第22話 報告と個人レッスン

「ふふ~ん! 最高でした! 」

「「だろうね (な)……」」


 俺達はほこりまみれになってダンジョンから出た。

 中にいたのは外にいたゴブリンやオーク、そしてオーガのような魔物。それに加えてゴーレムのような強度の高い魔物が多く潜んでいた。

 上機嫌で下山するエリアエルを横目に俺はシグナの方を見る。


「やっぱりダンジョンスタンピードを起こすような数じゃないような気がするんだが」

「……外に出たかったとか? 」

「ゴブリン達をシグナのフェチズムと同じにしてやるな。魔物が可哀そうだ」

「なにをぉ! 」


 怒るシグナを放置して俺は更に下山する。

 確かに魔物は多かった。しかし普通よりも少し多いくらいだ。

 あの量であふれることはないと思うんだが……。


「周りに魔物の気配があるか? 」

「全然だな。ここに来る途中は、確かに村を襲撃するくらいの量はいたがもういないな」

「ならもう安全と言うことか」


 少し納得はいかない。

 根本的な原因解決になっていない気がする。

 しかし結果として脅威きょういは無くなったわけか。


「一先ずダンジョンの事と、周辺の魔物を殲滅せんめつしたことを伝えるか」


 ポツリと呟いて俺は下山した。


 そのまま降りようとするシグナを着替えさせて。


 ★


「なんとダンジョンが! 」


 村長に報告すると驚かれた。

 まぁそうだよな。いきなりだからな。

 加えて周りの魔物を殲滅したことを伝えると更に驚かれた。


 しかし調査が調査でなくなったのはいただけない。

 確かに襲ってきたのを潰して回ったがまさか一日で終わるとは。

 『聖杯を受け継ぐ者』だと調査だけで数日かかる。

 このハイスペックメンバーだからこその荒業あらわざだろう。


「このことを村人に教えても? 」

「ええ。安心させてあげてください」


 村長に言うとすぐさま家を出て行った。

 そして外からどよめきのような声が聞こえてくる。


「流石カエサル隊だ! 」

「お、俺今日アダマさんを見たんだ! 一生の思い出にする! 」

「……今晩泊って行かないかな」


 聞こえてくる言葉に少し危険を感じると、エリアエルが少しむくれたような表情で俺を見て来た。


「人気者ですね。アダマ」

「俺だけじゃないようだが」

「はは。良いじゃないか。注目を浴びるのは」

「それはシグナだけだと思うが」


 そう言い合っている間に村長が戻って来る。

 ダンジョンに関する管理について教えた後俺達は中央区へ帰った。


 ★


「ご苦労、愛する変態達諸君

「俺を変態に入れないでください」

「わたしを変態呼ばわりとは……。いつも思っていましたが不本意です! 」

「私もだ! 単に趣味に全開なだけなのにっ! 」

「「いやシグナは変態だ」」

「ええっ! 」


 驚くシグナに「何を驚く」と思いながらも嘆息し机の方を見る。

 隊長はにこやかにこちらを見ながら口を開いた。


「では報告をしたまえ」


 そう言われたので俺達は報告する。

 俺達の話を聞くと徐々に顔をゆがめていくカエサル隊長。

 そして深刻そうに考え始めた。


「魔物の突然発生か。どうおもう? アダマ君」

「……俺ですか? 」

「この中で一番答えを持っていそうだからな」


 そう言われ少し考える。

 魔物の突然発生、か。

 異常状態なのはよくわかるが……。あ!


「……世界の滅亡」

「「!!! 」」

「やはり君もそこに行き当たるか」


 そう言い隊長は下を向く。

 顔を上げると今までにない真剣な表情を浮かべて俺達に向いた。


「アダマ君が、自称じしょう神様とやらに世界の滅亡について聞いた話によると人為的なものだったらしいな? 」

「ええ」

「ならばこの異常事態も人為的なものと考えるのは至極しごく当然な流れだと思わないかい? 」

「そう言われると否定できませんね」


 だろ? と言いさらに続ける。


「もしかしたらそのダンジョンの自然発生も人為的なものかもしれない。もしかりにこれが邪神教団によるものならば、恐らくその目的はダンジョンを利用した邪神の降臨」


 その言葉にエリアエルとシグナが驚く。

 しかし俺はピンとこない。

 邪神の降臨と言われても何がどうなるのやらさっぱりだ。


「ピンとこない、という表情をしているな。しかし、かく言う私も邪神について詳しくはない。降臨したところで何が起こりどうなるのかはさっぱりだ。ただろくな事にはならないだろう。確か他の隊に専門集団がいたから後で聞くと言い」


 カエサル隊長は更に続けて言う。


「だがこれは単なる推測すいそくの一つだ。彼らが実際にどのような邪神をあがめ、どのように召喚しようとしているのかは、本質的にわからない。調べる必要はあるが、もしダンジョンを人工的に発生させて混乱を引き起こそうとしているのならば、我が隊がやることはたった一つ。ダンジョンを攻略することだけだろう」


 それに大きく頷く。

 結局の所ここに行きつくのだ。


 俺達が納得したところで隊長も満足そうに頷く。

 そしてこの場は一旦解散した。


 ★


「で、なんで俺の部屋にまたいるのですか? 」

「私の部屋は私のもの。君の部屋も私のものだからだ」

「何ですかその理屈りくつは」


 そう言いながら新しく特注で作ってもらった椅子に座る。

 木でできた椅子なのだが座り心地ごこちがとても良い。

 前の椅子は小さくて座れなかったからな。


 椅子の感触を楽しんでいると隊長が「今日来たのは、これだ」と一枚の紙を出す。

 机の上に出されたそれを見て俺はげんなりした。


「また報告書ですか」

「活動ごとに書かないといけないからな。あの場で渡しても良かったのだが一人一人渡して周るのも楽しみの一つなのだよ」


 そう言いながら肘をつく隊長殿。

 微笑みながらそういうのだから本当にそうなのだろう。


 ひじをつき自由気ままろんを話す隊長殿はお姫様には見えない。

 一体どんな英雄だんを読めばこういう人に成長するのだろうか。

 世の中不思議な事でいっぱいである。


「にしても君はまだ報告書に慣れることが出来ないのかね? 」

「そう言われましても……俺、文字の読み書きすらも冒険者になるまでできなかったので、今こうして報告書を書けるのが奇跡的なくらいですよ」

「この国の識字率が低くないはずなのだが……。やはり君の村は一回めた方が良さそうだ」

「不本意ながら俺の名前が英雄に連なりましたので、何もしなくても自分達の首をめているでしょう」

「……自分から復讐したいと思わないのは君が優しいからか、それとも君が人に無関心なのか。私としては「優しいから」であってほしいが……」

「それはどういう意味で? 」

「! ……。単なる独り言だ。気にするな」


 少し顔を赤くしながらこちらに紙を渡してくる。

 そして口角を上げて俺に言った。


「さぁ。不出来な部下との個人レッスンと行こうじゃないか」


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


 面白く感じていただければ、是非とも「フォロー」や目次下部にある「★評価」をぽちっとよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る