追放者サイド 5 カイトの快進撃と伝わる噂

「ははっ。酒がうめぇ」

人界ここのお酒は美味しいね」

「だろ? この食堂ここは俺のお気に入りなんだから当然だ」


 カイトは少し高めの酒を飲みロキに言う。

 彼はぷっくりとした唇にジョッキをつけて静かに置く。

 カイトは「ほら次だ」と彼のジョッキに蜂蜜酒をいでんだ青い瞳を見た。


「ロキが来てから良い事尽くしだぜ」

「それは君が今まで頑張って来たからじゃないかな? ボクが来たからではなくて、やっと君が正当に評価され始めたんじゃないかな? 」

「そうか、そう思うか! 」


 ははっ! と短く笑いながら更に機嫌を良くするカイト。

 雪のような薄く青い髪の彼は注がれた蜂蜜酒を更に飲んだ。


 豪快ごうかいなカイトに上品なロキ。

 もしも「貴族子息はどちらか」といういがあれば間違いなくロキが指名されるだろう。


「でもよかったね。ランクも順調に戻りつつあるのは」

「そうだな。借金も返済できたし、武器も新調できた。今までの不調は何だって感じだ」

「さぁ? 前の事はよく知らないから原因はわからないや」


 ロキはそう言いサクリとフォークで肉を突きさす。

 ゆっくりと口に入れてもぐもぐ食べる。


 ロキが来てからまずカイトはダンジョンに潜った。

 なにをするにしても金はいる。

 一先ずそれを説明しロキも反対せずに彼について行った。

 そこからカイトの幸運は始まった。


 まずは金だ。

 金が、しかも大金が落ちていた。

 いつもならばそのまま酒か女につぎ込むのだが、その日に限って何故かその気は起きず借金を返済した。

 全て返済できたわけではないがそれでも半分以上を消すことができた。

 これにギルド職員は「誰かを奇襲して奪ったのではないか? 」と疑い調べたが、それに関しては白。

 続く彼の幸運によって借金は返済されるのであった。


「今の記録は二十五階層だっけ? 」

「あぁ。今俺達がいるところだ」


 そっかとだけ返してロキは更に食事をとる。


 ダンジョン内でのロキの仕事は「何でもすること」。


 軽装で斥候せっこうを思わせる装備をしているが、盾役に魔法使いに斥候に剣士にと何でも行う。

 盾役の時は回避盾のように動きカイトが倒されそうになると『硬化』と『範囲防御』で彼を守る。

 カイトが前に出ようとすると彼は下がり魔化が施された短剣ダガーを触媒にして『魔法: 中級』で援護する。

 また斥候として働くときはカイトを抑えて先に回り罠を感知する。


 こうしてロキはカイトの補佐を完全にこなすことでカイトの調子を戻したのだが、カイトはそれを感じ取っていない。

 むしろこれが当たり前であり自分の実力であると思っている。

 ロキはロキでそれを不快に思っている様子はなく、ただニコニコと笑みを浮かべているだけ。

 他からすればこの二人の関係は気味が悪いかもしれないが、ともあれ彼らはこうして現在の踏破記録である二十五階層に辿り着いたのであった。


「で今度はどうするの? 」

「ん? そうだな。先を目指そうかと——「おいおい聞いたかよ」、……なんだ? 」


 食堂に大きな声が響く。

 言葉をさえぎられ少し不機嫌な顔をしながらその男の方を見る。

 男はどこか興奮しているようだ。

 顔が赤く友人に語り掛けている。


「『死者のダンジョン』が踏破されたらしいぞ! 」

「!!! 」


 それに驚きカイトは立つ。

 ロキは瞳を大きく開けて男達を見た。

 男の友人はカイト達に気付かずに「誰がやったんだ? 」と聞いた。


「独立ダンジョン攻略部隊だそうだ」

「なんだと?! 」


 カイトが大きな声を上げて男を見た。

 しかし男はカイトに気付かない。

 それは同じように男に話掛ける冒険者達が詰め寄ったからだ。


「その独立なんとかっていうやつ、なに? 」

「あ、あぁ……。そうか。ロキは知らないんだな」


 ロキの声で落ち着きカイトは座る。

 騒がしくなっている周りに負けじとロキはいつもよりも大きな声でカイトに聞く。


「ボク冒険者初めてだからね。加えるのならこの国も初めてだから知らない事が多いんだ。もしかしてその何とかってやつはこの国の常識だったりする? 」

「いやそんなことはない。最近できた……、そう。この国のダンジョン専門の攻略部隊みたいなものだ」

「へぇ。だけどそれだと冒険者と同じだよね。何が違うの? 」

「色々と違うが……。そうだな国直属の部隊になるというのが違う。もっと現金な話になるとダンジョンを攻略した時の配分はいぶんが全然違う。だから行く阿保あほなんてほとんどいねぇ」


 へぇ、と瞳を細くしながらロキはカイトの話を聞いた。

 少し雰囲気の変わったロキに気付かずカイトはカイトで気になった。


 (確か俺があの野郎を放り込んだばかりだったが。まさか……な。あいつに何かできるはずがねぇ)


 トトトトと貧乏びんぼうゆすりをして不安を消そうとするカイト。

 しかしカイトの不安は的中する。


「でよ。その踏破した奴ってのがカエサル隊の『アダマ・タイト』男爵らしいぜ! 」

「「「おおおー!!! 」」」

「しかもこの区出身のやつだ。覚えてるか? あの背の高ぇやつだ」

「覚えてるぞ! 」

「俺は助けられたことがある! 」

「え、あの人男爵になったの?! 」

「……私昔から好きだったのよね。なんでいなくなったのかわからないけど」


 バン!!!


 思わずカイトが机を叩いた。

 彼の顔から尋常ではない汗が出ている。

 その異常な様子に周りが静かになる。

 が彼は気付かない。


「ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない……」

「そういやこいつの……」


 男はそう言いかけた所でやめた。


 人柄ひとがらの良かったアダマとは真逆でカイトの印象はすこぶる悪い。

 最近復調ふくちょうしてきたとはいえ今まで被害を受けていた冒険者や店の人達からすれば触れたくない相手。

 周りが見えていないカイトとは相対的に状況を察したロキは彼に手をやった。

 少し光ったかと思うとカイトは崩れ落ち寝息ねいきを立てていた.


「リーダーが済まないね。彼も疲れたみたいだしボク達はそろそろおいとまするよ」


 そう言いロキはカイトを持ち上げる。

 が肩にかけず荷物を持つように抱えお金を支払いロキは店を出た。


 ★


「カイト。これからどうする? 」


 宿に戻りロキはカイトを寝転がした。

 カイトが起きるとロキが聞いた。


「……これから中央区へ行く」

「中央区? 」

「あんなの嘘に決まっている。この目で噂とやらを確かめてやる! 」


 そう言い早速準備を始めるカイト。

 ロキはそれを面白そうに只々ただただニコニコ笑顔を作っていた。

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