第31話 無効化スキル持ちの魔物の脅威

「さて諸君しょくん。昨日あったことを共有しておこう」


 東区から帰り報告書を書き終えた翌日、俺達はクラウディア隊長の作戦会議室に呼ばれていた。

 クラウディア隊長が机の上で手を組んで真面目な話をしようとしている一方、エリアエルとシグナから不満のような雰囲気を感じる。


「隊長」

「何だ。エリアエル。兵舎へいしゃの爆破予告ならば王城へしてくれ。私に言われても困る」

「違います! 昨日隊長がアダマと二人っきりでダンジョン攻略に行ったことです!!! 」


 エリアエルは一歩前に出て大きな声で言った。


「ふむ。何か問題でもあるのかね? エリアエル」

「大ありです! 二人っきりでダンジョン攻略などふしだらだと思います! 」

「いやそんなことないと思うが……」

「アダマは黙っていてください! 」

「……はい」

「つまりエリアエルは私とアダマがダンジョンの中でふしだらなことをしたことを問題視しているのだな? 」

「や、やっぱり隊長がアダマをダンジョンの中に連れ込んでふしだらなことを」

「アダマ君のスキルに護られながらのプレイも中々に良かった」

「ちょっと待ってください! 隊長!!! なにも起こらなかったのに嘘を言わないでください! 」

「ふ、不健全です! 」


 エリアエルがドン引きするような顔で俺を見た。

 ご、誤解だっ!


「まぁそんなことはどうでもいい」

「「よくないですっ!! 」」

「今日はそのふしだらダンジョンであったことについてだ」


 真面目な顔をしてそう言うクラウディア隊長。

 ……スルーしないでください、隊長。


 隊長の説明が始まる。

 当初頭に血が上っているのかエリアエルが食いつきながら話を聞いていたが、どんどんと冷静さを取り戻して聞きに入った。


「隊長の攻撃を無効化する魔物、ですか」

「これはヤバいな」

「まず通常の剣戟は無駄だった。魔法攻撃は試していない。試しておくべきだっただろうが、私は魔法は専門外だからな」

「弱体化魔法をかけて攻撃すれば、どうでしょうか? 」

「わからない。何せ初めて見るタイプだ」


 深刻そうな顔をしていうクラウディア隊長。

 他二人も考え込んでいる。

 魔法攻撃は試していないが、物理は殆どダメだった。

 これが意味するところはシグナの攻撃も無効化される可能性があるということである。


「厄介なのがこのスキル持ちが通常種とほぼ同じということだ」

「? どういうことだ? 」

「そうだなシグナ。例えばこの無効化スキル持ちが集団で襲ってきたらどうなるとおもう? 」

「……倒せず蹂躙じゅうりんされるだけ、だな」

「その通りだ。他の魔物と区別がつかないということは斥候せっこうによる判別の難しさを示しているようなもの。我がカエサル隊にはそれすらもやぶるアダマがいるが他の者はそうでない。早急に対策を考えないとまずいことになる」


 ゴクリと息を飲む音が聞こえた。

 隊長が更に言おうとした時ノックの音が聞こえて来た。

 ムッとしながらも隊長が返事をすると文官服を着た男性が入って来た。

 そして隊長に手紙を渡して帰っていく。


「……全く重要な話をしている時に」

「その手紙も重要かもしれませんよ? 」


 俺の言葉を受けてか隊長がそれを開けた。

 そして露骨ろこつに嫌なものをみたという顔をする。

 なにが書かれていたんだ?

 そう思っていると手紙から目を離し顔を上げて俺達の方を向いた。


「……命令書だ。カエサル王国にある難関ダンジョン『試練の塔』を攻略しろと、な」


 苦虫にがむしみ潰したような顔で隊長は言った。


 ★


「カエサル王国って……」

「あぁ、君が思っていることは正解だろう。我が母国で母上が統治とうちする国だ」

「里帰りですか? 」

「帰りたくないがね」


 今にも手紙を破りそうな雰囲気で隊長は説明する。

 まぁ家出同然どうぜんで出て来たんだ。帰りたくないのは分からないでもない。

 しかしカエサル王国の難関ダンジョンの攻略とはどういうことだろうか。


「我が隊『カエサル隊』が『死者のダンジョン』を攻略したんだ。母上の事だ。部隊の名前から私が何かしらの形でかかわっているのは分かっているだろう」

「それは分かりましたが何故陛下は他国の難関ダンジョンを攻略することを了解したのでしょうか? 」

「……はぁ。母上のことだ王に難癖なんくせ付けて私達を派遣するように詰め寄ったのだろう」


 再度大きく溜息をつく隊長。


「母上は実利じつり追求ついきゅうする人だ。それこそ王族としてのプライドよりも『利』を取る」


 あぁ……、親子だ。

 隊長を見てそう思った。


「……何か失礼なことを考えていないかね? アダマ君」

「そのような事実は御座いません! 」

「まぁ良い。今回の利は、——言わなくてもわかると思うが難関ダンジョンの攻略だ。死者のダンジョンを攻略して起こったこの国の活性化を良く知っているだろ? 」


 そう言われて俺は頷く。


 死者のダンジョンを攻略したことで中央区、ひいてはこの国は活性化した。


 死者のダンジョンは攻略により一般に対して公開された。軍がその出入りを管理しているとはいえ冒険者のみならず大手商会が有している素材調達員のような存在も出入りするようにっている。

 それに応じるかのように商会が中央区の各地で商売を始めて人が集まった。

 聞くところによると他の国からも様々な人が来ているらしく難関ダンジョン攻略による経済効果は計り知れない。


「しかし国の活性化、そして我がカエサル隊の派遣要請ようせいは予想できたことだ。何も動じることはない」

「そう言っている隊長が一番動揺どうようしているように見えますが」

「気のせいだよエリアエル」


 エリアエルからツッコミが入る。

 いつもは余裕たっぷりの隊長がこうも焦るのは珍しい。

 どれだけ帰りたくないのかがよくわかる。


「さて諸君。ここに命令書があるということはもう上層部で我々の出撃は決定しているということだろう」


 隊長は顔を上げて少しこわらせながらも俺達に向く。

 その声はどこか硬い。


「明日出発のようだ」

「「「明日?! 」」」

「……やってくれたよ。差し詰め上層部は私が何かと理由をつけて意地いじでもカエサル王国へ戻らないとでも思ったのだろう。それもあってかカエサル王国いきの馬車は豪華だぞ。喜べ」

「……」

「明日の朝兵舎前にその豪華な馬車を寄越よこすとの事だ。一応我々は軍属。カエサル王国との関係が良好とは言え軍人を送るにはそれなりの理由が必要だ。よって我々は客品きゃくひん扱いになる」

「……なにか大事おおごとになっていませんか? 」

「大事になっているから更に私の気が重いのだよ。アダマ君。しかしもう決まったこと。ごねてもしかたない。さぁ準備を始め給え」

「「「……承知しました」」」


 こうして俺達の初めての外国訪問が決まった。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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