生活魔法には火を起こす火種、飲み水を出す清水、空気を入れ替える清風、土を操作する操土、暗闇を照らす照明、暗闇を見通す暗視、物を綺麗にする清掃、力仕事をする為の身体強化、重量物を運ぶ浮板(私がフロートボードと呼んでいるヤツだね)が主な魔法だ。

 なかには、微弱な電気を発生させて虫除けをしたり、氷を出して飲み物を冷やす人もいる。

 効果はそれなりだが、全ての属性を使えるのは凄いことだと私は思っている。


 この中で私が戦闘で使っている魔法は、身体強化と浮板の魔法だ。

 身体強化で能力の底上げと、フロートボードによる斬撃と狙撃が私の攻撃魔法だ。

 

 フロートボードを剣のようにして斬りつけて斬れないことはないが、それなら安物でも剣を買ったほうが斬れ味がいい。

 なので私は丸鋸をイメージしてフロートボードを飛ばしている。

 これならそれなりの物は斬れるし、盾としても使用出来る。

 もう一つが、弾丸状にしたフロートボードを回転させて撃ち出す魔法だ。

 私はこれを魔弾と呼んで使用している。

 近代兵器の拳銃を真似して作った魔法だが、元が生活魔法なのでコスパが非常によろしい。

 魔法障壁になるフロートボードなので、硬さは鉛より上で貫通力がある。

 対人用にゴムの硬さの弾も撃ち出せるので応用も効く。

 この2つが私の主な攻撃魔法になる。

 私には属性魔法の才能は無かったようで、生活魔法以上の効果がみられなかった。

 でも、生活魔法があれば魔法には困らないかなと思っている。

 色々試したいことはあるが、それは私の切り札になりそうなので此処では練習出来ないかな。

 魔の森でスライムハンドに練習してもらおうと思っている。


 なので、私は魔法の的に向かってペチペチとゴム弾を撃っている。

 普通の弾だと的を壊してしまうからね。

 診療所があるから生身での魔法の練習は出来なかったので、時間を忘れて魔法を撃っていた。


 ペチペチ魔法を撃っていると首根っこを掴まれて宙吊りにされる。

 振り向くと笑顔のおばちゃんがいるのはいつものことだ。


 「あんた、皆んなが騒いでるときは一緒に騒ぎな。

 1人でこんなとこにいたって、あんたのご飯が無くなりはしないんだから大人しく食堂に来な。

 ご飯食って騒ぐのも冒険者の仕事だよ。」


 首根っこ掴まれて食堂に運ばれる私を見る冒険者達だが、最近は当たり前のような光景になってきている。

 最初は哀れんだ目をしていたのが、最近は生暖かい目で見られるようになった。 

 それだけ私もこの街に馴染んできたのかもしれない。


 

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