第9話 死者のダンジョン 3 エリアエル・マーリンという魔法使い
「し、死者のダンジョンを
シグナが現実を知って
彼女に理由を説明する。
「フロアボスを倒しても帰還用の転移魔法陣は出なかった。なら途中で帰還できるとは思えない」
「だが普通なら途中で魔法陣が出てくるかもしれないじゃないか。それを探せば——」
「可能性は少ないだろう。無駄に探して体力を消耗するくらいなら先に進んだ方が良い」
俺の言葉を聞いてシグナは「だが、しかし」と呟いている。
通常ならば現れる帰還用の転移魔法陣が現れなかった。
これだけでも異常である。
ならばこのダンジョンに置いて「普通」を期待しないほうが良い。
この現象が『死者のダンジョン』特有のものかはわからない。
だが前にスケルトン・ジェネラルを倒したパーティーが帰還していることを考えると、ダンジョン特有と言うよりかはランダムに発生するイレギュラーの可能性があるな。
「ふざけるな! 」
シグナがいきなり怒鳴った。
何事かと思い考えを中断し彼女を見る。
すると彼女が近寄って来た。
「なんで私達の時に限ってこんなことになる! 」
異常状態にパニックになっているのだろう。
ぶつけようのない怒りを俺に向けて来た。
……俺の責任だ。
俺の試練に付き合わせてしまったがために。
「シグナ。らしくありませんよ」
俺が顔を
彼女の方を見ると「やれやれ」と言った表情でこちらを見ていた。
「死者のダンジョンの踏破。良いじゃないですか」
「……エリアエル何現実的でない事を言っている! 誰もこの下に潜ったことがないのだぞ! 」
「忘れたのですかシグナ。ここには独立ダンジョン攻略部隊最強のメンバーが
エリアエルはそう言い顔を上げて全体を見た。
そして俺達を指で
「独立ダンジョン攻略部隊最速の『シグナ・ルーン』、最硬の『アダマ』。そして最高火力のこのわたし『エリアエル・マーリン』がいるのです! 踏破できない理由はありません」
そう言われてシグナが詰まる。
シグナは俺の方に向いて、少し気まずそうに「すまなかった」と言った。
パニック状態からシグナが戻って来たようだ。
流石にパニック状態のまま攻略を進めることができるとおもう程俺は
彼女に
「さ、行きましょう。わたしの火力を持って最短で進んでみせます」
「それは頼もしい」
頼れる小さな体を見ながら俺は下に降りた。
★
十一階層。
「ここから先は本当に未知だ。なにが来るかわからな——「押しつぶされろ! 土雪崩!!! 」」
俺が注意しようとしているとエリアエルが開口一番魔法をぶっ放した。
そしてそれは崩れるように奥へと流れ全てを飲み込んだ。
「次に行きましょう」
「「……」」
魔物を確認する間もなく戦闘が終わった。
十五階層。
「凍てつけ!
「「……」」
レッサー・リッチにスペクターと
「
そしてその一言で全てが砕け
魔法に
しかし先が見えない状態でこのペースで使うとは。
何だろうか。確かにエリアエルは非常識なまでに魔法を叩きこむ人だと思う。
ハイテンションな所からも彼女が魔法を打ち込むことを楽しんでいるのがよくわかる。
しかし同時に彼女からどこか焦りのようなものが感じ取れる。
「エリアエル。ハイペース過ぎやしないか? 」
「そのようなことはありません。さぁ次へ行きましょう」
こうして俺達は魔石を拾いながら先に進んだ。
★
十六階層へ降りた頃、エリアエルはと言うと……。
(わたしは、わたしが必要であることを証明しなければなりません)
エリアエルは一人決意を胸に進んでいた。
彼女の先に見えるは多くの魔物。
他のダンジョンならば一体一体がフロアボスを張れるような魔物だ。
だがゾンビの群れの時のようには多くない。
敵を確認し彼女は魔杖を
「
瞬間超高温な炎が立ち上がり魔物を蒸発させる。
流石にフロアボス級の魔物とあってか炎から逃れるものが出てくる。
それをアダマが一体一体潰して行っている。
炎との距離が短いせいかシグナは前に出ていない。
エリアエルの近くで護衛のようなことをし魔物が周りから来ないか警戒していた。
(アダマのおかげでダンジョンに潜れた。カエサル隊の解体も逃れることが出来た。それは認めましょう。しかしこのパーティーで最高火力はわたしです! その
「
強化された彼女の力によって
彼女はシグナと受付の話を聞いていた。
隊が解散されたら自分は役立たずとして解雇されていただろうことも聞いていた。
よって彼女は自分の存在感を示す良い機会だと考えた。
それゆえのハイペース。
敵を一体でも多く、そしてド派手に
少なくとも仲間二人がドン引きするぐらいには。
内心彼女は微笑む中、その時は十九階層でやって来た。
(! 魔力がっ! )
視界がぼやけふらつくエリアエル。
その
(まずい)
エリアエルは思わず瞳を閉じる。
「エリアエル!!! 」
瞬間体に衝撃が走り吹き飛ばされた。
痛む体を起こし抗議の声を上げようとするが——
そこにいたのは血塗れのアダマだった。
★
「間に合った」
「ま、間に合ったじゃありません!!! ア、アダマから血が! 」
白と赤の変な魔物に拳で穴を空けてエリアエルに向く。
「詰めが甘い。極撃! 」
まだ生きていたようだ。
再度魔物の方へ顔をやり今度こそ完全に息絶えたのを確認する。
魔物の活動停止を確認しないとは俺も油断していたようだ。
シグナに礼を言いエリアエルに顔を向ける。
彼女に近付き手を差し伸べた。
「いきなり吹き飛ばしてすまなかったな」
「そ、そんなことよりも傷がっ! 」
「ん? あぁ。久しぶりに傷がついたな。だが女の子に傷がつくよりかはマシだろう」
「!!! 」
そう言うと顔を
どうしたものかと思いながらも手を引っ込めようとするとエリアエルが手を取った。
彼女を引き上げ「さて。ボス戦と行こうか」と前を向く。
「……アダマは
「? 何か言ったか? 」
「何でもありません!!! さぁ行きましょう!!! 」
よくは分からないが彼女は大丈夫そうだ。
開いた二十階層への階段を下り、門の前まで行った。
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