不死王はスローライフができない

裏蜜ラミ

第1話 地球オーバーキル

 単刀直入に言うけど、地球に隕石が降ってきた。それも一個じゃなく、無数に。

 なんかもう流星群かよって量が、全部僕の方(と言ってもそれは多分錯覚で、実際は地球全体の方へ向かっていたのだろうが)に飛んできてた。


 その後、僕は当然即死したのでどうなったのかは知らないけれど、多分地球は壊れたと思う。


「地球の映像出せるよ。見る?」

「遠慮しときます」


 これ以上悲しい気持ちにはなりたくないよ。


「なんかね、すっごく悲惨だった」

「言うなや」


 しまった、ついうっかりタメ口が。まあいいか。どうせこの女神はそういうの気にしなさそうだし、そっちも喋り方タメ口だし。


「いやうやまえよ」

「だったらそれらしき格好をしてくださいよ」


 そう、僕が今現在いる真っ白い謎空間の支配者、自称女神様は、なぜかメイドコスプレをしていた。しかも猫耳と尻尾のオプション付き。


「可愛いじゃん」

「可愛いけど」


 なんかこう、あるだろ。布巻いたみたいなやつ、神様が着てると神々しく見えるやつがさ。


「あれいにしえのファッションだよ」

「そうなのか……」


 まあ確かに、ほとんど着物みたいなものだし、今どきっぽいこの女神様の趣味じゃないのかも……って、いいんだよ自称女神様のファッションは。


「僕、どうすればいいんですか?」

「ん? あ、その辺適当に座ってていいよ」

「そうじゃねぇ」


 そんなことに遠慮してる訳じゃないよ。


「そもそも、なんで僕、ここにいるんですか?」

「うん? くじ引きだけど」


 くじ引き?


「死者の魂はどの神も適当に拾っていくんだけど、今回は数が数だったから、くじ引き。イメージ的には金魚すくいの方が近いかな?」

「雑だ……」


 神様の魂の扱いってそんな感じなんだ。


「でも変だな、残り物には福があるって言うのに」

「おい。僕を外れみたいに言うな」


 そもそも神様がジンクス信じるなよ。


「いいじゃん別に。ていうか言っとくけど、君は私に感謝の言葉を送るべきなんだからね。私以外の神に引かれてたら、問答無用でまっさらな魂に変えられるかもしれないんだから」

「神怖っ」


 確かに感謝だな、そこだけは。


「倒置法と反復法使った上に傍点までふるな」

「お前は地の文を読むな」


 それ以前にさっきから心も読んでるし。


「私自身が世界のメタ的な存在だからいいの」

「それを許してしまっては話にならん。文字通り」


 あ〜、メタ行動されるとキャラ崩れるわ〜。僕って常に敬語の清楚な少年キャラで売ってたのにさ。


「嘘吐くなよ」

「嘘じゃないです」

「取ってつけたように敬語に戻るな」


 てか、あまりに脱線し過ぎたから話戻すけどさ。


「うん? いいよ。地球の映像見る?」

「戻り過ぎです」


 僕まで敬語に戻ってしまったじゃないか。ふざけるのも大概にしろ。


「君が言わないでよ」

「自分の悪いところは見ないで、他人の悪いところばかりを指摘する人間に囲まれて育ったから……」

「人のせいにするな」


 で、なんだったっけ。


「神がいつもノーパンだって話」

「初めて聞いたよ」

「私はちゃんと履いてるよ。ほら」


 履いてなかったらぶん殴るところだったわ。ていうかなんでわざわざ、脱いだものを見せる。


「履いてるの見られるのは恥ずいじゃん」

「よかった。かろうじて人に近い感性持ってて」

「君はせめて目を逸らすくらいしなよ」


 女性の下着を見るだけなら、僕はズボラな姉妹がいて慣れてるから抵抗ないんだよ。


「家族構成えろっ」

「昔からそう言われるのが一番嫌いだったんだ」

「一生言い続けてあげようかな……」


 僕に神への不敬罪を犯させるつもりか。


「てかパンツはもういいよ。どんだけ好きなの」

「本当に殴ろうか貴様」


 僕をさも変態のように見せるな。お前だよ。


「え、まだこの話続ける? 私はそれでいいけど」

「嫌だよ」


 さて、無駄話はやめだ。


「僕はこれからどうなるんだ?」

「地球ぶっ壊れちゃったからね。異世界に転生するとか、そんな感じになるかな」

「軽いなぁ……」


 異世界に転生、か……他の道はないのか?


