第19話 晩餐と密会

 パツンパツンの服を着て俺は一人晩餐ばんさんに出ていた。

 魔法の光で照らされている広い部屋に多くの貴族達が会話をしている。

 見たことのない光景だ。


 良い匂いがただよう中チラリとエリアエルやシグナに目をやった。

 体の小さなエリアエルは貴族の子供らしき人に声をかけられている。

 最初エリアエルは顔を引きらせながら話しているが、途中怒り貴族服を着た子供達がっていった。


 なにを言われたんだろうか?


 何か言われたくらいで起こらなくてもと思いながらもどこかホッとした。

 彼女を見ていると少し大股おおまたで近づいて来た。


「全く。失礼な子供達です」

「何を言われたんだ? 」

「わたしが成人していることを知って「年増としま」と言いました。これだから常識のない子は」


 確かに女性に「年増」は禁句きんくだ。

 彼女が怒るのも当然だろう。


「不毛なのでわたしのことは置いておきましょう。しかしシグナは……」

「何か大変なことになっているな」


 と遠い目でシグナに近寄ろうとしている貴族達を見た。


「この中で服を着ればまともなシグナなはずなのですが」

「彼らは彼女に危険を感じているのかもしれないな」


 近寄ろうとするが近寄れない。

 モサモサと食事をとる彼女を見る貴族達からそんな雰囲気を感じる。

 今は食事に夢中なようだ。


「にしても驚きましたね。隊長の事」

「エリアエル達は知らなかったのか? 」

「言ってなかったからな」


 声が聞こえ振り向くとそこには深紅のドレスに身をまとったカエサル隊長がいた。

 ドレスは赤いがアクセントとして黒が入っている。

 どこまで行っても黒が好きな隊長殿のようだ。


「む。私のドレス姿にれ直したか? 」

「まず惚れていないので惚れ直すという表現は不適切だと思います」

「言ってくれるじゃないか。今度の勉強会はきつくしないといけないな」

「勉強会って何ですか?! 聞いてませんが! 」

「いやなに。アダマ君が報告書を書くのが苦手と言うのでね。ちょっと手ほどきをしているまでだ。それとも何かね? 私とアダマ君が共にいると何か不都合でもあるのかね? 」

「そ、そのようなことはありませんが……」


 どんどんとエリアエルがしぼんでいく。

 それを満足そうに見る隊長。

 初めて会った時から「もしかして」と思っていたが、この人はサディストではないだろうか。


「しかし何でまた王女様がこんな……このようなところに? 」

「いつも通りの言葉使いで構わない。その言葉使いは好まない」

「はぁ」

「でだ。先程の質問に答えるのならば、もうすでに君には理由を話していると思うが? 」


 そう言われて思い返す。

 しかし記憶にない。

 どこかでチラリと言ったのだろうか。


「やれやれ。こんな記憶力だと今後報告書を書く時に困るぞ」

「申し訳ありません」

「何の話をしているんだ? 」


 カエサル隊長に話を聞いているとシグナがやって来た。

 手に持つ皿の上には肉や野菜が山盛りだ。

 彼女は一体どれだけ食べれば気が済むのだろうか?


「私が何故ここで軍人をしているか、と言う話だ」

「それは興味あるな」

「では話そう。と言っても簡単な話だ」


 そう言いカエサル隊長は俺達全体を見渡した。

 そして口を開く。


「王国内に戦い甲斐がいのある奴がいなかったからだ!!! 」

「「「……」」」

「英雄にあこがれる私は弱い奴らに絶望して家出同然でこの国へ来た。そして丁度独立ダンジョン攻略部隊の話があったから入っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 堂々と言うカエサル隊長に俺達は冷たい目線を送る。


 ……。


 カエサル隊長はお姫様であっても、カエサル隊長だった。

 普通はそんな理由で国を離れない。

 しかしまぁそのおかげでこのメンバーに会えたわけだし文句は言えない。


 結局の所カエサル隊長の面々に声をかける勇気のある貴族は現れず、俺達主賓しゅひんは壁のシミとなった。

 そして晩餐も終わり今日は解散となるのであった。


 ★


「クラウディア姫。この報告書は本当かな? 」

「さて。私が直接戦ったわけではないので判断しかねます。しかしタイト卿は嘘をつけるような人物ではありません。個人的な感情は抜きにして信じるにあたいすると思います」


 晩餐が終わった王城の一室。

 そこにはクラウディア・カエサルと王、宰相、そして王子がそれぞれ顔を合わせていた。

 同じ机に着く彼らの手元には複写ふくしゃされた報告書が数枚。

 そこに書かれているのは『死者のダンジョン』に関する内容であった。


「神託の巫女の事が無ければ一笑いっしょうす内容だが……。これは無視できんな」

「神託? 」


 クラウディアは王の言葉にまゆひそめる。

 王も大きく溜息をつきながら宰相に向いて「隠しきれん。良いな? 」と聞いた。

 宰相もそれに頷き、王が確認するとクラウディアに顔を向ける。


「独立ダンジョン攻略部隊ができる前。教会の本山で修業中の巫女に神託が降りたそうだ」

「いきなりの神託で本山は大慌てになったらしいですよ。クラウディア姫」

「……聞いてないのだが」

「独立ダンジョン攻略部隊ができる直前の出来事だ。恐らくクラウディア姫がこちらに来ている間の出来事。よって知らされていないのも無理はない」


 疲れた表情で王が言い、続けた。


「内容は「近い将来この世界に滅亡が訪れる」というもの」

「そこら辺の貴族が言うのとは重みが違います」

「何せ受けたのは『神託の巫女』。当時各国に緊張が走りました」


 王子と宰相が補足ほそくする。

 クラウディアはあごに手をやりながら三人に聞いた。


「……滅亡にそなえて独立ダンジョン攻略部隊を作った、と? 」

「その通りだ。他の国も、名前は違うが似たような組織を作っている」

「しかし何故ダンジョンなのでしょうか? 」

「最も可能性が高いからだ」


 クラウディアの質問に王が答える。

 そして「なるほど」と頷き納得した。


 ダンジョンは多くの魔物を輩出はいしゅつする。

 それを倒し素材にして経済を回しているのがダンジョン都市国家になる。

 だが攻略が進んでいないダンジョンはどうなっているのか。

 答えは単純である。


 攻略が進んでいないダンジョンでは間引きがされない。

 どんどんと魔物が発生し、彼らは外に出ようとする。

 その中には変異種もいるだろう。

 強力な魔物が発生し、外に出て、大きな被害につながるということだ。


「神託の巫女のみならず神々が直接動き出した。これは由々ゆゆしき事態である」

早急そうきゅう軍備ぐんびととのえないといけませんね」

「最近は邪神教団の活動が活発になっていると聞く」

「邪神教団を潰しつつ、世界を滅ぼすほどのダンジョン大規模災害を抑える。クラウディア姫」


 呼ばれたクラウディアは王に向く。


「死者のダンジョンを踏破した彼らを率いて世界を救え」

「……簡単に言ってくれる」


 誰も知らない間に対策会議は進んでいく。

 会議は朝まで続いたようだ。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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