第37話 喧嘩を売りに来る馬鹿達

 いきなり入って来たカエサル王国の王子達に驚き固まってしまった。


「二人共来たのですね」

「その言い方は少しとげがありませんか? 母上」

「そうだとも。せっかく可愛い妹が帰って来て会いたいと思うのは当然だと思うが」


 そう言いガタイの良い王子様がこちらを見た。

 獲物を見るような目でこちらを見る筋骨隆々の彼は、——クラウディア隊長によると——第二王子『ライナー・カエサル』様。家系の影響なのか母であるグローリア女王陛下と同じ黒い瞳と黒い髪をしている。身長は高く、恐らく俺と同じかちょっと低いくらい。

 そのせいかライナー様の隣にいる、兄で第一王子でもある『オスケル・カエサル』様が低く見える。二人共一般男性よりもかなり背が高いのだが比べるとかなり線が細い。


「お。お前が妹を射止めた男か」


 そう言いライナー様が近づいて来る。

 いきなりのことで緊張し体が動かない。

 ゆっくりとこちらに手を伸ばして、背中——を叩いてきた。


「ハハハハ! これは気に入られるはずだ! 」


 バンバンバンと背中を叩くライナー様。

 痛くはないがいきなりの事で驚き顔を向ける。


「俺はライナー! ライナー・カエサル!!! この国の第二王子である!!! よろしくな、婿むこ殿」

「ライナー。彼が戸惑とまどっているじゃないですか」

「何を言うかオスケル。妹の婿を見定みさだめるのも兄の役目だろ? 」

「確かにそうですがライナー忘れていませんか? 」

「何がだ? 」

「その可愛い妹が一番変人であることを」

「……変人とは言ってくれるじゃないですか。オスケル兄上」

「おっとこれは失言でした。撤回てっかいしましょう。しかしクラウディアに認められる理由はよくわかりますね」


 そう言いながらクラウディア隊長から俺に顔を向けるオスケル様。


まとう覇気が違う」


 お、俺の体から何か出ているのか?!


「私はオスケル。カエサル王国第一王子オスケル・カエサルです。よろしくお願いしますね、婿殿。そして今回はよろしくお願いします。カエサル隊のお嬢様方」


 オスケル様は優雅ゆうがにに礼をして挨拶した。

 だが俺はさっきから気にる事がある。


「隊長」

「何だね? アダマ君」

「俺はいつの間に婿となったのですか? 」

「今、今日、ここで、だ!!! 」


 それを聞き天井をあおぐ。

 隊長の考えが読めない。貴族になることですらイレギュラーなのにいきなり隊長の、王女様の婿?!

 