「あとは、ここで私と二人っきりのイチャラブ生活を送るって選択肢があるけど」

「よし、転生するか」

「なんで即答なの。うさ耳もあるよ?」


 そういう問題じゃないよ。イチャラブって何だ。


「君と姉妹の関係みたいな」

「そういうことを聞いてるんじゃないし、そういうことを言うんじゃない」


 僕に近親相姦の気はない。


 しかし、転生……。


「ここに残ったら僕の人格は消えないんだよな?」

「ん? いや、転生したとしても記憶は残るよ」


 あれ、そうなのか?


「異世界ってそういうもんじゃん」

「知らねぇよ。どこの常識だそれ」

「え? もしかして君知らないの?」


 いや、普通は異世界を知ってるやついないだろ。


「……もしかして君、ラノベとか読まない?」

「キノ○旅なら読んでたけど」

「伏せるとこ間違えてるよ」


 ほっとけ。それで、ラノベがどうかしたのか?


「いや、異世界転生ものって知ってる?」

「……ああ、確かに聞いたことはある」


 転生したらうんたらかんたらみたいなやつ。


「そうそれ。簡単に言えば、そんな感じの異世界。スキルとかジョブはないけど、魔法とか魔物とか」

「スキルって。そんなゲームみたいな」

「そういうジャンルもあるんだよ」


 そうなのか。知らないことばっかりだな。


「私もそうだよ。知ってることだけ」

「何でもは知らないんだな」

「それは読んでるんだ」


 とにかく、僕はその世界を知らない。


「そんな日本人もいるんだねぇ……」

「どんなイメージなんだよ、日本人」

「ヲタクとジャパニーズHENTAI」


 外人かてめーは。


「女神だよ」

「そうだった」

「もう、話をずらさないでよ。で、転生先に希望はある? 種族とか土地とか。性別も変えられるよ」

「そんなのも選べるんだ……転生って緩いな……」

「そんなもんだよ。どうするの?」


 ふぅむ。


「そのままでいいよ。まさか人間がいないなんてのはないよね? 見た目も……できれば今のままで」

「うわ〜、嫌味だな〜。イケメンだからって」


 違う。僕はあくまで自分の身体に慣れているだけだ。生きてるだけで違和感とかごめんだね。


「……そっかそっか。じゃあそのままで」

「ん? なんで急に聞き分けがよくなったんだ?」


 というかさっき、あからさまに『いいこと思い付いちゃった〜!』みたいな顔したよな。


「何で心の中の台詞が分かったの!?」

「マジなのかよ!」


 おい、何をするつもりだ貴様。


「大丈夫大丈夫、見た目は変えないから」

「ならいいけど……」

「じゃ転生するね〜」


 え、早……てか、さっきって──


「またね〜!」


 おい、ちょっ、待っ──


✝ ✝ ✝


「──おい!」


 うわ、声出た。うるせぇ。

 というか僕、自分の声で起きたのか? ……突然一人で叫び出す変な人になってしまった。

 幸い周りには、人っ子一人も犬っころも、メイドコスプレも見当たらなかったけど。


 もう異世界に転生させられたのか? だとしたらここはどこだ。危険な場所じゃないだろうな。


 なんか、薄暗くてじめじめしてる……洞窟か? とにかく風通しの良い場所に行きたい。

 僕がいるのは行き止まりだし、一本道のはずだ。


 ……しかしあの女神、一体何をしたんだろう。歩いてる感じ、確かに見た目が変わってるような気はしないけれど。

 まさか別の人種とかか? だとしたら、というかその程度なら、全然構わないんだけど……お。


「眩し……」


 日光と思われるまばゆい光が見えた。暗順応してる今の僕の目には痛いな……。

 でも、これで外には出れそうだ。異世界の景色はどんな感じなんだろうな──

 意気揚々と、洞窟の外に出た。


「──あっつ!!!!」


 ──燃えた。

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