第20話 出撃!

「今日も良し! 」


 鏡を見て俺は気合いを入れた。


 朝。軽い運動を終えた俺はこれから出勤。

 今日の仕事は……確か隊長に呼ばれていたっけ。

 黒い軍服を正してかが寝癖ねぐせが無いかチェック。

 この鏡は俺にとって小さすぎる。

 身だしなみをととのえていると高い声が聞こえて来た。


「アダマ。行きますよ」

「……ノックをしてくれ。エリアエル」

「良いじゃないですか。アダマですし」

「はぁ。理由になっていないが今日の所は良いよ。次から気を付けてくれ」


 はいはい、と言いながら彼女の元へ向かう。

 外に出て鍵を閉めるとおそろいの軍服を着た小さなエリアエルと合流した。

 彼女も黒い軍服に身を包んでいるが帽子だけは違うようで。

 帽子は思い入れがあるのか巨大で縦横たてよこに長いそれのまま。


「帽子が変ですか? 」

「いや。ただ前と変えないんだなと思って」


 そう言いながら作戦会議室へ足を向ける。

 エリアエルはテテテと着いてきて答えた。


「この帽子はわたしのアイデンティティのようなものです。換えるなどもってのほかです」


 なるほど。ならば換えるわけにはいかないな。


「悪かったな。あさはかだった」

「いえ。疑問に思うのは当然の事。この帽子の広さはわたしの攻撃範囲の広さを表しているので」


 感心した俺の気持ちを返してくれ。

 歩いていると少し前を黒い影が通りすがる。

 向こうも俺達に気が付いたのか、変態がこちらを向いて向かってきた。


「おうアダマとエリアエルか! 」

「おはよう。変態シグナ

「おはようございます。変態シグナ

「朝から言ってくれるじゃないか」

「いや改造軍服と網タイツで歩かれるとな」

「恥ずかしくないのですか? 」

「むしろ興奮する!!! 」

「「最悪だ」」


 独立ダンジョン攻略部隊は自由だ。

 少なくとも軍服を改造できるくらいには。


 爵位を得た後俺に軍服が支給された。

 俺が特注の軍服を着るようになってエリアエルとシグナも軍服を着るようになった。

 エリアエルは小さめの黒い軍服。これも特注なのだろうけれど普通の領域を超えない。

 問題はシグナだった。

 元より露出癖を垣間見せていた彼女は当然のごとく軍服を改造していた。


「……目のやりどころに困るんだが」

「何でセパレートなのですか……」

「私のいつもの装備を考えれば当然だと思うが? 」


 胸しか隠していない上着をプルンと震わせそう言った。

 確かにそうなのだがせめて軍服で活動する時くらいは周りに合わせて欲しい。

 ダンジョンに向かう時はいつもの装備なのだが、用事がない時は気分転換なのかこうして改造軍服を着ている。


「下着以上に面積の少ないズボンと言うのを初めて見ました」

「見ているこっちが恥ずかしくなる」

「見られて私が興奮する。良い循環だな! 」

「「よくない! 」」


 女性の下着というものを見たことがないが、エリアエルが言うのならばこの面積の少なさは異常なのだろう。

 女冒険者の中でもホットパンツを着ている人はいた。

 だが彼女の軍服はそれ以上に短い。


 そして極めつけは網タイツだ。


 何故それを選んだか前に聞いたが「見られている感じが……んん! 良いんだ! 」と返された。

 やはりこの隊はどこかおかしい。


「シグナの服装に突っ込んでも仕方ありませんね」

「思えば俺が隊に入った時から変質者だった」

「さぁ隊長の所へ行きましょう」


 エリアエルの言葉にムッとするシグナ。

 しかしそれを置いてそのまま俺達は作戦会議室へ向かった。


 ★


「おはよう。我が愛する変態達諸君


 机越しに隊長は言った。

 隊長は今日も得物を狙うかのような笑みを浮かべている。

 ぴっちりとした黒い軍服に身をまとい黒い帽子をかぶった挑発系変態代表クラウディア・カエサル隊長にだけは変態と言われたくない。


「今日集まってもらったのは他でもない」


 いつものようにもったいぶって言う。

 真面目な口調でりんとし大人びた声で理由を伝えるが忘れてはいけない。

 この人は変態代表。

 この後どんな指示を出されるのか分かったもんじゃない。

 心して聞かねば!


「実は君達にある村で起こっている魔物被害を解消してほしいんだ」

「「「? 」」」


 その言葉に俺は首を傾げる。

 魔物被害?

 俺達の仕事ではないような気がする。

 だがまぁ被害があるというのならば助けたいが。


「理由がわからない、といった表情だな。それも無理ない。正直私とて乗り気ではない」

「ということは誰かからの指令ですか? 」


 エリアエルの言葉に隊長は「そうだ」と答える。


「本来私達独立ダンジョン攻略部隊はその名の通りダンジョン攻略を主とする。しかし同時に軍であり、そして国の治安を守る者でもある」

「それは各地に配属された軍人か……魔物退治ならばそれこそ冒険者の仕事のような気がしますが」

「あぁそうだ。そうだとも。もっとももな意見だ。しかし君達にやってもらう理由は幾つかある」


 俺達は顔を見合わせ首を傾げた。


「まずは君達の前代未聞な功績だ」


 それを聞き「あぁ」と天を仰いだ。


「君達はこれまで誰もげることが出来なかった「死者のダンジョンの攻略」を成し遂げた。その話は国中を周り、君達は英雄だ。ならばその英雄殿を見たいと思う国民がいても不思議ではないと思わないかね? 」


 その言葉に最近の事を思い出す。

 俺達の顔は割れているようで外に出てダンジョンに向かうための買い出しも一苦労した。

 シグナは楽しそうだったが、俺とエリアエルはダンジョンに潜るまでにかなりの体力を奪われた。


「わかったみたいだな。国中を行けとは言わないが、時々村を助けるような依頼を受けるのも仕事の一つになってしまったということだ」


 隊長は軽く下を向き大きく溜息をついて、続けた。


「もう一つの理由だが冒険者ギルドの手に余るようなのだ」

「? 」

「どうもこの依頼の発端ほったんはそこにあるらしい」


 冒険者ギルドの手に余る?

 ダンジョン攻略だけでなく魔物退治を専門にしている冒険者ギルドが?


「何度か冒険者ギルドがこの依頼を受けたようだがいずれも失敗。魔物を間引く程度は出来たがまだまだ残っているようだ」

「というと今回の依頼は魔物の殲滅せんめつということですか! 」

「あぁ。残念ながらそうなる」

「分かりました。この戦略級魔導士タクティクス・マギが引き受けましょう! 」

「乗り気で助かるよエリアエル。しかし……シグナ」

「なんだよ。隊長」

「今回はまともな軍服で行け」


 シグナはそれを聞き露骨ろこつに嫌そうな顔をした。


「一応君も英雄の一人だ。英雄が露出狂だとイメージが悪い。主に国の」

「……私からアイデンティティを奪うと? そりゃないぜ。隊長」

「滞在の期間だけでいいんだ。戦闘の時は何も言わない。滞在の期間だけでいいんだ。上層部の気持ちを考えてやってくれ」

「……っち。仕方ねぇな。善処ぜんしょするよ」


 シグナの言葉で隊長は席を立つ。

 そして命じた。


「ではカエサル隊エリアエル・マーリン! シグナ・ルーン! そしてアダマ・タイト! 諸君しょくんに出撃を命じる!!! 」

「「「はっ!!! 」」」


 こうして俺達は目的地へ向かった。

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