35日目「距離空間で成り立つ位相的性質」

位相空間(X,O)とは、O⊂P(X)で、

O_1,O_2∈O→O_1∩O_2∈O

∀λ∈Λに対してO_λ∈O→∪(λ∈Λ)O_λ∈O

Ø,X∈P(X)

を満たすようなXとOの組み合わせをいう。また、この時、Oを開集合系、位相、Oの元を開集合、Xを空間という。


これに対し、開集合の補集合のことを閉集合という。


Oとしては様々なXの部分集合が考えられる。O={Ø,X}とおくと(X,O)は位相空間になる。この位相を密着位相という。この空間はすべての点が近くに存在するという極端な状態にある。

O=P(X)と定めると、この空間は各点の近くに何も点がない状態にある。この位相を離散位相という。


距離空間(X,d)とは、d:X×X→Rで∀x,y,z∈Xに対し

d(x,y)=0⇄x=y

d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z)

d(x,y)=d(y,x)

が成り立つことをいう。

この時、dを距離関数、Xを空間という。


距離空間は想像している通り、0以上にしかならない。

0≦d(x,y)

[証明]

d(x,y)≦d(x,y)+d(y,x)=2d(x,y)より、0≦d(x,y)◽︎


擬距離空間(X,d)とは、d:X×X→Rで∀x,y,z∈Xに対し

d(x,x)=0

d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z)

d(x,y)=d(y,x)

が成り立つことをいう。

この時、dを擬距離関数、Xを空間という。

擬距離空間と距離空間の違いはd(x,y)=0→x=yという条件があるかないかの違いである。擬距離関数が0以上にしかならないという証明は距離関数が0以上にしかならないということと同じであるので省略する。


実は擬距離空間は自然な同一視によって距離空間にすることができる。


X上の二項関係~を次のように定める。


d(x,y)=0⇄x~y


この時、x~xが成り立つことが擬距離関数の定義より簡単にわかる。

x~y⇄y~xも定義より簡単にわかる。

x~y,y~z→x~zは少し難しい。0≦d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z)=0+0より、d(x,z)=0が示せた。よってx~zが成り立つ。


X'=X/~と定める。d'を次のように定める。[x]={y∈X:y~x}として、

d'([x],[y])=d(x,y)


定理:

d'はwell-defined

[証明]

d'([x],[y])=d(x,y)、[x]=[z]、[y]=[w]、d'([z],[w])=d(z,w)。

d(z,w)≦d(z,y)+d(y,w)≦d(z,y)≦d(z,x)+d(x,y)=d(x,y)。逆向きの不等式も簡単に示せるのでd(x,y)=d(z,w)が示せた。


定理:

このように構成した(X',d')は距離空間になる

[証明]

d'([x],[y])=0⇄[x]=[y]を示そう

d'([x][y])=d(x,y)=0より、x~yが示せる。同値関係の性質より[x]=[y]。逆に[x]=[y]の時、x~yより、0=d(x,y)=d'([x],[y])。


d'([x],[y])=d(x,y)=d(y,x)=d'([y],[x])が示せた。


d'([x],[z])=d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z)=d'([x],[y])+d'([y],[z])

よって、(X',d')は距離空間になる◽︎


(X,d)をdを距離関数とする距離空間とする。

r>0に対し、B(a;r)={x∈X : d(a,x)<r}と定義する。これをXの点aを中心とした半径rの開球という。

r>0に対し、B[a;r]={x∈X : d(a,x)≦r}と定義する。これをXの点aを中心とした半径rの閉球という。


さて、このような距離空間に自然な位相を導入しよう。開集合のイメージとしては縁が破線として描かれる集合というのが良いだろう。このような集合をAと置く。


Aの縁が破線ということは、どれだけ縁に近い元aを取っても、適切なε∈R>0でB(a;ε)⊆A が成り立つということが保証されていて欲しい。実際少しでも境界が実線で書かれていたら、Aは開集合とは言えなさそうであるし、境界の元を取れば、どんなε∈R>0でもB(a;ε)⊆A は成り立たないことが感覚的にわかる。


