第35話 いざ中央区へ

 隊長が村長の家で難しい話をしている間、俺は村で木材を運ぶ手伝いをしていた。


「ありがとよ。兄ちゃん」

「こらあんた! 村を助けてもらった人に対してそんな口のき方! 」

「別にかまいませんよ。くだけた口調の方が俺もやりやすいですし」

「ほら本人がこう言ってるんだ。大丈夫だろう」

「全くもう……」


 あきれる奥さんに少し微笑みながらも木材を言われた所へ運ぶ。

 旦那の事をあれこれ言う人だが、俺が微笑んだ瞬間顔に恐怖が混じったのを感じ取った。

 叫ばれないだけマシか、と心の中で苦笑いしながらも思い返す。


 襲撃にあったこの村だがそこまで被害は出なかった。

 襲われ怪我をした人もいたが、ギリギリの所で俺達が間に合ったらしく、死者を出すほどではなかった。

 これは良かったのだが俺達が来る前に抵抗した結果、家や倉庫を壊した家庭があったようで。


 今はその復興ふっこうのお手伝い。

 最初は「助けてもらったのにそのようなことをさせる訳にはいかない」と恐縮していたが、どんどん押していく内に折れて木材の運搬を任された。


 俺が押したのには幾つか理由がある。


 まずざっと見た感じそこまで人手が多い村でもなさそう、ということだ。

 人手が少ないのは恐らく山側の国境だからだろう。アルメス王国と接しているとはいえ他に安全な道がある。よって商人はそこを通り自然とこの村の人口は少なくなっていったのだろう。

 だとすると町との交流は期待できない。軽いとはいえ村からすれば大損害だ。村の貯蓄ちょちくがどれだけあるかはわからないが、町から職人を呼ぶのは厳しそうだ。そして倉庫を放置しておくと使えなくなり更にこの村がすたれるのが簡単に予想できた。


 もう一つは俺のひまつぶしだ。

 クラウディア隊長を始めとした女性陣は今村長の家で事情を聞いている。

 俺には政治の事とかはよくわからない。こうした頭を使うやり取りは彼女達に任せるのが一番だと考えた。

 そして彼女達に任せた結果、手持ち無沙汰ぶさたとなってしまったわけで。

 馬車で休んでいるという手もあったが、俺には他の人達がせっせと働いている中一人が休む度胸どきょうはない。


 よってこうして俺も働いているという訳である。


「ここら辺か」

「お、運んでくれたのか……ってすげぇな! 」

「おいおいまじかよ」

「普通木は五人以上で運ぶのに」

「三つ重ねて持って来てやがる。すげぇな」

「……アルメス王国ってのはこんなにもすげぇのか? 」


 その言葉に「そうでもないですよ」とだけ答えてドスンと置く。

 周りの人達にどよめきが走ったが仕切っている人が声を上げた。


「おめぇ達。せっかくここまでやってくれたんだ。せっせと切るぞ」

「「「おう!!! 」」」


 その一言で村の男達がノコを手に取った。

 ギィギィと切っているのを見て、俺は次の場所へ移ろうとした。

 だが聞き覚えのある声が俺を呼んだ。


「ここにいたか、アダマ君。探したぞ」

「隊長。話は終わったので? 」

「ああ。そのことについて馬車で移動しながら話そうじゃないか」


 ★


 村の人達に挨拶し馬車に乗って南区へと向かう。

 馬車の中で来た時とはまた違う雰囲気がただよっていた。


「まずは今後の予定だ」

「このまま南区へ行くのですよね? 」

「いやそれは取り消し真っすぐ中央区へ向かう」


 それを聞き驚く。

 予定変更?! 何かあったのだろうか?


「村長と話した結果、南区を仕切っている貴族が横領おうりょうをしていると判断した。よって南区を無視し、そのまま中央区の王城へ向かう」

「横領?! 」


 俺の言葉を受けて横に座る隊長が大きく頷いた。


「通常あのような資源の無い村に対し、カエサル王国は補助を行っている」

「補助、ですか」

「ああ。収入が見込めないからな。聞くところによるとあの村の収入源は木材。他の村や区のようにダンジョンがあるわけでもなく大手商会がいる訳でもない。そして人口が多いわけでもないため、村を存続させるにはどうしても補助が必要ということだよ。アダマ君」


 確かに人は少なかったがそこまでとは。

 でその存続に必要なお金を南区の貴族が横取りしていると。

 カエサル王国の内部は中々に黒そうだ。


「でこの私が横領を平気で行っている南区を収める貴族と会いたいと思うかい? 」

「相手を斬りつけてもおかしくないと思います! 」

「……君は私を何だと思っているのだね。確かに斬りつけたいが、君にそう思われるのは不本意だ」


 ならば聞かないでいただきたい!


「まぁ事情はこんなところだ。一応賊について村長に聞いてみたが何も知らないとの事。他の村と恨まれるほどの交流はしていないようだし、今回の一件は人身売買の一つだと推察すいさつした」

「! 」

「驚くのは無理もない。アルメス王国もそうだがカエサル王国でも人身売買は禁じられている。しかし裏でこそこそやっている者も多く取り締まれていないのが現状だ」

「しかしこんな大規模に行うものですか? 」


 隊長にエリアエルが聞く。

 しかし予想外にも隊長は首を横に振った。


「通常は行わない。何せバレて組織ごと捕まるのがオチだからな。相手はよっぽど資金面に困っていたのか、別の理由があったのか、私の推察が間違っているのか……」


 隊長は気になるのか下を向き考え込んでしまった。

 元々農民だった俺にはよくわからないが、とんでもない事が起こっている事だけは分かる。

 後で隊長に詳しく聞こう。


 不本意だがカエサル隊に入ったことで俺は貴族になってしまった。今は大丈夫だが将来の事を考えると無知ゆえの厄介事は勘弁だ。だから勉強はしないといけない。

 そう思うとなんでも教えてくれる隊長に感謝しかないな。


「ん? 何だいアダマ君。私の顔に何かついているかい? 」

「クラウディア隊長」

「? 」

「ありがとうございます」


 ……。


「い、いきなり君は何を言いだすのだね?! 」


 隊長が顔を赤くして戸惑った。

 い、いけない。つい思っていたことが口に出てしまった。

 どうにかして取り繕わないと!


「クラウディア隊長」

「こ、今度は何だ! 」

「今日も美しいですね」

「よし婚姻届けはここにある。都合のいい事に私達は王城へ向かっている。母上に謁見えっけんし次第結婚しよう」

「「それは認めません!!! 」」


 だ、ダメだ。

 いつもと違う可愛いクラウディア隊長を見て、つい口が滑った。


 その後もあれこれはしゃぎながら俺達は中央区へ向かった。

 カエサル王国へ入った時よりも賑やかな雰囲気で入場できたが、疲れがどっと出たのは身から出たさびだろう。

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