第16話 邪神教団とは

 カエサル隊長の提案を俺が必死に拒否をする。

 俺の必死さが届いたのか残念そうな顔して隊長は引き下がった。

 そしてエリアエルも残念そうな顔をしていたのだが何故だろうか。


「話しを戻しましょう」

「……仕方がない」


 カエサル隊長はどすっと腰を降ろして腕を組んで胸を押し上げる。


「で隊長」

「何だ? 私のスリーサイズか? 」

「違います。なんで俺の復活は信じられないのに世界滅亡は信じられるのですか? 」

「……私のスリーサイズよりもその話か。まぁいい。理由は簡単。世界滅亡や世界破壊を目的とした組織・集団はどこの国にもいるからだ」

「いてたまりますか! 」

「いるのだからしからない。と言っても規模は小さく表にあまり出ない。邪神教団に世界再生委員会など沢山たくさんある。奴らの活動が成功するとは微塵みじんにも思わないが、君の死と再生よりかは信じられる」


 それに、と隊長は続けた。


「最近邪神教団の活動が活発化していると聞いている。ならば世界滅亡、とまではいかなくてもそれにじゅんずる騒ぎが起こっても不思議ではない」


 今までにない隊長の真面目さに俺達は息を飲む。

 そんな集団がいたのか。

 世界滅亡を目論もくろむ組織。


「と言っても水面下で、だ。どこに潜みどこで活動してるのかわからない。もしかしたら国がダンジョン攻略に積極的なのはそう言った組織の活性化があるのかもしれないな。ま、結局の所私達に出来るのはダンジョンを攻略することしかないが」


 そう言い隊長は席を立つ。

 エリアエルとシグナが立ったので俺も立った。


「一先ずお疲れ様。アダマ。君への爵位授与及び家名については後程伝える」

「はっ! 」

「なお今回の功績は多大なものになる。功労こうろう者として臨時給料や魔道具を幾つか回してもらえるように手を回そう」

「ありがとうございます! 」

「では解散! 」

「「「お疲れさまでした! 」」」


 解散の言葉で俺達は分かれた。


 ★


「戻って来たのですね。お疲れさまでした。二重の意味で」

「帰りました。もう一つの意味が気になりますが、聞かないでおきましょう」


 俺達が兵舎へいしゃに入るとこの前案内してくれた受付の人が迎えてくれた。


「帰ったぞ」

「帰りましたよ」

「シグナとエリアエルもお帰りなさい。どうでした? 部隊として初めてのダンジョン攻略は? 」


 彼女が聞くとエリアエルが少し胸を張って「大満足でした」と言った。


「あそこは一体一体が強く、しかも集団で襲ってきますからね。エリアエルの得意分野でしょう」

「その通りです! 迫りくる魔物を範囲魔法で殲滅せんめつ。これ以上ない快感かいかんでした! 」


 受付の武官は「それはよかった」と言い、シグナに話を振った。


「私としても斬りがいがあったな。エリアエルの魔法に巻き込まれても無傷で済むし、何よりそこのアダマも大活躍だ」

「アダマさんが、ですか? 確か盾役だったと思うのですが」


 不思議そうにちょこんと顔を横に傾け俺に聞く。

 手のうちというほどの事でもないので俺の戦い方を教えた。


「なるほど。しかし普通の盾役はそのようなことしませんね」

「というよりも盾役は盾を持つものだと私は付け加えよう」

「そもそもおかしいのです。拳一つで敵に向かって行くとかマゾですか。アダマはマゾなのですか? 」

「違う」


 俺を変態と言う枠組みに入れようとする二人の言葉を否定した。

 はぁと溜息をつきながらも「これで」といい自分の部屋に上がろうとする。

 だが受付の人が上がる俺を一旦止めて教えてくれた。


「この兵舎の一階奥にお風呂があります。もしよかったら入って行ってください」

「そんなものまであるのか」

「場所はここから反対側。おけ矢印やじるしの看板がしてあります。それに従って向かうとそこにあります。あと……必要な物は各部屋にまとめてありますので、それをもっていってくださいね」

「ありがとう。後で行ってみるよ」


 そう言い俺はその場を後にし今度こそ自分の部屋に上がっていった。


「長かった」


 荷物を降ろしてベットに腰掛ける。


 広い部屋に大きな男。その男がぽつんとベットに座って独りごとを言うという状況。

 この光景を他の人が見たらさぞさみしい雰囲気に見えるだろう。

 自分で考え悲しくなってきた。


「そう言えば冒険者だった時から一人だったな。今更気にする必要もないか」


 返事とは返ってこないものなのだ。

 ダンジョンを攻略していた時が自分の人生で一番会話をしていたかもしれない。


「そう言えば時間間隔かんかくがおかしい気がするが……気のせいか? 」


 俺は数え切れない時間を神界で過ごした。

 俺の感覚が本格的におかしくなっているのだろうか?


 むむむ?


 よくよく考えるとあれだけ長くダンジョンに潜っていたのだ。

 カエサル隊長が言う「遅かった」の範疇はんちゅうを超えている気がする。

 ……気のせいか?

 いやもしかしたらあの死神の分体があのダンジョンを何か操作したのかもしれない。

 そう考える方がわかりやすい。


「結局の所神様のてのひらの上ということか」


 とだけ呟いてベットから立ち上がる。

 確かお風呂が使えるということだったよな?

 ならば行かない手はない。


 ぬので体をくのではない。本格的な風呂だ。貴族が入るような風呂だったらどうしようか、と少しドキドキしながら準備をする。

 準備を終えたら部屋を出て、そのまま一階に降り、風呂を探した。


 ★


 一階へ降りて出口とは違う方向へ向かう。

 少し歩くと看板のような物が見えた。


「見たことのない看板だ」


 しかし恐らくこれが浴場へ道を示す看板なのだろう。

 丸い桶に矢印が書かれた看板。

 受付の人に聞いた通りである。

 矢印の方向へ足を向ける。

 途中まで煉瓦レンガ状の建物よろしく硬い感触が床からしていたが、途中から少し柔らかくなった。


「木、か? 」


 途中で気が付き驚きながら進む。

 ここに来て初めての事ばかりだが、まさか木と煉瓦レンガを合わせた建物とは。

 何を目的としてこうしているのかわからない。

 誰かのこだわりなのだろうか?

 案外カエサル隊長だったりして。


 そうおもいながらも進む。すると一つの大きな扉に着いた。


「ここか」


 桶の看板がそこにあった。


 入り口は一つしかなくこれ以外に見当たらない。


 少し緊張してきた。

 だがここまで来てせっかくの機会を逃すわけにはいかない。

 いや隊員だからまたいつでも来れるのか?


 そう思いながらも入り口に入る。

 広い部屋が視界に広がった。

 少し行き周りを見ると木製のたなを見つけた。


「ここに置け、ということか」


 棚の中には幾つものかごが置いてある。

 恐らくこの中に服を入れるのだろう。

 そう思い服を脱ぎ中に入れる。


 よし。入るか。


 意気込んで扉を押す。

 大きく一歩を踏み入れて、湯気立つ中を少し歩くと——


「え……」

「ん? アダマか」


 そこにはエリアエルとシグナが立っていた。

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