 嬉しいか嬉しくないかと言われるとそれは嬉しいとも。

 だがしかし何も聞かされていない身としては複雑な気分だ。


「隊長! 馬車の中でも言ったじゃないですか! 抜け駆けはなしって! 」

「そうだぜ、隊長。これはちょっと卑怯ひきょうじゃないか? 」

ちなみにこの国では重婚じゅうこんが認められている。部隊からの知り合いである我々が結婚すれば、やりたい放題だぞ? 色々と」


 何か不穏な言葉が聞こえて来た。

 目線を戻してエリアエルとシグナを見た。


「「認めましょう」」

「素直でよろしい」


 そう言い隊長は彼女達から俺の方へ顔を向ける。


「ということだ。式の日程を考えておけ」

「……俺に拒否権はないのですか? 」

「あるとでも? 」


 がくりと項垂うなだれると隣から大きな手が肩を掴んだ。


「……アダマ。お前は苦労しているんだな」

「助けていただけると嬉しいのですが」

「わりぃな。俺は巻き込まれたくねぇ」

「関わると何が起こるか分かりませんからね。私も静観せいかんと行きましょう」


 皆非情だった。


 ★


 隊長達を何とか説得し結婚話を一旦保留ほりゅうにしてもらった。

 その後食事をとり俺達はこの王城の軍議ぐんぎが行われる作戦会議室に集まった。


「さて諸君。試練の塔についてだが早速明日向かおうと考えている」

「良いと思います」

「元よりその予定でしたしね」

「良いんじゃないか? 」

「もう少しゆっくりして行ってもいいんじゃないか? 」

「そうですね。せっかく帰って来たのですから後数日はゆっくりして行っても良いかと」

「……カエサル王国に日程は伝えているはずですが、それを破れと? 」

「「今更じゃないか (だろ)? 」」


 クラウディアの言葉にオスケル様とライナー様が答える。

 なぜかわからないが王族二人が俺達の作戦会議に加わっている。

 正直な所緊張するから帰ってほしいが、口にするわけにはいかない。


 作戦会議のために俺達は集まったのだが、作戦という作戦の殆どはここに来る途中、馬車の中で立てた。

 よって確認を行っていたのだが、そんな時扉からノックの音が聞こえて来た。


「失礼する。クラウディア王女殿下」


 そう言い入ってきたのは軍服を着たいかつい男性。

 如何いかにも軍人と言う顔をしているが、その後ろに部下と思しき人達が二人ほどついて来てる。


「ベルナー軍務きょうじゃないか」


 ライナー様が立ち上がり近寄る。

 その言葉に気付いて王族二人の方を見て驚いた顔をした。


「ライナー殿下、オスケル殿下まで……。何故ここに? 」

「可愛い妹がせっかっく帰って来たんだ。少しでも長く居たいと思うのは自然な事だろ? 」

「ライナーの言う通りです。帰って来て早々に塔へ行きアルメス王国に戻ろうとする妹と少しでも長く居ようとするのは自然な事と思いますが」


 二人の言葉にぐっと詰まる。


「しかしベルナー軍務卿も何故ここに? 」

「カエサル隊による試練の塔攻略は合同軍事演習のようなもの。なのでカエサル隊の諸君しょくんと打ち合わせをと考えたのですが……」


 チラリと疲れた顔で軍務卿がこちらを見た。

 何故そんな表情をしているのかわからないが、偉い人には偉い人の苦労があるのだろう。


「閣下。やはり納得いきません」

「噂のカエサル隊が女子供の集まりとは。我がカエサル王国の名をかんした部隊がこうも弱々しいと……」


 後ろ二人の言葉に空気が一気に張りつめる。

 そしてベルナー軍務卿の表情が更に疲れたものになった。


「ほほう。言ってくれますね。隊長、ちょっと訓練場をお借りしてもいいでしょうか」

「ダメだ。エリアエルがやると王城ごと更地さらちになりかねん」

ようは私達に実力がないと言いたいんだろ? こいつら。なら私にやらせろよ、隊長」

「ダメだ。カエサル王国の男軍人が全員機能不全になる」


 それを聞きすぐに俺はちぢこまった。


「結局の所そこにいる奴らは全員『一人師団』クラウディア殿下の腰巾着ぎんちゃくというわけか」

「このようなもやし達に「試練の塔踏破」という任務は不可能です。ベルナー軍務卿。やはり我々に塔を登る許可を」


 何かイラっとする言い方だな。

 まぁ喧嘩する程ではないが。


 しかしなるほど。軍務卿はこうなるのを予測していたから疲れた顔をしていたのか。もしかしたらこの展開は予想できたが、回避できなかったのかもしれない。軍務卿も大変である。


 あれこれと言う軍人二人にクラウディア隊長が氷のような表情を向ける。

 初めて見る表情だ。

 これはキレているかもしれない。


「良いだろう。その安い挑発、乗った」

「! 」

「我々は王女殿下に言ったわけではございません! 」


 今になって後ろ二人が慌てふためく。

 今更すぎだろう。

 クラウディア隊長に言ったわけではないと言ってももう遅い。

 精々クラウディア隊長のえさになってくれ。


「分かっているとも。つまり君達は我が部隊の隊員の実力を知りたいんだろ? 」

「「……」」

「手の内を明かすのは不本意だが、仕方ない。明かしても問題ないレベルで相手してやろうじゃないか。アダマ君! 」

「ハッ! 」


 大声で呼ばれ、反射的に席を立ってしまった。


「君が相手をしたまえ。もちろん、死なない程度に手加減しながら、な」

「……悪いが相手をしてやってもらえないだろうか」

かしこまりました」


 クラウディア隊長と軍務卿の言葉を受けて「仕方ない」と思いながらも二人に向く。

 そこには絶望した顔で俺を見上げる顔が二つあった。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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