つまり、Xの部分集合Aが開集合であるのは次の条件を満たすときに限ると言える。


∀a∈A→∃ε∈R>0,B(a;ε)⊆A


この性質を持つすべてのXの部分集合を集めた(Xの部分集合族)により開集合系Oが定まる。


このOが本当に開集合系なのか実際に証明してみよう。

[証明]

O_1,O_2∈OであればO_1∩O_2∈Oであることを示そう。


a∈O_1∩O_2であった時、∃ε_1,ε_2∈R>0が存在して、B(a,ε_1)⊂O_1、B(a;ε_2)⊂O_2が成り立つ。ε=min{ε_1,ε_2}としたとき、εは自明にR>0に属していて、B(a;ε)⊂B(a;ε_1),B(a;ε_2)が成り立つので、(開球の定義より)B(a;ε)⊂O_1∩O_2が示せた


続いて、Ø,X∈Oを示そう。まず、ØがOに元として含まれるのはOの定義より当たり前である。またX∈OはB(a;r)の定義と距離関数の定義より自明。


最後に、∀λ∈Λに対してO_λ∈O→∪(λ∈Λ)O_λ∈Oを示そう。

a∈∪(λ∈Λ)O_λであれば∃λ'∈Λが存在して、a∈O_λ'が成り立ち、O_λ'∈Oであるので、∃ε∈R>0、B(a;ε)⊂O_λ'⊂∪(λ∈Λ)O_λであり、∪(λ∈Λ)O_λ∈Oが示せた◽︎


この開集合系Oのことを、Xとdの情報を加えてO(X;d)と表記することにしよう。

これ以降、(X,O(X;d))の下で議論を行う。


さて、開球B(a;r)は"開"という名前がついている通り、開集合である。このことを実際に証明してみよう。


定理:

B(a;r)は開集合である

[証明]

∀x∈B(a;r)、ε=r-d(a,x)>0、y∈B(x;ε)、d(x,y)<ε=r-d(a,x)、d(a,x)+d(x,y)<r

d(a,y)<rより、y∈B(a;r)。よってB(x;ε)⊂B(a;r)。つまりB(a;r)は開集合◽︎


同様に閉球も名前の通り閉集合である。


定理:

B[a;r]は閉集合である

[証明]

X\B[a;r]が開集合であることを示せば良い。x∈X\B[a;r]とすると、ε=d(a,x)-r>0が成り立ち、y∈B(x;ε)、d(x,y)<d(a,x)-rより、r+d(x,y)<d(a,x)≦d(a,y)+d(y,x)、r<d(a,y)より、B(x;ε)⊂X\B(a;r)◽︎


これらの定理から様々な距離関数から誘導される位相空間に関する定理が証明できる。


ハウスドルフ性

位相空間(X,O)の相異なる∀a,b∈Xに対し、各元のある近傍U,Vが存在してU∩V=Øが成り立つ。


距離空間はハウスドルフ空間である

距離関数から誘導される位相空間はハウスドルフ空間である。

[証明]

相異なる二元a,b∈Xをとる。ε=d(a,b)/2>0とおく。

B(a;ε)とB(b;ε)は開集合でa,bをそれぞれ含んでいる。

もし、B(a;ε)∩B(b;ε)=Øでないとしたのならば、k∈B(a;ε)∧k∈B(b;ε)となるkが存在する。d(a,k)<d(a,b)/2、d(b,k)<d(a,b)/2、 d(a,b)≦d(a,k)+d(k,b)<d(a,b)が成り立ち、0<0が成立し、これは矛盾している◽︎


ウリゾーン空間

相異なるa,b∈Xに対して、それらを含む閉近傍U,Vが存在し、U∩V=Øが成り立つ。


距離空間はウリゾーンである

相異なるa,b∈Xをとる。B[a;ε]とB[b;ε]をとり、B(a;ε)とB(b;ε)は開集合であるので、B[a;ε]とB[b;ε]は閉近傍。ε=d(a,b)/3>0ととり、k∈B[a;ε]∩B[b;ε]とした時、d(a,k)≦ε、d(b,k)≦ε、3ε=d(a,b)≦2εと、0<ε≦0より矛盾◽︎

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