待宵の月
三宅天斗
第1話 至福の金曜日
よく晴れた清々しい秋の昼下がり。講義室の窓から見える柔らかな赤色の葉が、冷たく乾いた風を受けて震えている。
「よって、ここがこうなるわけだが」
退屈な講義。中年男性の疲れ切った声は僕の心をより鬱々とさせる。零れそうなため息を堪えて、俺は講義後の時間に思いを膨らませる。
講義の後。俺を待ち受けているのはコンビニでのバイトだ。バイトと聞くと講義と同じくらい面倒で、疲れた体にわざわざ鞭を打って働く大変なものだと想像する人も多いかもしれない。俺はそんなイメージを抱いていて、高校生の頃は周りがバイトを頑張る中、家に引きこもってのんびりと生活していたが、大学生になった以上は生活費を稼がねばならなくなって重い腰を持ち上げてバイトをしてみた。実際、バイトをして見て思ったのは面倒で大変で、たまに退屈。ただ一日、金曜日を除いては。
なぜ金曜が特別なのか。それは、金曜のシフトには我が大学の天使が舞い降りてくれるからだ。
「以上で講義を終了する。今日出した課題、期日までにしっかり提出するように」
教授の声を聞いて、俺は急いで荷物をまとめて講義室から飛び出した。
大学の外は講義室で感じていた通り乾いた北風が吹き荒れていて、コンクリートを彩っている落ち葉をさらっていく。
「帰って、着替えて、バイト」
いつもは重苦しいこの時間。今日は明るい気持ちで胸がいっぱいだ。
ごく普通の1Kの部屋。俺はクローゼットの中にあるコンビニの制服を布製のトートバッグに詰めて、また外に出た。
バイト先は部屋の近く。全然、徒歩で行ける距離なので俺は味気ない道をゆっくり向かった。このゆっくり歩くのにも理由がある。それは、天使と俺が店に入る時間を合わせたいからだ。ここが合えば、確実に一言目に挨拶ができる。その僅かな幸せを叶えるために、俺は時間をチラチラと確認しながらバイト先に到着する時間を計算して歩いた。
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